暗部の一夏君   作:猫林13世

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ダメな方ではない姉です


お姉さんたちの心配事

 第二回モンド・グロッソ開催を半年後に控え、刀奈はより一層の訓練を積んでいた。相手は更識でも指折りの実力者の小鳥遊碧、更識企業の企業代表を務める布仏虚、そして三人が専用に使っているISの製造者にして、現更識家当主と務めている更識一夏の三人だ。

 一夏は表向きには楯無を継いでいない事になっているので、あくまでも名乗りは「更識一夏」で通している。男である一夏がISを操縦できる事は、一夏がISのコアを製造できる事、一夏が実は「楯無」を継いだ事と並び更識家のみで知られている事実であり、世間には秘密にされている事だ。

 

「やっぱり一夏君も専用機を持つべきだと思うのよ」

 

「ですが、それですと一夏さんがISを動かせる事がバレる危険性が出てきてしまいます」

 

「虚さんの言う通りだと私も思います。一夏さんに危険が及ぶかもしれない事は、徹底的に排除するべきだと」

 

 

 訓練の休憩中、話題は一夏に専用機を持たせるべきか否かに焦点が集まっていた。本人は特に専用機には興味がなく、今は三人の専用機の状態を調べている。彼は操縦者よりも整備士を目指しているので、この時間は彼にとってたまらなく楽しい時間なのだ。

 だからでは無いが、三人は一夏本人の気持ちを確認しようとせず話を続けているのだ。

 

「でも、一夏君の護衛が本音じゃね……せめて美紀ちゃんが出来れば良いんだけど」

 

「美紀さんは、『表向きの楯無』である尊さんの娘さんですから。当主の娘が前当主が養子に迎えた子供の護衛をしてるとなると、そこから疑いを持つ人が出てきてしまうかもしれません」

 

「一夏さんの特殊な立ち位置から、言い訳はどうとでも出来るでしょうが、一夏さんに疑いを向けられるのは、やはり更識としても一夏さん本人としても望ましく無いと思いますね」

 

「だからって簪ちゃんに任せるのもマズイじゃない?」

 

「そうですね。前当主の娘である簪お嬢様が一夏さんの護衛になったら、そちらもそちらで問題が発生しそうですし」

 

「やっぱり本音さんを護衛として任命した一夏さんが正しいと言うしかないですね……他に案がありませんし」

 

 

 その本音が立派に護衛の役目をはたしていれば、三人もこんな事で頭を悩ませる必要は無いのだ。だが本音の性格上、真面目に護衛を務められるとは思えないし、実際何度も一夏に撒かれている。

 

「次善の策が、一夏君に専用機を持たせる事なんだけど……やっぱりこれも危険よね」

 

「さっきも言いましたが、待機状態から一夏さんがISを動かせる事がバレる可能性が高いですからね」

 

「隠せるなら良いんですが、隠しててもバレる可能性はありますし」

 

「そうなのよね……本音が立派になってくれるのが一番良いんだけど……」

 

「あり得ませんよ、そんな事」

 

 

 実姉である虚が言い切ったのを受けて、刀奈と碧が揃ってため息を吐いた。そこに一夏が戻って来たので、一夏は三人が何が原因で悩んでいるのか全く見当がつかなかった。

 

「えっと、何か問題でもあったんですか?」

 

「ううん、一夏君の護衛をこのまま本音に任せて良いのか話してただけ」

 

「そうですか。碧さん、木霊のバージョンアップも終わりましたので、これで第三世代にも引けを取らない動きが出来るはずです」

 

「そう? じゃあこれで刀奈ちゃんや虚さんにも簡単に負けずに済むわね」

 

「負けて無いじゃないですか……むしろ負けてるのは私とお嬢様の方ですよ……」

 

「さすがは無傷で世界を制した人よね……」

 

 

 訓練の成績は、碧が世代差を跳ねのけて全勝、刀奈と虚も善戦するものの勝てないのが現状だった。

 

「それで、俺の護衛がどうのこうのはもう良いんですか?」

 

「考えても仕方ないもの……本音が真面目に務めてくれるのを祈るしかないし……」

 

「簪お嬢様や美紀さんに任せられない以上、本音がシッカリと役目を果たすしかないんですよ……」

 

「前から言ってますが、別に護衛はいなくてもGPSがありますし、並大抵の相手なら助けが来るまで一人で対応出来ますし」

 

「それでも、一夏さんを狙う輩は大勢いるんですよ? 事実を知らない連中だって、一夏さんを攫えば篠ノ之博士や織斑姉妹に言う事を聞かせられるとか考えたり、更識企業からコアを貰えるとか考えるんですから」

 

 

 碧の話を、大袈裟だと笑い飛ばすものは誰一人いなかった。実際一度誘拐された事のある一夏、その原因はISのコアを欲した連中が篠ノ之束に言う事を聞かせようとしたからであり、今度もそれが理由になる可能性は大いにあるのだ。

 

「とりあえず、本音に護衛は任せておくが、あまり過信しなければ良いんですよね。危ないと判断したらすぐに逃げますよ」

 

「でも、一夏君って体力は人並みでしょ? 戦闘訓練を受けてる相手だったら逃げ切れないんじゃない?」

 

「その時は、本音に任せますよ。いくら怠ける事に全力を注ぐ本音でも、対象が狙われたらさすがに働くはずです」

 

「だと良いのですが……」

 

 

 不安げに呟く虚に、一夏は苦笑いを向けて話題を変える事にした。

 

「とりあえず、刀奈さんは大会が近いんですし、虚さんも交流会で海外に行くんですから、俺の事だけを心配してれば良いわけじゃないんですよ、分かってます?」

 

「私たちも狙われる可能性はゼロじゃないって事でしょ? 分かってるけど、やっぱり一夏君が心配なのよ」

 

「そうですよ。私たちはISという抵抗力を有してますが、一夏さんは丸腰なんですから」

 

「だから、護衛の本音がいますから。安心は出来ないかもしれませんが、心配し過ぎは良くないですよ」

 

 

 一夏の言葉に、一応の納得を見せた刀奈と虚だったが、やはり一夏の事が心配で仕方なかったのだった。




刀奈もダメな部分がありますが、あの姉妹に比べれば……

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