暗部の一夏君   作:猫林13世

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抜かりなく指示を出す更識の人間……


更識勢の作戦会議

 新学期になって初めて、教室に一夏がいないことが気になり、静寐と香澄は事情を知っているであろう美紀に声を掛けた。

 

「おはよう、美紀さん。今日一夏君は?」

 

「セシリアさんとシャルロットさんの専用機のメンテナンス――というか修理のためにお休みです。朝から整備室に篭って作業をしています」

 

「それって週末に行うって言ってませんでしたっけ?」

 

「事情が変わったんですよ……たぶんこの後HRでその事情の説明があると思いますよ」

 

 

 どこか疲れたような笑みを浮かべる美紀に、静寐と香澄は首を傾げる。二人は更識所属ではあるが暗部所属ではないので、学園中に張り詰めている独特な緊張感に気付いていない――否、どのような緊張感なのか理解出来ないでいるのだった。

 

「早速だが席に着け」

 

 

 予鈴と共に教室に現れた織斑千夏に、クラス中が驚きの声と表情を見せたが、ここで逆らったら大変な事になるという事は、この一年で散々味わってきたので大人しく席に着いた。

 

「本日の午後より、IS学園は臨時休校となる。したがって外出なども一切禁止となる」

 

「千夏先生、どういう事でしょうか?」

 

「詳しい話は私がしよう」

 

 

 静寐の問いかけに、遅れてやってきた千冬が答える。

 

「今日未明、アメリカに不審な動きが見られるとどこかのバカから報告があり、映像を調べた結果何時仕掛けてきてもおかしくない状況であると判断した。二、三日中に攻めて来る可能性が高いため、大事を取って休校となったわけだ。貴様たちの身の安全の確保と、迅速に対応出来るようにと一夏が判断し、学長がこの案を是としたのだ。逆らえばIS学園にいられなくなると思え」

 

「午前中も授業ではなく、その事についての説明になる。説明は更識姉から行われるので、貴様らはこれから体育館へと移動してもらう。さっさと整列し迅速に行動しろ」

 

「ここは軍隊じゃないんですから、そのような物言いはどうかと思いますけど? あんまりひどいと、一夏さんに報告しますからね」

 

「表に出られるようになってそうそう、言うではないか」

 

「一夏さんから貴女たちがやり過ぎないように見張るよう言われていますから」

 

 

 碧ではなくナターシャが現れたことが意外だったのか、クラスメイト達はポカンと口を開けて固まったが、そんなことをしている場合ではないという事は理解出来ているので、出来るだけ素早く整列し体育館へと移動する事にしたのだった。

 

「それにしても、随分と高圧的な説明でしたね。そんなのでよく教師が務まりますね」

 

「やりたくてやっているわけではないからな。まだ軍で小娘たちを鍛えている方が楽しかったぞ」

 

「ただ一点、一夏に会えなかったという事を除けばだがな」

 

「今だってまともに相手にされていないじゃないですか……」

 

 

 ナターシャのツッコミに、織斑姉妹は鋭い殺気を浴びせたが、すぐに肩を落として体育館へと移動し始めたのを受けて、ナターシャは拍子抜けな気分を味わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全校生徒への説明を終えて、すぐさま生徒会室に移動した刀奈たちは、一夏の代わりにこの場を纏めてくれる碧に目を向けていた。

 

「何で私が一夏さんの代理なのか分からないけど、とりあえずみんなにはもうちょっと踏み込んだ説明をしておくわね」

 

「お願いします」

 

 

 碧が気にしたように、立場的には碧が一番下なのだが、事情を知っているのが碧だけなのだから仕方ないのだ。

 

「朝説明したように、近いうちにアメリカが攻めてくる可能性が高いの。それで私たち更識所属の面々は、アメリカが攻めて来たらすぐに対応出来るようにしておく必要があります」

 

「静寐ちゃんや香澄ちゃんといった更識所属の子たちはどうするのです?」

 

「彼女たちには学園の安全を守ってもらう事になると思います。いくら織斑姉妹や真耶たちがいるとはいえ、教師だけですべてを対応するのは不可能ですからね」

 

「それじゃあ、私たちは直接アメリカに攻め込むって事ですか?」

 

「追い返すだけで十分だと一夏さんは思ってるようだけど、たぶんそれじゃあ何も解決しないでしょうね。最悪は今虚ちゃんが言ったようにアメリカに攻め入って壊滅させるくらいの気持ちでいてほしいわ」

 

「随分と過激ですね。ですが、それくらいしなければアメリカも大人しくならないでしょうし、仕方のない事なのかもしれませんね」

 

「いっちーが嫌いそうな展開だよね、それって」

 

「一夏は出来る事なら平和的解決を望んでるからね……暗部当主としては甘い考えだと思うけど、人間的には好感が持てる」

 

 

 一夏が壊滅させるとは思ってないが、束や織斑姉妹ならありえるだろうとここにいる全員は思っているし、場合によってはそれも仕方ないだろうと思っている。だが、一夏が命じない限り、ここのメンバーは壊滅まで追い込むことはしないだろう。

 

「まぁ、そういう心持でいてほしいってだけだから、実際はどうなるか分からないからね」

 

「あれ? 碧さんは攻めるんですか?」

 

「私は一応連絡役ということで前線に出ますが、基本的には刀奈ちゃんたちが頑張るのよ。一夏さんも前線にはいるでしょうけど、指示役ってだけで攻撃には参加しないとおもうから」

 

「まぁ、一夏君だもんね」

 

 

 刀奈の言葉に、全員が頷く。争い事を嫌い、自分は強くないと公言している一夏の事だから、指示を飛ばすだけで自分から攻め入る事は無いだろうと、全員が信じて疑わなかったのだ。




珍しく一夏が出なかったな……珍しくないかもですが

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