侵攻開始から二時間、報告される戦果は芳しくないものばかりで、アメリカ軍総司令部では何とかして戦況を打開できないものか話し合いがもたれていた。
「まるでこちらの動きが読まれているような配置に、いつの間にか乗っ取られたシステム、そして迎撃だけで攻め込んでこないところを見るに、更識に情報を掴まれていた可能性が高いだろうな」
「だが、秘密裡に進めていたんだ。いくら更識とはいえこちらの動きを掴めるはずがない」
「歩兵部隊だって普通の観光客を装って入国させ、武器だって貿易船に紛れ込ませたんだ。こちらを疑っていなければまずバレる事は無かったはずだ」
最初から疑われたいたし、束や一夏に監視されていたのだが、アメリカ軍総司令部の面々はそんなことを思ってもみなかったのだ。
「とにかく、現状を打開するにはどうすればいい」
「いっそのこと歩兵部隊に爆薬を持たせ、自爆テロを起こさせればいいんじゃないか? 歩兵ならいくら死のうがこちらには問題ないだろ」
「だが、そこまでの忠誠心が奴らにあるだろうか」
「国の為に死ねる名誉を与えるとでも言えば納得するだろ。急ぎ爆弾を用意しろ」
実に下種な話し合いが行われているのを、束は監視衛星から覗き見しており、その情報を一夏に報告したのだった。
束からの連絡で、一切の容赦をする必要は無いと判断した一夏は、まず司令部から潰す事を決めた。
「――今お聞きいただいた通り、彼らには情状酌量の余地すらありません。手加減の必要はありませんので、気のすむまで暴れてください」
「殺しても構わねぇのか?」
「いや、精々半殺し程度で。彼らには死すら生ぬるい地獄を味わっていただくので」
「それじゃあ、こっちは任せてちょうだい。一夏たちはIS基地に向かうのかしら?」
「亡国機業から流れた元倉持技研の研究者が、ISの意識を封じて動かしているようですからね。せっかくですし、その技術を盗み見してから捕らえます」
「相変わらず人が悪いわね、一夏は……それじゃあ、こっちは好きにやらせてもらうわね」
元亡国機業の四人に総司令部への攻撃を任せ、刀奈たちを引きつれた一夏はIS基地へと乗り込む。一夏はそのような技術が無くともISを強制停止させることが可能だが、意識を封じ込めている技術を見学し、解除方法を編み出すのだと全員が理解しているので口は出さなかったのだ。
「一夏さん、ナターシャさんからの報告では、IS学園を狙った部隊はほぼ壊滅。残った戦闘員は壊走した模様です」
「深追いはしないように指示を出してくれ。くれぐれも暴れないようにと、織斑姉妹に釘を刺しておくのも忘れずに頼む」
「了解しました」
美紀からもたらされた報告に素早く返事をして、必要以上に被害を出さないよう配慮する。織斑姉妹が本気で暴れれば、日本が焦土と化すのも時間の問題だと一夏は思っている。今回壊滅させるべきは日本ではなくアメリカなので、日本の領土で織斑姉妹を暴れさせるのは避けなければならないのだ。
「しかし、先ほどの軍司令部の話し合いを聞くに、アメリカの全ての人間が戦争を望んでいたわけではなさそうですね」
「でも、アメリカ軍のトップや政治のトップが望んでたのは間違いないんでしょ? そうじゃなきゃ攻め込むなんてこと出来ないだろうし」
「まぁ、後程大統領を締め上げて背後関係を探れば、誰が望んだ戦争なのかは分かるでしょうね。国民を蔑ろにして勝手に落ちぶれていった国ですし、救う義務も無いんですがね」
一夏としては国を潰すのには躊躇いはないが、全ての国民が関与したとは思っていない。だから、最低限の生活は保障出来るだけの結果で済めばいいと考えていた。もしすべての国民が関与していたら、今頃アメリカという国は世界地図から消え去っていただろう。
「まぁ、こんなものか……コアに何か細工を施すわけではないという事が分かれば、後は施術されたISさえ手に入ればどうとでも対処出来るな……本音、美紀、ここは任せる。刀奈さんと虚さん、簪は裏口に回って退路を塞いでください。俺と碧さんで、別の場所がないかを探ってみますので」
「分かったわ。それじゃあ、ここの指揮権は虚ちゃんに委ねるわね」
「お嬢様の方が良いのでは?」
「私より冷静に物事を判断できるでしょ、虚ちゃんは」
五人がそれぞれの配置についたのを確認して、一夏と碧は別の基地が無いか探し始める。
「コアの反応がないから、探すのも大変そうですね」
「衛星から探した限りでは、あそこだけなんですけどね……一応探っておかないと後で面倒に発展する可能性がありますからね」
「戦争開始から三時間足らずで壊滅とは、アメリカ軍も思ってなかったでしょうね」
「こちらにはジョーカーが数枚ありますから、相手にすらならないと考えなかったのでしょうかね」
「一夏さんの言う『ジョーカー』とは?」
「織斑姉妹と篠ノ之博士、この三人だけでも十分だと思いませんか?」
「まぁ、それに政治的ジョーカーであるところの一夏さんもいますしね……何故踏みとどまらなかったのか不思議でなりませんよ」
碧も十分ジョーカー足りえるのだが、あえてその事は指摘せず、一夏はほぼ終戦した戦況を眺め、IS基地が他にない事を確認して小さく頷いたのだった。
死んだ方が救いだったかもしれませんね……南無三