暗部の一夏君   作:猫林13世

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ズレているのも仕方のないこと……


一夏の金銭感覚

 訊問など後始末は織斑姉妹に任せ、一夏は各国の専用機持ちたちにお礼とねぎらいの言葉をかけていた。

 

「皆さんが手伝ってくれたお陰で、こちらの被害は最小限に止める事が出来ました。この程度なら修繕にも時間はかかりません。本当にありがとうございました」

 

「一夏さんが指示してくれたお陰で、私たちも実戦経験を積むことが出来たのですから、そこまでお礼を言われることではありませんわ。それに、私たちの学園を守るのですから、このくらい当然ですわ」

 

「まぁ、一夏が指示してくれなかったらあたしたちは好き勝手に動いてたでしょうから、これ以上の被害が出てたのは間違いないけどね」

 

「ところで、篠ノ之さんはどちらに? 皆さんと一緒だと聞いていたのですが」

 

 

 この場に箒がいない事が気になった一夏は、辺りを見回しながら問いかける。

 

「箒さんでしたら、篠ノ之博士に用があるという事で先ほど別れましたわ」

 

「束さんに……?」

 

「一夏でも何の用事だか分からないの?」

 

「それほど親しいわけじゃないからな……何かあれば連絡が来るだろうから心配はしてないが」

 

「ところで一夏、今回あたしたちに報酬ってあるの?」

 

「報酬? そうだな……一人十万くらいでいいか?」

 

「そ、そこまでの額を貰う事をしてないわよ!?」

 

「そうか?」

 

「一夏って普通の高校生の金銭感覚してないからね……十万もあったらしばらく遊んでいられるわよ」

 

 

 ここにいるメンバーも普通の高校生の金銭感覚ではないのだが、それ以上に一夏はズレている。

 

「今度何か奢ってくれればそれでいいわよ」

 

「すまんな……他の人もそれでいいか?」

 

「構いませんわ。私もそこまで貰う事をしたとは思ってませんし」

 

「私もです、お兄ちゃん。十万など貰っても、使い道が分かりませんので」

 

「僕もそんなに貰っても使い道が無いしね」

 

 

 他のメンバーも一夏が提示した金額に戦き首を横に振っている。一夏は自分のズレを自覚し、とりあえず報酬の件は後日という事でこの場は解散にした。

 

「ねぇ一夏、さっきちらっと見たんだけど、箒の様子がおかしかったのよね。確認しておいた方が良いと思うわよ」

 

「篠ノ之さんの様子が? 分かった、一応気に掛けておく」

 

「お願いね」

 

 

 鈴も一夏の側を去り、一夏は腕組をしながら部屋まで歩く。途中で誰かとぶつかりそうになり漸く意識を現実に向けた。

 

「あぁ、ナターシャさんでしたか」

 

「珍しいですね、一夏さんがここまで接近しても気づかなかったなんて」

 

「ちょっと考え事をしてましてね……それで、何か用事ですか?」

 

「織斑姉妹の訊問が見ていられない程残酷だったので逃げてきたんです。これでも元アメリカ軍所属ですから」

 

「かつての上司が締め上げられるのは見ていられませんか」

 

「そんなところね」

 

 

 苦笑いを浮かべながら肯定するナターシャに、一夏も苦笑いを浮かべた。

 

「そういえばナターシャさんは今後どうするか考えていますか?」

 

「どうするって?」

 

「アメリカに戻って、軍の再編成を手伝うか、このままIS学園に残り教鞭を振るうか、ですよ」

 

 

 一夏に言われてからようやくナターシャは今後の事を考えるに至った。

 

「私としては、アメリカ軍の再編成や経済の立て直しは更識企業に一任した方が早いと思いますし、このままIS学園に残って指導したいと思っています」

 

「そうですか。まぁ、ナターシャさんにやる気が無いのならアメリカ軍の事はこちらで終わらせておきます」

 

「やる気がないわけじゃないですけど……ここに残ってアメリカが立ち直った時に若い子たちに指導出来たらと考えているんですよ」

 

「それは良い考えですね……アメリカもそのうち立て直しが出来るでしょうから、その後はナターシャさんやスコールたちにアメリカの事を任せられるのはありがたいですね」

 

「あの人たちもアメリカで働かせるんですか?」

 

 

 一夏が口にした名前に、ナターシャは顔を顰める。元亡国機業の人間を再建に使うなど考えられないのだろう。

 

「出来るだけ破壊せずに侵攻したとはいえ、それなりに被害が出てるので、アイツらに片づけや瓦礫の撤去などを手伝わせて禊とする予定なんですよ。さすがに防衛に手を貸してもらっただけで過去の罪を清算とするのは無理があるので」

 

「そこまで考えているんですね……本当に一夏さんは高校生っぽくないです」

 

「まぁ、高校生やってるのは、そっちの方が護衛しやすいからという理由なんですけどね」

 

 

 そもそも一夏はIS学園に通わずともIS業界のトップに君臨しているのだ。今更学ぶことなど殆どない。

 

「その学園内に危険が多かったとは思ってもみなかったですけどね」

 

「ダリル・ケイシーさんね……まぁ、それ以外にも織斑姉妹や篠ノ之さんのように一夏さんの過去を知ってる人たちも危険だったらしいしね」

 

「まぁ、それ以外にもいろいろと会ったんですけどね……」

 

 

 過去を懐かしむような目をしてみせる一夏に、ナターシャは笑いをこらえるのに苦労していた。

 

「よく言わてるかもしれないけど、本当に高校生なの?」

 

「よく言われてますが、本当に高校生です」

 

 

 言われ慣れているからこその返事に、ナターシャはつい噴き出してしまったのだった。




ポケットマネーでそれだけ出せる高校生って……

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