暗部の一夏君   作:猫林13世

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同レベルの人間がいないと鬱になるとか……


天才の悩み

 ハッキング事件から暫く、IS学園ではデータの保管に対して厳重なロックを掛ける事で対応する事になっていた。ハッカーが狙っていたデータは、主に碧に対するデータであるという事を真耶が突き止めた為、碧に関するデータを保管してる更識家にも注意喚起されていたのだ。

 

「まったく、何で碧さんのデータを狙ったのかしら……」

 

「碧さんのデータを得られれば、そこから更識の秘密に迫れるとでも思ったんじゃないですか?」

 

「ありえそうね……でも、さすが真耶さんよね。数日でそこまで調べがつくなんて」

 

 

 元代表候補生である山田真耶と面識のある刀奈は、感心したように頷く。だが一夏と虚は刀奈ほど楽観視していなかった。

 

「IS学園のデータ保管状況は調べがついてますが、犯人を特定するような情報はまだ掴めてないらしいですね」

 

「ああ、犯人なら何となく分かってますので、そこまで心配する必要は無いですよ」

 

「そうなの? で、誰誰?」

 

「……おそらくですが、篠ノ之束博士だと思います」

 

 

 一夏の発言に、刀奈と虚が息を呑んだ。可能性は一番高い束だったが、刀奈も虚も束がそんな事をする必要があるのかどうかが分からないのだ。

 

「何で篠ノ之博士がIS学園のデータを……碧さんのデータなんて欲するの? あの人は他人に興味が無いんでしょ?」

 

「だからおそらく、と言いました。あの人は碧さんのデータから俺に繋がる何かを掴もうとしたのでしょう」

 

「一夏さんの? ですが、篠ノ之博士は一夏さんがISを造れる事も、コアを造れる事も、ISを動かせる事も知っているのですよね?」

 

「あの人は、俺がその三つの秘密――正確には更識楯無である事も秘密ですので、四つですが……その全てを知っています。ですが証拠がありませんので、世間に公表しようとしても誰も信じてくれない可能性が高いんです。だから、碧さんのデータから俺に繋がる何かを掴もうとしたんだと思います」

 

「そんな事をして、篠ノ之博士に何の得があるっていうの?」

 

 

 刀奈が抱いた疑問は、当然のものだと言える。確かに束が一夏の事を世間に公表したからといって、束に何かしらの利益があるとは思えない。更に言えば、そんな事をすれば一夏から嫌われる可能性が高いのに、束がそんな暴挙に出るとも考えにくい。

 だが一夏は、刀奈の疑問に対する答えを持ち合わせていた。

 

「あの人は俺に執心ですからね……俺の事を世界的に認めさせて楽しもうとか思ってるんじゃないですか? 織斑姉妹が知り得ない情報を私は知っている、とか何とか考えている可能性もありますが……」

 

「つまり、愉快犯であると?」

 

「俺が何回かあの人と話した感じからして、その可能性が一番高いと思いますよ」

 

「それだと、更識のデータも狙われるんじゃない? 呑気にお話ししてる場合じゃないと思うんだけど……」

 

 

 一夏の憶測を聞いて、刀奈は少し焦った様子で一夏に問いかける。だが一夏は、首を左右に振って心配する必要は無いと刀奈に伝えた。

 

「既に手は打ってあります。簪に手伝ってもらって、更識のデータバンクに外部から侵入しようとしたサーバーを攻撃するプログラムを組んであります。篠ノ之束相手にどれだけ効果があるか分かりませんが、プログラムが作動さえしてくれれば相手にカウンタークラックを仕掛けられますから」

 

「それって、中学生が組めるプログラムなの?」

 

「簪も、こっち方面の方が得意ですからね。相談したら喜んで協力してくれました」

 

 

 得意不得意ではなく、簪は一夏に頼まれたから手伝ったのだが、その真意は一夏には伝わっていなかった。

 

「じゃあとりあえずは安心して良いのね?」

 

「さぁ? 篠ノ之束の技術がどの程度かにもよりますし、別の方法で証拠を集めようとされたら意味がありませんし」

 

「そこは、嘘でも大丈夫って言うところでしょー! せっかく安心出来ると思ったのにー」

 

「安心してる場合じゃないでしょうが。そろそろモンド・グロッソが近いんですから、刀奈さんには常に緊張感を持ってもらわないと……」

 

「あ、簪ちゃんだ! おーい、簪ちゃーん!」

 

 

 一夏の小言が始まるのを察知した刀奈は、遠くに見つけた簪目掛けてかけ出して行った。

 

「やれやれ……」

 

「一夏さんも大変ですね」

 

 

 残された一夏と虚は、あからさまな態度を見せた刀奈に苦笑いを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 篠ノ之束はどうにかして一夏が隠している秘密の確証を得ようと試行錯誤していた。比較的なんでも思うように出来ていた束にとって、これが初めての苦戦かもしれない。

 

「さすがいっくんだよ~、このカウンタープログラムは解除に相当な時間が掛かるし、そんな事してる間にこっちが攻撃されちゃうし……うーん、困ったな~」

 

 

 束自身は一夏の秘密を全て知っているのだが、それには証拠が無い。一夏本人から事実であると確認したからといって、それを世界が信じるとは限らない。

 

「これだから阿呆共は嫌になっちゃんだよね……天才束さんの言う事が嘘なわけ無いだろうに……でも、有象無象に束さんの事を理解しろって言う方が無理なんだよね~」

 

 

 幼いころから高みに存在していた束は、その他大勢の人間を見下す傾向がある。だが、それは天才故の悩みでもあり、そんな束を初めて理解してくれたのが織斑姉弟だったのだ。

 

「ちーちゃんもなっちゃんも凄かったけど、いっくんはまだ幼稚園児だったのに」

 

 

 天才の片鱗をその頃から見せていた一夏が、今ではIS製造におけるトップに君臨しているのだ。束としては、何としてもこの事実を世間に知らしめたいのだ。

 

「でも、いっくんに危害が及ぶ可能性もあるんだよなー……これだから有象無象は……」

 

 

 高い技術力を独占したいと考える人間の心理を、束は理解出来ない。だから一夏を狙おうと計画している人間たちの事もまた、束は理解出来ないのだった。




鬱状態の束さんもみてみたいような気も……

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