暗部の一夏君   作:猫林13世

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将なのかは微妙ですが……


敗軍の将

 アメリカ軍壊滅の報せは、政治的中枢にも既に知らされている。アメリカが喧嘩を売ったのはIS学園だが、そこには世界最強の双子や更識の重役が揃っているので、これでアメリカのIS発展の未来は閉ざされたと言っても過言ではない。

 

「これほどまでに力の差があるとは……やはり日本は全世界を支配しようとしているのか」

 

 

 かつての敗戦国と侮ったつもりは無かった。むしろ最大限の警戒を持って今回の作戦を実行したはずなのに、一日もたずに敗戦したのだ。アメリカ大統領がそう思っても仕方ないのかもしれない。

 

「そんなつまらない事をするわけないでしょうが、大統領様?」

 

「何者だ!」

 

 

 誰もいなかったはずの部屋で呟いた独り言に返事があった事に驚きながらも、その事を表情に出さずに声の主を探した。

 

「敗軍の将である貴方を捕らえに来たものだと分かってるはずですよね?」

 

「更識の人間か」

 

「お初にお目に掛かります、大統領。IS学園生徒会所属、及び更識企業の代表を務めております、更識一夏です」

 

 

 以後お見知りおきを、と続けなかったのは、これから先一夏が自分と会うつもりが無いという意思表示だろと大統領は思った。

 

「敵軍の大将がわざわざ出迎えに来るとはね。だが、今ここで貴様を殺せば、そちらの指揮系統は崩れるという事だと理解していないのか?」

 

「俺一人殺したところで、この状況は変わりません。というか、貴方如きがこの俺を殺せるのですか? 貴方が引き金を引く前に、俺は貴方を殺せるのですがね」

 

 

 一夏から放射された、一切の容赦のない殺気に、大統領は懐に突っ込んでいた手を上にあげ、降参を示した。

 

「さて、では碧さん。その敗軍の将を拘束して、後は任せます」

 

「かしこまりました、一夏様」

 

「……その呼び方、堅苦しいから止めてくれませんかね」

 

「だって、私は一夏さんの従者なのですから、普段が馴れ馴れしすぎるのだと思いますが?」

 

「……分かっててやってるでしょ」

 

 

 ついさっきまでの緊張感が一気に霧散し、一夏はため息を吐いて部屋から姿を消した。一方の碧も、大統領を拘束し、更識の人間に引き渡して一夏の後を追ったのだった。

 

「バカバカしい……更識に喧嘩を売ればどうなるか、分かっていたはずなのにな」

 

 

 残された大統領は、自分の身がどうなるか察して、盛大に笑いながら悪態を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園でアメリカの動きを覗き見していた束は、一夏たちが大統領を捕らえたのを千冬たちに知らせた。

 

「つまり、アメリカは終わりという事か」

 

「まぁ、アメリカって国は無くなるだろうね。それこそ、いっくんが一国の主になりかねない勢いだよ」

 

「一夏帝国か……悪くない響きだ」

 

 

 本人が聞けば激怒するだろう事を平然と言ってのける千夏に、誰一人ツッコミを入れる事は無かった。むしろ他の二人もノリノリで千夏の意見を支持しているのだ。世界最強の双子に大天災、この三人にツッコミを入れられる猛者は、残念ながら今のIS学園には誰一人いないのだ。一夏と碧はアメリカにいるのだから、例え誰か一人で会ったとしても、ツッコめる人はいない。そんなことを思いながら、真耶は三人の浮かれっぷりからこの戦争が終わったのだと察した。

 

「本当に、更識君が戦争を終わらせたんですね……」

 

「あの子はいろいろと常識の範囲内にいない子だと聞いていましたが、ほんとだったんですね」

 

「これで、ナターシャさんも晴れてIS学園で教鞭を振るえるわけですね、期待しています」

 

 

 元々教師として匿われていたのだが、表立って指導するわけにはいかなかったナターシャが、これで誰に遠慮するわけでもなく教鞭を振るえると、真耶は自分の苦労が減ると考えているようだった。

 

「私なんかが加わっても、貴女の苦労が減るとは思えないけど?」

 

「実力者が加わってくれるのは、ありがたい事ですよ」

 

「おい真耶!」

 

「は、はぃ!?」

 

 

 突如千冬に名前を呼ばれ、真耶は全身が硬直した錯覚に陥り、背筋を伸ばしてようやく返事をした。その態度を不審に思いながらも、千冬は細かい事にツッコミは入れずに自分の用件だけを告げた。

 

「ここの警戒はお前に任せる、私と千夏、そして束は周辺を見回ってくることになった」

 

「それは更識君からの指示ですか?」

 

「いや、私たちの判断だ」

 

「……良いんですか? 勝手に持ち場を動いてしまっても」

 

 

 真耶は千冬たちが自発的に警戒を強めるとは思っていなかった。だから見回りと称してどこかで酒盛りでもするのではないかと疑っている。

 

「もう敵もほとんどいないんだ。私たちがこの場を動いたからといって、悪い状況に陥るとも思えんだろ」

 

「ですが、最後まで任された事を全うして漸く更識君に褒められるんだと思いますよ? ここで持ち場を動いたら、せっかくの勝利だというのにお説教、なんて事になりかねませんが」

 

「……仕方ないな。それじゃあ、お前も来い。それで同罪だ」

 

「嫌ですよ! そもそも、後一日くらい我慢出来ないんですか」

 

 

 事後処理などはまだかかるだろうが、この状態が終わるのには一日も掛からないだろうと真耶は考えている。だから後一日くらい我慢出来ないのかとツッコミを入れたのだが、視線の先には誰もいなかったのだった。

 

「……どうなっても知りませんからね」

 

 

 戦況がひっくり返る事はまずありえないが、千冬たちが一夏に怒られる事になっても関与しないと心に決め、真耶は周辺の警戒に当たるのだった。




分かってたなら止めればいいのに……

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