戦力であるスコールとオータム、そしてダリルとフォルテを一部屋に集め、一夏は碧を引き連れて説明をすることにした。
「――というわけで、四人には臨機応変に動いてもらおうと考えているんですが、それで構いませんか？」
「私とフォルテは学生って扱いだけど、それでいいのかしら？」
「元亡国機業の三人と、フォルテ先輩は自由に動いてもらった方が良いだろうと思いまして。どうせこちらが細かく指示しても、先輩とオータムは言う事を聞いてくれ無さそうですし」
「そんなこと無いんだけどな。まぁ、更識君が自由を認めてくれたって事で納得してあげるわ」
嫌がらせで抱き着いてやろうかとも思っていたダリルではあったが、一夏の背後に控える碧が怖い顔を見せたので大人しく嫌味だけで済ませた。
「臨機応変って言われても、具体的にはどんなことを期待してるの？」
「オータムと先輩には前線が打ち漏らした敵の始末――一応言っておきますが殺したらダメですからね？」
「分かってるわよ。私はオータムと違って戦闘狂ってわけじゃないんだし」
「オレだってそういうわけじゃねぇっての！」
二人のやり取りに一夏は呆れ気味な視線を向けたが、その奥でスコールが笑っているのを見て、割と何時も通りなのかと納得して説明を再開する。
「打ち漏らしは少ないと思いますし、もしかしたら出番が無いかもしれませんが、準備だけはしっかりとしておいてください」
「了解よ」
「分かったぜ」
「それで一夏。私とフォルテはどうすればいいのかしら？」
「スコールとフォルテ先輩は、防衛側の援護をお願いします。織斑姉妹や専用機持ちの大半はこちら側に回しますので、援護など必要ないかもしれませんが、万が一に備えておきたいので」
口調が丁寧なのは、一夏がスコールに向けてではなくフォルテに話しているからで、スコールは少しつまらなそうな視線をフォルテに向ける。
「わ、分かりました。でも、準備とかは何をすればいいんでしょうか？」
「この状況でアリーナの使用許可は出せませんが、ＶＴＳなら問題ないでしょう。一般生徒は緊張と恐怖から訓練どころではありませんし、専用機持ちだってそれは同じでしょうからね。実戦と言われる戦闘を経験した事がある亡国機業のメンバーなら、そんな事も無いでしょうけど」
「そういう事ならさっそく訓練と行くか！ 最近鈍ってる感じがしてるから、ちょっと相手しろよ」
「私が貴女の相手をしたって、貴女が満足するとは思えないけど？ スコールに相手してもらえば？」
「お前で良いんだよ、レイン。お前をぶっ潰す事でストレスの解消も兼ねてるんだからよ」
「私をストレスのはけ口に使わないでくれる？」
文句を言いながらも、オータムとダリルは部屋からＶＴＳルームへと移動していった。残ったスコールとフォルテは、苦笑いを浮かべながら互いのパートナーを見送って、一夏に視線を戻した。
「それで、本当に攻めてくるのね？」
「断言は出来ないが、その可能性が高いという事は確かだ」
「そうなるといよいよ最終決戦ってわけね」
「これが本当に最後になるなら、早く終わってほしいがな」
「大変ね、更識の総帥も」
「いっそのこと本当に更識だけで独立してやろうか……これ以上日本政府にあれこれ言われるのも面倒だし」
「でも一夏さん。その案は移動するのが面倒になるからって事で却下したじゃないですか」
碧の言う通り、独立なんてすれば何処に行くにしてもパスポートが必要になる。日本国内でもそれが適応されるので、屋敷から本社に向かうだけでもパスポートが必要になる可能性があるのだ。
「まぁ、屋敷も本社も土地は日本ですからね……独立したとしてもその周辺まで買い取るだけの資金がありませんし」
「あったとしても止めてくださいよ？ 一々不法入国だって他人を拘束するのは面倒ですから」
「そっちが問題なの？ 相変わらず更識の常識は私たちのとはズレているのね」
「お前らも世間一般の常識からはズレていると思うが」
一夏のツッコミに、スコールは肩を竦めてみせる。自分でもその事を理解しているからこそ、一夏の嫌味にそれだけで済ませられたのだろう。
「フォルテ先輩も、そこまで緊張しなくても大丈夫ですよ。大抵は織斑姉妹が二人で片づけるでしょうし、行き過ぎだと判断したら、ナターシャさんが止めに入りますから」
「それなら私たちの出番がないんじゃない？」
「あくまでお前らが戦闘に参加した事で、日本政府にお前らの危険値が低いという事をアピールするのが狙いだから、それも当然だろ。そもそも、更識が匿ってなければ今頃お前らはこの世にいないんだぞ？」
「私はそもそも死人だから」
「そういう事を言ってるんじゃないんだが」
「分かってるわよ。それじゃあ、この戦いが終われば私たちもある程度の自由が認められるって事かしら？」
「あくまで更識の監視の範囲で、だがな。外出なども可能になるだろう」
「それだったら、大人しく空の上から織斑姉妹の無双でも眺めてようかしらね」
「一応警戒だけはしておいてくれよ？」
一夏が釘を刺してきたので、スコールはもう一度肩を竦めてみせる。そのやり取りを見て緊張が解れたのか、今度はフォルテも笑みを浮かべたのだった。
暴れさせても良いんですがね……