暗部の一夏君   作:猫林13世

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一人で悩むとろくな結果にならないですしね……


箒の相談

 生徒会室で雑務を片付けていた一夏は、この部屋に近寄るはずのない気配が近づいてきたのを察知し首を傾げた。その仕草に他の生徒会メンバーは首を傾げたくなったが、すぐに気配の主に気が付いて警戒心をあらわにした。

 

「そこまで警戒する必要は無いと思いますけど……」

 

 

 その警戒心に一夏が苦笑いを浮かべると、刀奈と虚は一夏に詰め寄り警戒の必要性を説いた。

 

「だって、完全に信用出来ない以上、警戒するのは当然よ。ましてや彼女は一夏君に手を挙げる可能性があるんだから」

 

「そうですよ。一夏さんだって、気にしてるから首を傾げたのですよね」

 

「いや、俺はたんに珍しい事もあるものだと思っただけですよ。まぁ、シャルからの報告で、戦闘中に不審な動きは見られなかったけど、何か悩んでる様子だったという事は聞いていますから、恐らく相談があるのではないでしょうか」

 

「ほえ~。さすがいっちー、抜かりなく情報収集してたんだね~」

 

 

 唯一警戒心の欠片も感じられない本音ではあるが、これでも気配に対して警戒しているのだ。本音にとって相性のいい相手なので、彼女の対応は本音がした方が良いと自分でも理解しているのだろう。

 

『失礼します。一夏様はこちらにいらっしゃるでしょうか?』

 

「開いているのでどうぞ。そこまで畏まる必要も無いんですがね」

 

『い、いえ! し、失礼します』

 

 

 普段縁のない場所なので緊張しているのか、それともこの場にいる人間に緊張しているのか分からない態度で、生徒会室にやって来たのは、気配通り篠ノ之箒だった。

 

「いらっしゃい、箒ちゃん。まぁ座りなさいよ」

 

「刀奈さん、そこまで威圧する必要は無いですよ」

 

「どうぞ、お茶です」

 

 

 箒の前にお茶を置く虚の仕草も、どことなく威圧的だと一夏は感じており、右手で頭を掻いて苦笑いを浮かべる。自分の事を心配してくれていると分かるからこそ、あまり強く言えないのだ。

 

「それで、わざわざ生徒会室まで来たという事は、かなり悩んでいるという事ですかね?」

 

「何故それを……いえ、一夏様ならそれくらいは当然ですか」

 

「常に警戒しておかないと安心出来ない立場ですからね。それで、先ほどの戦闘で過去の記憶でも見ましたか?」

 

「は、はい……喜々として敵を追いかける自分を見たような気がします……あれが記憶を失う前の私なのでしょうか?」

 

「過去からは逃げられない、という事ですね……篠ノ之さんが思ったように、恐らくはその光景は篠ノ之さんが実際に体験した事でしょう。貴女は亡国機業の穏健派のメンバーを追い回し、そして手にかけた過去がありますから」

 

「手にかけた、という事はつまり……」

 

「サイレント・ゼフィルスの記録はフォーマットしましたし、篠ノ之さんが覚えているわけはないのですがね。人の記憶とは面白いものですね……あっ、いえ楽しんでるわけではありませんのでそんなに睨まなくても」

 

「あっ……」

 

 

 無意識に睨んでいたのかと、箒は視線を一夏から逸らした。一夏の方も不謹慎だったと頭を下げ、改めて箒に過去の説明をすることにした。

 

「調べればわかることですから話しますけど、貴女は人を殺めた過去があります。それも一人や二人ではなく、相当数」

 

「それが、過去の私の罪なのですよね……薄々は気づいていましたし、自分がやったという感覚はありませんが、サイレント・ゼフィルスを動かしたときに、そんな光景を見た、気がしました……」

 

「自分がしてきたことだという実感は持てないでしょうが、それが貴女の過去です。本来であれば貴女は国際裁判に掛けられる事をした、という話は前にしたと思いますが」

 

「えぇ。それ相応の事はしたんだろうという事は聞いてましたし、もしかしたらという考えはありましたが……そうでしたか」

 

「今後はどうしたいですか? その記憶と付き合って行けそうですか?」

 

「付き合っていくしかないのですし、その罪を償う為にも、私は覚えておかなければいけないのだと思います」

 

「そうですか……では、サイレント・ゼフィルスはそのまま篠ノ之さんが保有していてください。罪を償うつもりがあるのであれば、その子は絶対に貴女に必要ですから」

 

「良いんでしょうか……」

 

「大丈夫よ。その子は既に更識所属として扱えることになってるから。何処の国も文句は言えないし、一夏君がしっかりと調整してくれてるから暴走する事もないわ。もちろん、一夏君に手出ししようとした時点で、私たちが貴女を裁きますので、そのつもりで」

 

 

 最後に刀奈に殺気を浴びせられて、箒は自分の立場を再認識させられた。自分はまだ信頼されておらず、警戒されて当然の悪人であるという事実を。

 

「まぁ、何もなければ箒ちゃんも自由にISを動かせるんだし、残りの学生生活を楽しみなさい」

 

「散々脅しておいて、最後に先輩らしい事を言うんですね」

 

「これでも生徒会長だもの」

 

「殆どお飾りの、ですけどね」

 

「ちょっと!?」

 

 

 先ほどまでの雰囲気が嘘だったのではないかと思うくらい、生徒会室の空気が一変したため、箒はどう反応していいかに困り、とりあえず引き攣った笑みを浮かべたのだった。




大人しく済めばいいですが……

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