いきなりやってきた束からもたらされた情報によれば、アメリカは今すぐにでも仕掛けるつもりらしい。モニター越しにしかアメリカの動向を知り得なかった一夏は、全員にいつでも出動できるよう呼びかけ、束の話を聞くことにした。
「バカたちの動きは単調だし、遠距離武器は束さんがハッキングして乗っ取ったから使えないよ」
「では、ミサイルなどの兵器は気にする必要は無いと?」
「そうだよ~。それから、他の国がアメリカを支持する事は無いと思うよ」
「何故そう言い切れるのですか?」
「だって、更識企業とアメリカを天秤に掛ければ、どっちに傾くかなんて誰が見ても明らかでしょ~? 今更識企業に喧嘩を売って、勝てる企業なんてどこにも無いんだから」
束の言い分に、千冬と千夏が大きく頷いた。彼女たちも束の意見には納得出来たのだろう。
「そもそも一夏は心配し過ぎなんだ。今更アメリカの味方をして利益などあるわけがないだろ」
「ここで更識企業に味方しておけば、その国のIS産業は大きく発展するかもしれないんだ。アメリカという沈む船に乗りたがる阿呆などいないと思うぞ」
「ちーちゃんとなっちゃんの言う通り! それに、束さんがアメリカの味方をしたらその国のある事ない事を全世界にばら撒くって脅したからね~。清廉潔白なんてありえない国のトップが、束さんの脅しに屈せずにアメリカの味方なんて出来るわけないし~」
「また脅したんですか……」
「このくらいならいっくんだってやってるでしょ~」
「俺はあることしかバラしませんし、脅しではなくお願いしてるだけですから」
「物は言いようだね~」
束の反応に、一夏は苦笑いを浮かべる。恐らく束にだけは言われたくないと思ったのだろうが、束も一夏に言われたくはないと思っているからその言葉は飲み込んだのだ。
「それで、束さんの見立てでは、何時攻めてくると思いますか?」
「日本時間で考えるなら、夜遅くだろうね。こっちはずっと警戒してなきゃいけないし、その疲労が出てきたタイミングで攻め込むだろうしね」
「こちらが順番に休憩を取っているとは考えないのでしょうかね」
「バカだから考えないんじゃないかな~? そもそも、更識企業に喧嘩を売ってる時点でおバカさん確定なんだから」
話し合いはこれで終わりだと千冬と千夏が宣言し、束はラボへ、一夏はモニター室へと戻っていった。残った二人は、交互に休憩するためにじゃんけんを行ったのだった。
束の見立て通り、アメリカが動き出したのは日本時間で日付が変わる頃だった。一夏の指示で早めに休んでいた更識勢は、アメリカが動き出したとの報告を受けてすぐに集合していた。
「諸君たちには攻め込んできたアメリカ軍の撃退を命じる。アメリカ軍が攻め込んできた証拠としてその人物を確保、堂々とアメリカに攻め込むための大義名分を得てもらう」
「まぁ、この映像からアメリカが先に攻め込んできたという証拠はあるのだが、より確実な証拠を得た方が後々楽が出来るからな」
「……交渉などはこちらが行うんですから、貴女たちが楽とか考える必要は無いんですが」
千冬と千夏の物言いに、一夏が白けた目を向けながらツッコミを入れる。そのツッコミは取り合わずに、千冬と千夏はさらに指示を飛ばす。
「各国の専用機持ちは、上空を警戒、ならびに歩兵への警戒に当たってもらう。まぁ、万が一にもこの学園に足を踏み入れたら容赦なく撃退してもらう」
「更識、他に何かあるか?」
「今のところは。何かありましたらこちらから指示しますので、お二人は学生の安全を第一に考えてください」
「いっくん。アメリカのISが日本領空に侵入、後数分で学園の上空に到達するよ」
「分かりました。ではこちらはお任せします」
千冬と千夏に一礼して、一夏は更識勢を率いて上空へと向かう。既に領空侵犯でアメリカに攻め込む大義名分はそろっているのだが、正々堂々と攻め込むには、アメリカ兵の一人でも人質にした方が楽なのだ。
「では専用機持ちも警戒に当たれ」
「これは訓練ではなく実戦だ。本来であればISを実戦に使うのは協定違反なのだが、先にこの協定を破ったのはアメリカだからな。こちらが罰せられることは無いだろう」
「まぁ、万が一そんな事があっても、いっくんが何とかしてくれるだろうけどね~」
束の言葉に安心した専用機持ちたちは、ISを展開して上空の警戒、及び周辺の気配察知に当たる。
「さてさて、それじゃあ束さんもアメリカの軍事システムをクラックダウンさせてくるかな」
「証拠は残すなよ?」
「そんなヘマはしないって。それよりも、二人はアメリカと同時に箒ちゃんも見張ってなきゃいけないんだから、しっかりしなきゃね」
「バカ箒の気配はしっかりと把握している。それに、何かあったら容赦なく叩きのめせるからな」
「むしろ何かあってくれた方がわたしたち的にはありがたい」
「そんなこと言ってると、またいっくんに怒られちゃうよ」
軽口を交わしながらも、三人は一瞬たりとも気を抜いてはいなかった。さすがに今回はふざけられないと思っているのかもしれないと、三人の見張りを頼まれたナターシャはそんなことを思っていたのだった。
この三人を見張らなければいけないナターシャさん……ちょっと可哀想……