暗部の一夏君   作:猫林13世

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覗き趣味もたまには役に立つ……


怪しい動き

 アメリカに動きがあったと報告を受けた一夏は、束から送られてきた監視衛星のデータを織斑姉妹、碧、真耶といった教師陣と見ていた。

 

「完全に戦争の準備だな、これは」

 

「一夏、今からわたしたち二人でアメリカを世界地図から消してこようではないか」

 

「こちらから仕掛けたら何を言われるか分かりませんよ。後から、『ただの軍事演習の準備だ』とか言われたら証明しようがなくなるんですから」

 

 

 一夏の冷静な判断に、碧と真耶が頷く。気持ち的には織斑姉妹を支持したいところだが、一夏の言う通りだと感じたのだろう。

 

「二、三日して動かなければ安心出来るんですがね」

 

「これはもう仕掛けて来る雰囲気だと思いますよ」

 

「そうですよね……試験勉強どころではなくなるかもしれませんね」

 

 

 腕を組みながら苦笑いを浮かべる一夏に、教師陣も苦笑いを浮かべる。だがその理由は一夏とは異なっている。一夏は本音たちの成績を憂いての苦笑いだが、教師陣は生徒である一夏が気にする事ではないと感じての苦笑いなのだ。

 

「とりあえず、織斑姉妹は専用機をしっかりと携帯してくださいね。前みたいに、いざとなって置き場が分からないという事態にならないように」

 

「分かっている」

 

「今回はしっかりと携帯しているからな」

 

「それから、今日一日俺は授業を休んで、セシリアとシャルの専用機のメンテナンスを行います」

 

「手伝いましょうか?」

 

「いえ、山田先生には生徒を落ち着かせる役目をお願いしたいのですが」

 

「わ、私がですか? 小鳥遊先輩の方が適任だと思うのですが……」

 

 

 真耶の言葉に、織斑姉妹も頷く。実力は兎も角、生徒になめられている感がある真耶よりは、尊敬されている碧の方が落ち着かせることが出来るのではないかと思ったのだろう。

 

「碧さんには別の事をお願いしたいですし、生徒に近い山田先生の方が、みんなを安心させられると思います」

 

「確かに、私が言っても『先生の実力があるからそう思えるだけだ』とか思われそうだしね。真耶も実力者とはいえ、生徒に近い感じがあるから落ち着かせられるかもしれないし」

 

「小鳥遊先生まで……」

 

 

 少し自信なさげな真耶ではあったが、一夏と碧、そして織斑姉妹にまで期待されている視線を向けられては断ることが出来なかった。

 

「分かりました。とりあえず紫陽花と一緒に生徒を必要以上に慌てさせないようにしてみます」

 

「お願いします。専用機持ちにはそれなりに覚悟しておくように言っておいてください。前線に出すわけにはいきませんが、学園の警護くらいは任せたいと思っていますので」

 

「分かりました」

 

「それで一夏、更識所属の奴らはどうするんだ?」

 

「万が一アメリカが攻め込んできたら、我々更識所属の面々で司令塔を叩きます。貴女たちに任せてもいいのですが、やり過ぎる可能性がありますし、何より学園の安全を確保する意味でも、二人にはここに残ってもらいたいですし」

 

「ですが一夏さん、この二人が見境なく攻撃したら、学園も危ないのでは?」

 

 

 碧の懸念に、一夏ももっともだと頷いたが、背後に生まれた気配に碧は納得したように頷いた。

 

「そうですか、彼女に見張りを頼むのですね」

 

「そういう事です。漸く日本政府との交渉も終わり、アメリカから正式に更識が身元引受先と認められましたからね」

 

 

 真耶だけは気配に気付けずにいたが、振り返って彼女を確認して納得した。

 

「漸くナターシャ先生もおもてに出られるんですね」

 

「別に悪い事をしたわけじゃないんだけどね……今までは後方支援しか出来なかったけど、これからはしっかりと更識と学園の為に働かせてもらうわね」

 

「更識が先なんですね」

 

 

 特に意図した訳ではないのだろうが、だからこそそれが本心なのだろうと真耶は感じていた。確かにIS学園に匿われていたとはいえ、身の安全を保障していたのは更識なのだから、どちらに恩を感じているかと聞かれれば迷うことなく更識と答えるだろうと。

 

「まったく。こんな時間に連絡してくるとは、束は相変わらずだな」

 

「時差を考えれば仕方のない事だと思いますが、常に警戒してくれていたからこそですよ。今回ばかりは文句ではなく感謝を述べたら如何ですか」

 

「わたしたちに感謝されても嬉しくないだろ、アイツは。後で一夏が纏めてお礼を言っておいてくれ」

 

「俺に丸投げするのは止めていただきたいですね。一応健康を考えて食事は用意しておいたんですから、俺からの感謝は伝わっているはずですし」

 

「まぁ、全ては終わってから考えれば良いだろ。今は警戒を強め、何が起こってもすぐに対応できるようにしておくのが先決だ」

 

「更識にも連絡はしておきましたので、人手が足りないようでしたら言ってください。歩兵ならいくらでも――とは言えませんが、それなりに用意出来るでしょうし」

 

「まぁ、その辺りは相手の規模によるだろ。一応用意だけはしておいてくれ」

 

「分かりました」

 

 

 姉弟の会話ではないが、今はそんなことを気にする人間は誰もいなかった。誰もが近いうちにアメリカが攻めて来るだろうと感じていたので、その事に意識を取られていたからである。

 

「授業も考えておかなければな」

 

「休校にするのはどうだ? 一夏ならそれくらい出来るだろう?」

 

「今日はさすがに無理ですが、明日からなら問題ないと思いますが」

 

 

 一応学長の許可を取らなければいけないので、さすがに当日は無理だと答え、一夏は携帯を忙しなく操作するのだった。




ますます大変になるな……一夏が

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