暗部の一夏君   作:猫林13世

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張り切り過ぎは駄目ですね……


訓練中の事故

 IS学園の試験は筆記だけでなく、当然実技もある。どちらかが優れていてもどちらかが赤点なら補習になるので、実習にも当然気合いが入った生徒はいるのだ。

 

「――それで、この惨状はなんだ?」

 

「「すみませんでした……」」

 

「つい気合いが入り過ぎてしまい、セシリアとシャルロットを吹き飛ばしてしまいました」

 

「だからあたしは気を付けろって言ったのに」

 

 

 四人一組で訓練形式の実習を命じた織斑姉妹だったが、アリーナの隅で何かが壊れる音を聞いて、文字通り飛んで来たらアリーナのシールドが破壊されていたのだった。

 

「オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰の四名は後程職員室に出頭するように」

 

「とりあえず今は、二人を保健室に連れていけ。これだけの衝撃だ、何処か怪我をしているかもしれない」

 

「わ、私は大丈夫ですわ」

 

「僕も大丈夫です」

 

「問題ないならそれでいいが、一応保健室には行け。それで確認して本当に問題なければ戻ってくればいい」

 

 

 織斑姉妹にいわれ、四人は頭を下げて保健室へと移動する。

 

「さて一夏、このシールドの修繕費はどれくらいだ?」

 

「四人がいなくなった途端に何時も通りですね……もう少し尊敬出来る教師でいてくださいよ」

 

 

 織斑姉妹が頭ごなしに怒鳴らなかったのは、背後に一夏が控えていたからだ。もしわざと破壊したのなら怒鳴ったかもしれないが、不慮の事故だと聞かされたのでとりあえずは穏便に済ましたのだ。

 

「訓練中の事故ですから、四人に弁償させるわけにはいきませんね……後程刀奈さんたちを連れてどの程度の破損かを調べ、こちらで計算して職員室に報告させていただきます」

 

「今すぐは出来んのか?」

 

「本来であれば学園側が調べるべきことですので、こちらに任されても困るんですよね……」

 

 

 一夏がため息交じりに呟くと、織斑姉妹も苦笑し視線を逸らした。

 

「とりあえずここら一体は封鎖しておこう」

 

「そうしてください。これ以上壊されては困りますからね」

 

 

 千冬が真耶に短く指示して、一体に立ち入り禁止のテープを貼り、この辺りを封鎖する。

 

「それでは、訓練を再開しろ」

 

「くれぐれも熱くなりすぎて四人の二の舞を演じる事の無いように」

 

「やはり専用機持ち同士を組ませたのは失敗だったのでは?」

 

 

 実力者同士であるがゆえに起きた事故ではないかと一夏が指摘すると、織斑姉妹はそろって視線を明後日の方へ向ける。その反応に一夏はますます頭を抱えたくなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休みになり、一夏は刀奈と虚を連れて破損したシールドを確認していた。

 

「これは随分と派手に壊したわね……」

 

「並大抵の衝撃では壊れないはずなんですけどね……それだけラウラたちが成長してるって事でしょうか」

 

「感心している場合ではないと思いますけどね……これだけ派手に壊れていると、修理ではなく取り換えでしょうかね」

 

「その方が早いですかね。ですが、取り換えともなると一部、というわけにはいかないでしょうし……」

 

「まぁ、更識で何とかすれば安く済みますから」

 

「それじゃあ虚ちゃん、一両日中に手配しておいて」

 

「かしこまりました。ついでに、他の所も問題ないかチェックしておきましょう」

 

 

 修理の手配はすぐに済むので、虚は他のアリーナもチェックするように進言し、一夏も刀奈もそれに賛同した。

 

「ところで、セシリアちゃんとシャルロットちゃんは大丈夫だったの? これだけ壊れるって事は、かなりの衝撃だったんじゃない?」

 

「幸いなことに操縦者には問題ありませんでしたが、専用機の方に深刻なダメージがありましてね……後日メンテナンスする事になりました」

 

「シャルロットちゃんは更識傘下だし、セシリアちゃんも一時的に更識所属になってるから、一夏君が担当するのかしら?」

 

「今の状況で他の技術者を学園に呼び寄せられるとも思えませんしね」

 

 

 また苦労が増えるとため息を吐いた一夏に、刀奈と虚は同情的な視線を向ける。

 

「私たちも手伝えればよかったんだけどね」

 

「ISの整備は簪お嬢様くらいしか手伝えませんよ。本格的なメンテナンスとなればますます」

 

「虚さんも一応は出来ますよね?」

 

「私は、本当に必要最低限しか出来ませんので」

 

 

 これは虚の謙遜なのだが、一夏も刀奈もそれを知っていながら否定する事はしなかった。ここで虚はもっとできるだろと言ったとしても、頑なにそれを認めないのは二人には理解出来ていたからである。

 

「ラウラちゃんも一夏君にメンテナンスしてもらってから調子よさそうよね。ただ、ちょっと元気が有り余ってるようだけど」

 

「前に訓練で篠ノ之さんに意識を取られて周りが見えなくなっていたと反省してたばかりだったんですがね。実力者相手だとやはり興奮するのかもしれませんね」

 

「ボーデヴィッヒさんは学生であると同時に軍人ですから、強者と渡り合う事に一種の快感を覚えるのかもしれませんね」

 

「織斑姉妹の教え子ですからね……それはあるのかもしれません」

 

「あの二人の教え子なら、あり得そうよね……」

 

 

 IS学園に来る前からの教え子なので、ラウラならありえそうだと刀奈も虚も思ったのか、三人そろって苦笑いを浮かべたのだった。

 

「とりあえず、後で反省文は書かせるようですよ」

 

「そりゃ、事故とはいえこれだけの事をすればね……」

 

「お咎め無しとはいかないでしょうね」

 

 

 もう一度苦笑してから、三人はアリーナを後にしたのだった。




派手に壊した分、他もチェックが必要に……

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