アメリカのISと対峙している更識の人間を視界に収めながら、元亡国機業の四人は別動隊の動きをしっかりと捉えていた。
「一夏の読み通りこの場所を通るわね」
「いいのか? このまま見過ごして」
「構わないわよ。私たちは万が一に備えてここに待機してるだけだもの。あのIS部隊には地獄を味わってもらう事になってるしね」
「この先に待機してるのは織斑姉妹ですものね。私たちが楽にしてあげるよりも、絶望を味わえるわよ、きっと」
「良いんでしょうか……」
「一夏を敵に回したんだから、それくらい覚悟の上だと思うけどね」
スコールたちが警戒しているのは、ISの別動隊ではなく歩兵の別動隊である。アメリカが開発したISでは、織斑姉妹にかすり傷を負わせることも無く敗北するだろう。だが歩兵に関しては銃火器を所持しているので、万が一があるかもしれないのだ。一夏はその事を警戒して四人をこの場に配置したのだ。
「おっ、一夏の読み通り本隊とは別の歩兵が現れたぜ」
「随分とお粗末な計画ね。これくらい読まれていると思わないのかしら」
「更識君レベルの参謀がいるはずもないんだし、これが普通なんじゃない?」
「どっちでもいいけどな。それじゃあ、いっちょ派手にやってやるか」
「分かってるとは思うけど、死者は出しちゃ駄目だからね」
「死なねぇ程度に加減してやるに決まってるだろ!」
別動隊に向けて攻撃を仕掛けるオータムとダリルを見て、スコールは余程ストレスが溜まっていたのだと感じていた。攻撃される歩兵部隊に同情したくなるくらい、二人の攻撃は過激だった。
「さてと、私たちは吹き飛ばされた敵兵の回収よ」
「分かりました」
フォルテと二人でオータムとダリルが吹き飛ばした敵兵を回収し、抵抗出来ないように拘束していく。これだけで自由が約束されると思うと、スコールは世の中甘すぎるのではないかと感じていたが、一夏が味方なのだからそれも仕方ないのかもしれないとため息を吐いたのだった。
刀奈たちがIS部隊を交戦しているのを後方で確認しながら、一夏は細かな指示を飛ばしていた。
『一夏君の読み通り、敵部隊はほぼ壊滅したわ』
「お疲れ様です。ですが、思わぬところから敵兵が現れるかもしれませんから、引き続き警戒をお願いします。スコールたちが敵兵を捕らえたらしいので、後は駄ウサギたちが自白させるのを待って、アメリカに攻め込みます」
『了解よ。これが終われば、ようやく一夏君もゆっくり出来るのよね?』
「事後処理など、細々な事はあるでしょうが、恐らくは」
『それじゃあ、張り切って終わらせましょうか。一夏君に時間的余裕が出来れば、私たちともっとデートしてくれるだろうし』
『お嬢様や簪お嬢様たちは、モンド・グロッソが近いのでは?』
『大会は夏だし、それまでは一夏君とゆっくり過ごす予定よ』
通信の向こう側で虚が割り込んできたが、一夏は特に驚きはしない。むしろもう少し早く誰かが割り込んできてもおかしくないと思っていたので、思いの外遅かったなと感じていた。
『いっちーはこの戦争が終わったら何かしたい事ないの~?』
「死亡フラグにも聞こえなくはないから、そういう事はあまり言わない方が良いぞ」
『大丈夫だってば~。相変わらずいっちーは物事を悲観的に考え過ぎだよ~?』
『本音が楽観視し過ぎなんじゃない?』
『そんなこと無いよ~』
「……とりあえず、終わった後の事を考えるのは、全て終わった後で良いだろ。今は気を抜き過ぎず、しっかりと来る時に備えてくれ」
『了解だよ~』
いったん刀奈たちとの通信を切り、一夏はIS学園の状況を聞くために静寐たちに通信を入れる。
『はい、どうかしたの?』
「そっちの状況を報告してくれ」
『酷いものね……織斑姉妹が撃退したアメリカ兵を喜々として訊問する篠ノ之博士の図が目の前に展開されてるわ』
「それで、大人しく自供したのか?」
『そりゃ、自白しなければ人体実験するって脅されたら、大人しくなるわよ』
「……相変わらずだな。それで、アメリカ兵だって自白は取れたんだな?」
『バッチリよ。録音もして証拠はそろったから、こちからか攻め込んでも正当防衛になると思うわ。もちろん、一夏君の話術があって、だけどね』
「そうか……引き続き警戒は怠らないように織斑姉妹に伝えておいてくれ」
『分かったわ。それじゃあ、怪我だけはしないようにね』
静寐との通信を切り、一夏は送られてきた音声データを再生し、バッチリと自白内容が録音されている事を確認して碧に視線を向けた。
「これでアメリカとの問題も終わりますね」
「向こうが一方的に絡んできてただけですけどね」
「篠ノ之さんの様子は?」
「織斑姉妹と一緒に敵兵の掃討を手伝った後、静寐さんたちと一緒に周辺の警戒に当たっていると真耶から報告が来てます」
「懸念してたことは?」
「問題なさそうですね。サイレント・ゼフィルスも問題なく動かせているようですし、過去の記憶がよみがえることも無さそうです」
「それじゃあ、元凶を叩いてさっさと日常を取り戻しましょうか」
「他国の介入がないって分かってますから、随分とあっさりと終わりそうですね」
「所詮逆恨みですからね」
バッサリと切り捨てて、一夏は刀奈たちと合流すべく移動を開始する。その背後に碧が続き、しばらく続いていた緊張もこれで終わるだろうと一夏はホッとした気持ちになっていたのだった。
楽に終わるのは良いですけどね……