暗部の一夏君   作:猫林13世

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たまにはこういう展開もあり?


美紀の勇気

 授業に生徒会、アメリカへの警戒に加えて本音たちの復習に付き合っていた一夏は、少し眠たそうに目を擦った。それを目敏く見ていた刀奈が、心配そうに一夏の隣に腰を下ろした。

 

「一夏君、眠いの?」

 

「いえ、まだ大丈夫です……それよりも、本音の方は良いんですか?」

 

「虚ちゃんが代わってくれたからね。私も休憩時間よ」

 

 

 数人で代わる代わる問題児たちの勉強を見ているため、休憩時間が被る場合もあるが、あまりにもタイミングが良すぎるように一夏は感じていた。

 

「まだ本格的ではないにしても、本音にはもう少しまともになってもらいたいものですね」

 

「ほんとよね……中学から数えてこれで何度目だっけ?」

 

「受験とかもありましたし、本音は補習もありましたから、結構な数やってると思いますよ」

 

 

 休憩中もアメリカの動きを警戒している一夏に、刀奈は腕を絡ませてモニターから手を離させる。

 

「どうしたんです?」

 

「少しは休みなさい。これはお義姉ちゃんからの命令よ」

 

「仮にも当主なんですが、俺は……まぁ、義姉さんの命令なら仕方ありませんか」

 

 

 苦笑いを浮かべながらも、一夏は端末の電源を落とし大人しく休憩する事にした。

 

「一夏君にしか出来ない事だから仕方ないのかもしれないけど、もう少し休む事をしないと倒れちゃうわよ」

 

「五徹までならしたことあるので、これくらいで倒れることは無いでしょうが、頭が働かなくなるのは確かですからね」

 

「それでなくても一夏君はいろいろと忙しいんだから、あまり無理しちゃだめだからね」

 

「一夏、そろそろ交代だけど、大丈夫?」

 

 

 休憩時間が終わり、簪と交代するタイミングで、簪が心配そうに一夏の顔を覗き込んできた。

 

「なんだ、簪まで……そんなに疲れてるような顔をしてるか?」

 

「普通の人には分からないだろうけども、私たちは誤魔化せないよ。一夏、凄く無理してる」

 

「やれやれ……家族は誤魔化せないか。確かに無理してるかもしれないが、心配される程じゃないと思うんだがな」

 

「そんな事ない。どんな些細な事でも私たちは一夏の事を心配するんだから、一夏ももう少し自分の事を大事にしてよね」

 

「あ、あぁ……すまない」

 

 

 簪の剣幕に気圧され、素直に頭を下げる一夏。簪がもう少し延長して良いという事で、一夏はそのまま身体を休める事にした。

 

「相変わらず簪ちゃんが怒ると怖いわね……静かに怒るから余計に怖いのかもしれないけど」

 

「何で刀奈さんまで怯えてるんですか」

 

「隣にいたからかな……」

 

 

 巻き込まれた刀奈は、震えるまではいかなくても、顔を引きつらせていた。姉の威厳とかそういうのは何処にもなく、ただ単に一夏の腕にしがみつく格好になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勉強会もお開きになり、一夏はベッドに倒れ込んだ。体力の限界、とかではないのだが、それだけ疲労が蓄積しているのだろうと、美紀はゆっくりと一夏にブランケットをかける。

 

「一夏さん、もう少し他の人に任せる事は出来ないのですか?」

 

「これでもだいぶ任せてるんだがな……」

 

「勉強に関しては申し訳ないですけど、それ以外なら私も手伝えますので」

 

「美紀にはかなり助けてもらってるんだけどな」

 

「私、そんなに一夏さんの為に働いた覚えは無いんですけど……」

 

 

 生徒会の仕事には参加出来ないし、整備やシステムの書き換えは簪が手伝っているが、美紀はこれといって手伝った覚えは無いのだ。だから一夏が「助けてもらってる」と言っても美紀には身に覚えが無いのだ。

 

「護衛として常に守ってもらってるだろ」

 

「あれは碧さんがいるからですよ。私一人で一夏さんを守り通せるなどという自惚れは抱いていませんよ」

 

「それこそ謙遜だろ。美紀は十分強いし、気配にも敏いからな。護衛としてはかなり高い実力を有してると思うぞ」

 

「一夏さんなら、護衛などいなくてもある程度自分の身は守れるはずですけどね。人間恐怖症に加えて女性恐怖症さえなければ、私などいなくても十分ですし」

 

「そういう事言うなよ、寂しいだろ」

 

「寂しい?」

 

 

 思いがけない単語に、美紀はただ繰り返す事しか出来なかった。

 

「記憶を失い、周りが全員敵だと思うしかなかった俺を救ってくれたのは刀奈さんや美紀たちなんだから。いなくてもいいとか言うなよ」

 

「一夏さんって、思いの外寂しがり屋なんですね」

 

「警戒心を抱かなくてもいい相手など、本当に数える程度しかいないんだ。ましてや美紀たちは一緒にいて安心出来るから、出来る事なら一緒にいてもらいたいと思ってる」

 

「私たちは、一夏さんが拒否しても側にいるつもりですけどね」

 

「そうだったな……そろそろ異性として相手してあげた方が良いのかもしれないが、生憎良く分からないし」

 

「いいですよ、そんなこと。一夏さんのペースで慣れてくれれば。私たちは、一夏さんがそう言うことに疎い事は知っていますから」

 

「反論したいが、全くその通りだから返す言葉もないな」

 

 

 美紀の言葉に苦笑いを浮かべながら、一夏はそのまま瞼を閉じて眠りに落ちていった。

 

「お疲れ様です、一夏さん。これくらいは許してくださいね」

 

 

 眠っている一夏の唇にそっと自分の唇を重ねて、美紀は恥ずかしそうに自分のベッドに逃げ込んだのだった。




ルームメイトの特権ですかね……

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