暗部の一夏君   作:猫林13世

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こればっかりは仕方ない……


慣れない態度

 結果的に箒がラウラを惹き付けたお陰で、セシリアチームが何とか勝利を掴んだ。

 

「箒さん、お疲れ様でした。一番大変な役目でしたが、大丈夫でしたか?」

 

「織斑姉妹や一夏様の殺気を浴びたことが無かったら失神していたかもしれません……」

 

「織斑姉妹は分かるけど、一夏からも殺気を浴びせられたの?」

 

「正確に言うのであれば、一夏様に殺気を浴びせられている織斑姉妹の後ろにいたので、間接的に経験した、という事です」

 

「そう言う事ですか。それにしても、篠ノ之さんもかなり成長してるんじゃないですか? いくら更識製とはいえ訓練機で、第三世代を相手に善戦したんですから」

 

 

 マドカの言葉に、他の参加者も軒並み頷き箒の成長を称える。だが、箒はそれで満足していないようで、小さく首を振った。

 

「まだまだこの程度では一夏様に頂いた恩をお返しするに至りません。これからも精一杯訓練を続けていきたいです」

 

「それは僕たちもだよ。まぁ、僕は鈍らない程度の運動だけど、ここにいる殆どが次期代表、次期候補生たちだからね。この訓練に参加するだけでもかなりの経験を積めると思うよ」

 

「これ以上を望むのなら、お兄ちゃんたちの訓練に参加すると良い。あそこには現役の代表である刀奈さんや簪、美紀といった実力者と同等の実力者である虚さんや本音、更にはその全員を凌駕する碧さんがいるからな」

 

「私やマナカでも太刀打ち出来ませんけどね」

 

 

 この集団も傍から見ればかなりハイレベルな集まりなのだが、マナカが言うように一夏が参加してる訓練はこれ以上にハイレベルな集まりなのだ。

 

「ですが、そこに混ざるにしても、まだまだ経験が足りませんので、いましばらくは皆さんの訓練に参加させていただきたいのですが」

 

「構いませんわよ。日下部さんもだいぶ箒さんに慣れたようで、必要以上に緊張しなくなりましたし」

 

 

 セシリアに視線を向けられ、香澄は小さく、だが力強い態度で頷いた。

 

「そもそも香澄は未来視があるんだから、必要以上に緊張する事は無いと思うんだが」

 

「今の篠ノ之さんは安全だって分かってはいるのですが、どうしても前の篠ノ之さんの事が頭を過ってしまうんですよ……」

 

「それは分からなくもないけどね」

 

 

 香澄の言葉に静寐が同意するが、他のメンバーも多かれ少なかれ思っている事なので、箒も苦笑いを浮かべて香澄に頭を下げた。

 

「これから私の態度で過去の私の恐怖を取り除いていただけるよう精進しますので、どうかよろしくお願いします」

 

「こ、こちらこそ……よろしくお願いします」

 

 

 箒の礼儀正しさにちょっと気圧されたが、香澄もしっかりと挨拶を返し握手をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 VTSのメンテナンスをしていた一夏の背後に、二人の女性の気配が生まれた。もちろん、護衛として碧と美紀が控えているので、危険性は無いし、一夏もこの気配に慣れつつあるので驚くことなく振り返った。

 

「なにか用か?」

 

「腕が鈍らないように訓練しようと思ってきたんだけど、メンテナンス中じゃしょうがないわね」

 

「そもそも許可を出してないんだが?」

 

「だから、ついでに許可を貰おうと思ってたんだけどね」

 

「……そっちの二機は既にメンテナンスは終わっているから、使いたければ使ってもいいぞ」

 

「それじゃあ、遠慮なく」

 

 

 スコールとオータムがメンテナンスが終了した二機の前に腰を下ろし、さっそく訓練を始めたのを、碧と美紀は興味深そうに眺めていた。

 

「何か気になることでも?」

 

「いえ、敵としては脅威でしたが、味方だと思うと頼もしいと思いまして」

 

「本音レベルでも苦戦しそうだと思いながら見てました」

 

「あれでも相当な実力者だからな。本音では厳しいかもしれないな」

 

 

 つまり他の候補生が一人で挑んでも勝ち目はないという事だが、そのくらいこの二人の実力は高いものなのだ。そうでなくても長年コンビを組んでいただけあって、互いの動きが分かっているかの如く位置取りをするので、ペアで戦っても勝ち目は薄い。敵として考えれば、これほど面倒な相手はいないだろうと一夏も思っているくらいだ。

 

「それ以前に、俺はオータムに一対一で話す事すら出来ないからな……」

 

「まだ克服出来ないんですか?」

 

「そんなに簡単に克服出来たら、トラウマなんて言いませんって……」

 

 

 過去に植え付けられた恐怖心を克服出来ずにいるから、こうして護衛に碧と美紀をつけているのであって、克服出来たのなら、二人が一夏の側にいる理由が無くなってしまう。それが分かっているので、碧はからかい半分で一夏の女性恐怖症が改善出来ていない事を確かめたのだった。

 

「とにかく、早いところ残りの機体のメンテナンスも終わらせましょう」

 

「簪ちゃんに手伝いを頼めばよかったのではありませんか?」

 

「簪は刀奈さんと特訓だそうだ。本当なら美紀も誘いたかったらしいがな」

 

「私は一夏さんの護衛としての任務がありますから」

 

「だから代わりに虚さんと本音を連れて二対二の訓練をしているらしい」

 

 

 連携の確認だろうかと思ったが、正式なペアである自分がそこにいないのに確認も無いかと考えなおし、美紀は単純に暇を持て余していたのだろうと考える事にしたのだった。




なかなか払拭できないからトラウマなんですからね……

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