箒が生徒会室から出て行き、気配が完全に遠ざかったのを確認してから、一夏は刀奈と虚に視線を向ける。
「どう思いましたか?」
「フラッシュバックでもあったのかしら? でもまぁ、完全に過去を思い出したわけではなさそうだったわね」
「一応監視をつけますか?」
「いや、それは大丈夫だと思いますし、何かあればサイレント・ゼフィルスから報告があるでしょうしね」
「そうですね。私に報告が来ると思いますよ」
「だから、いきなり人の姿になるのは止めろ……」
したり顔で会話に割り込んできた闇鴉に、一夏は頭を抱えながらテンプレになりつつあるツッコミを入れた。
「まぁ、闇鴉が言った通り、篠ノ之に異変があればサイレント・ゼフィルスから闇鴉に報告が行きますし、このようにすぐ人の姿になって報告してくれるでしょうし」
「まぁ、思い出したらすぐにでも織斑姉妹が篠ノ之さんを処分するでしょうしね」
「これ以上面倒事を起こしてほしくないんですがね……」
「敵の銃火器を謎のオブジェクトにしてましたしね……」
一夏と虚が頭を抱えている反面、刀奈と本音はその光景を思い出して笑い出した。
「敵の表情は最高に面白かったけどね」
「あんなの、織斑姉妹にしか出来ないですもんね~」
「誰も彼も出来たら困るだろうが……」
本音に疲れ切ったツッコミを入れてから、一夏は今回IS学園が負った被害報告に目を通し、盛大にため息を吐いた。
「ほぼ無傷で済んだが、織斑姉妹が敵を吹き飛ばした時の風圧で窓ガラスが大量に破壊されたと……」
「どうしますか?」
「後で簪と相談して、更識の予算で出せれば良いですが……織斑姉妹の給料を削ろうとしても反発するだけでしょうしね……」
「そもそも、何で更識が負担しなきゃいけないの?」
「俺があの二人の血縁だからじゃないでしょうか……甚だ不本意ですがね」
本気で不本意だと言いたげな表情で呟く一夏を見て、三人と一機はそろって笑い出す。
「笑い事じゃないんですが……」
「まぁ、血縁はいくら否定しても切れないからね。まぁ、最悪ちょっとずつ織斑姉妹の給料を減らして回収しておけばいいしね」
「いっそのことIS学園の経営も更識が仕切ります?」
「そうなったらまず学長と織斑姉妹は切り捨てますかね」
「これ以上一夏君が忙しくなったら大変だし、止めておいた方が良いんじゃない?」
「まぁ、冗談ですからね」
もう一度ため息を吐いてから、一夏は残りの仕事を片付けるために手を動かし続けたのだった。
敵の訊問を終えた織斑姉妹と束は、自分たちを監視していたナターシャに視線を向けた。
「お前如きが我々の監視とはな……まぁ、暴れるつもりは無いからそこまで気を張る必要は無いぞ」
「そもそも、敵はすべて片付け終わったから、監視に必要も無いだろ」
「てか、お前誰だよ」
問題児三人に睨まれて、ナターシャは居心地の悪さを感じていた。IS界のレジェンドとも言われている三人ではあるが、その実態はダメ人間だと一夏に聞かされている。実際この数時間で一夏の言っている事が事実だと思い知らされたのだった。
「ちーちゃん、なっちゃん。こいつらどうするの?」
「一夏が判断すると思うが、一人くらいいなくなったところで問題ないと思うぞ」
「じゃあ、解剖とかしても良いのかな? バカが何を考えているのか、解剖して調べてみたいし」
「お前なら解剖しなくても分かるんじゃないか?」
「どういう事?」
「「お前はバカだって事だ」」
「酷いっ!? 束さんはバカじゃないよ! そういうちーちゃんやなっちゃんの方がおバカさんじゃないの? 散々いっくんに怒られてるのに反省しないし」
「そんな事ないだろ!」
「そうだぞ! お前ほどバカな事はしていない!」
「(全員怒られてるのに、何故反省しないのかしら……)」
ナターシャもこの数ヶ月IS学園で生活していたので、織斑姉妹の問題行為は知っているし、篠ノ之束が大天災と呼ばれる理由もある程度理解出来た。だがIS界のレジェンドをダメ人間と言い切る度胸は無かった。だがこのやり取りだけ見ても、一夏が問題児と表現した理由がはっきりと分かった気がしていた。
「あんまりひどいと、一夏さんに報告するしかなくなるんですが」
「「「それは困る!!」」」
「……だったら大人しく一夏さんに訊問の結果を報告して、その後の指示を仰げば如何でしょうか?」
「よし! 今すぐ生徒会室に報告に行くぞ!」
「一夏に褒めてもらえるかもしれないからな!」
ナターシャの言葉に弾かれたように生徒会室に走り出した織斑姉妹を見送り、束はナターシャに視線を向けていた。
「お前はいっくんの味方なんだな」
「私は一夏さんに救ってもらいましたから」
「もしいっくんを裏切ったら束さんがこの世の果てまで追いかけて殺すから、そのつもりで」
「大丈夫ですよ。それよりも、貴方がたの方が、一夏さんに怒られそうですけど」
「慣れてるから問題ないよ」
「慣れてるって……慣れる事じゃないと思いますが……」
「お前には分からないだろうけど、いっくんに怒られるのは堪らなく快感なんだよ~」
分かりたくもないと言いたげなナターシャの視線を受けて、束は双子を追いかけるように生徒会室に向かったのだった。
怒られるのに慣れるって……やっぱり駄目だ、この大人たち