暗部の一夏君   作:猫林13世

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疲れても仕方ないスケジュールですしね……


疲労困憊の一夏

 何とかルール変更を終わらせた一夏と刀奈は、生徒会室で突っ伏していた。もちろん、これだけで疲れ果てるはずがないのだが、一夏は蓄積されていた疲労がピークに達し、刀奈はその一夏の真似をして突っ伏しているだけである。

 

「一夏君、疲れたならお姉ちゃんがおんぶしてあげるけど?」

 

「俺と刀奈さんの身長差を考えたら、おんぶというより引きずられているようにしか見えないと思いますが」

 

「うぅ……どうせ私は小さいですよーだ!」

 

「女の子なんて、そんなものじゃないんですか? ウチの駄姉たちがデカいだけだと思いますが」

 

「あの二人は本当に羨ましい身体よね……背は大きいし、胸も大きいのにお腹は引っ込んでるし」

 

「プロポーションは兎も角として、他が残念ですから」

 

 

 興味なさげに切り捨てて、一夏は気合を入れて身体を起こす。ここで寝ても良いが、そのうち心配した美紀が生徒会室にやって来て、刀奈の姿を見て大騒ぎをし、簪や虚が刀奈を叱り始める光景が簡単に想像できたので、それに巻き込まれる苦労を避けるために気合いを入れたのだ。

 

「さて、刀奈さんはまだ動けますよね?」

 

「まぁね。一夏君程疲労は蓄積してないし、これでも現役の国家代表だもの」

 

「では、休むのは部屋に戻ってからにしましょう。ここで休むと、後程お説教が待っているでしょうしね」

 

「怒られるのはイヤよ……特に、簪ちゃんに怒られるのは姉としての威厳が……」

 

「少し体力の回復を図ってから戻りたいところですが、このままだと本当に寝てしまいそうなので多少無理をしてでも部屋に戻らないといけません」

 

「一夏君、そこまで疲れてるの?」

 

 

 刀奈としては、一夏がそこまで無理をしていた事に気付けなかった自分を責めたいところだが、今はそんなことをしてる暇は無い。一夏がそこまで疲れているなどという事は、刀奈の記憶の中でもそうあることではないのだ。

 

「アメリカへの警戒、事後処理、そしてイベントのルール変更と、ここ数日まともに寝てませんからね」

 

「今すぐ寝なさい! なんだったら、本当におんぶしてあげるから」

 

「そこまでしてもらわなくても大丈夫ですよ。この通りしっかりと歩けますから」

 

 

 明らかにふらついているが、不思議と物にぶつかることは無く一夏は生徒会室から廊下に出ることが出来た。

 

「ほら、大丈夫でしょう?」

 

「見てるこっちがハラハラするわね……闇鴉、一夏君を支えてあげてちょうだい」

 

「かしこまりました。さぁ、一夏様」

 

「この時ばかりは闇鴉が羨ましいわ……」

 

 

 闇鴉の背は、虚よりも大きいため、一夏に肩を貸すくらいは楽勝である。そんな二人(?)の背中を見ながら、刀奈は自分の身長を恨めしく思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇鴉に支えられながら部屋に戻ってきた一夏を見て、美紀は顔を蒼くして詰め寄ってきた。

 

「どうかなさったのですか!?」

 

「ただの寝不足だ。支えてもらわなくても大丈夫だったんだが、刀奈さんが心配してな」

 

「刀奈さんの背では互いに負担がかかるということで、私が一夏さんに肩をお貸ししました」

 

「そうでしたか……それでは、可及的速やかに寝てください。今のところ急ぎの仕事は無いのですから」

 

「急に寝ろと言われてもな……」

 

「一夏様は寝ろと言われて寝るお方ではありませんからね」

 

 

 闇鴉に皮肉を言われた一夏は、顔を顰めながらも反論はしなかった。実際に寝ろと言われても簡単に寝られるわけではない、という事は一夏も理解しているからである。

 

「とりあえずベッドに寝転がるだけでも違いますから、寝間着に着替えて横になってください」

 

「だが、まだ外は暗くないぞ? こんな時間から寝るわけにも……」

 

「何日もまともに寝ていないんですから、今から一夏さんが寝たところで誰も文句は言いません。いえ、私が言わせません!」

 

「そ、そうか……」

 

 

 美紀の剣幕に思わずうなずいてしまった一夏は、とりあえず着替えるためにクローゼットを開け寝間着を取り出す。

 

「本当ならお風呂に入ってからと言いたいところですが、一夏さんはお風呂ギライですものね」

 

「今入ったところで、そこで寝るかもしれないぞ」

 

「そんなことになったら、織斑姉妹に襲われてしまいますね、性的な意味で」

 

「否定したいがあの姉だからな……否定出来ない」

 

 

 言った美紀も言われた一夏も苦笑いを浮かべ、その間に一夏は着替えを済ませた。

 

「夕食は私が食堂からこの部屋に持ってきますので、一夏様は存分にお休みくださいませ」

 

「お前が? 何か混ぜるつもりじゃないだろうな」

 

「失礼な! 精々睡眠薬を混ぜるくらいしか考えてませんよ」

 

「混ぜてるじゃねぇかよ」

 

「あら、本当ですね」

 

 

 悪びれた様子もない闇鴉に、一夏は心底疲れ切った表情を浮かべたのだった。

 

「まぁまぁ、一夏様に盛ったところで効果は薄いですから、気にせずに」

 

「そんな簡単に流して良い事じゃないと思うがな……」

 

「一夏さん、余計な気苦労は背負いこまない方が良いですよ」

 

「そうしたいが、立場がそれを許してくれないからな……」

 

 

 虚が生徒会を引退した今、一夏がしっかりと刀奈の監視もしなければいけない。また気苦労が増えたと、一夏は心の中でため息を吐いて、休むために目を瞑ったのだった。




闇鴉が楽しそうですね……

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