暗部の一夏君   作:猫林13世

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実力だけは間違いないんですけどね……


駄姉と駄ウサギ

 一夏にクロエを任せたため、束の食生活はさらに酷いものになっていた。クロエに任せていた時は、三回に一回は消し炭だったとはいえ、二回はまともな食事を摂っていたが、今は食材そのままだったり、調理しなければいけないものですらそのまま齧りついたりになっていた。

 

「えっと……このプログラムはこれで解除出来るでしょ……それからこっちがこうで……」

 

 

 誰もいないからという事で、束はだらしない恰好でパソコンの前に座り、食材を齧りながらアメリカの軍事システムに潜り込もうとしていた。

 

「さすがに一度忍び込んだ所為か、カウンターシステムが強化されてるね……それでも、この天才束さんに掛かれば解析できないプログラムは無いんだけどね~」

 

 

 強がりにも聞こえるが、束は時間さえかければ確実に忍び込める自信があった。だが一夏の事を考えるとあまり悠長にしていられないので、こうして周りとの交流を断ってまでハッキングに勤しんでいたのだ。

 

「せめてもの罪滅ぼしになればいいけど……いっくんの人生は私が変えちゃったわけだし……」

 

 

 ISを発表していなければ、一夏が攫われることも無く、世界に勘違い女がはびこることも無かっただろうと、束は心底後悔している。他人に興味は無くても、その他人が一夏に迷惑を掛ければその相手を全力で排除する事も厭わない。だが、全ての元凶は自分だと思い知ってからは、出来る限り一夏の為に動こうと決めていたのだ。

 

「この『カップ麺』って、そのまま食べても美味しくないんだね」

 

「当たり前でしょうが……」

 

「誰だっ! って、いっくん? どうしたのこんな所まで」

 

「いえ、気配を感じ取ったので何か用なのかと思って確認しに来ただけです。ハッキングに集中し過ぎて、ラボに移動命令を出さなかったんですか?」

 

「あっ、ここはIS学園の上空か……ステルス機能は一応発動しておいたんだけど、いっくん相手じゃ意味がなかったか……」

 

「キッチンを借りますよ。一週間分くらいは作り置き出来るでしょうから、日持ちしないものから食べて行ってくださいね」

 

「さすがいっくん! 束さんの事を愛してくれてるね~」

 

「ふざけたことぬかすと、ここに織斑姉妹を押しかけさせますよ」

 

「ちーちゃんとなっちゃんが来ても戦力にはならないから止めてほしいかな……」

 

 

 一夏の脅しにやれやれと首を振って、束は再びハッキングに集中し始める。一夏もそれを見てすぐにキッチンに移動し、残っている食材で栄養バランスを考えた食事を作り、冷蔵庫や冷凍庫に入れて部屋に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、軽く体を動かそうと外に出た一夏に、織斑姉妹が声を掛けてきた。

 

「ちょっといいか?」

 

「良くありません。それでは――」

 

「逃げる事は無いだろ。別に取って食おうというわけではないんだから」

 

 

 あからさまに嫌そうな表情を浮かべた一夏に対して、織斑姉妹は嬉しそうな笑みを浮かべている。

 

「マゾなんですか? 気持ち悪いですよ、その笑顔」

 

「お前と話せるのが嬉しいだけだ。早速本題だが」

 

「手短にお願いしますよ」

 

「簡単な事だ。昨日、夜中に外に出たな?」

 

「ええ。駄ウサギの気配を感じ取りまして、ちょっとラボまで」

 

 

 隠す事でもないので、一夏は正直に話す。元々消灯時間後でも緊急の用件などで外出する事もあるので、一夏にとって門限はあまり関係ないのだ。

 

「束の所に? 何をしたんだ?」

 

「特にこれと言って何をした、というわけではありませんが……即席麺をそのまま齧りついていたので、一週間分の食事の用意と、最低限の掃除をして帰ってきました」

 

「一夏の料理…だと……」

 

「ちょっと束のラボまで行ってくる」

 

「邪魔するのは止めた方が良いですよ。珍しく集中してますので、不審者扱いされて迎撃される可能性もありますから」

 

「アイツのメカなど、簡単に捻りつぶしてやるわ」

 

「何をしに行くか分かっているのに、止めないとでも思いましたか? 貴女たちにもそれなりに期待しているんですから、くれぐれも邪魔だけはしないでください」

 

 

 そう言い残して一夏は二人の前からいなくなる。残された二人は、一夏に期待されているという事が嬉しかったのか、既に周りが見えなくなっていた。

 

「一夏がお姉ちゃんに期待してくれているとはな」

 

「これまで散々怒られてきたが、わたしたちの事を認めてくれているのだな」

 

「……一夏さんは最初から、貴女たちの実力『だけ』は認めていますよ」

 

 

 浮かれ切った双子に、碧が冷めた視線を向けながら呟く。完全に気づいていなかったのか、双子は戦闘態勢を取ったが、すぐに解除した。

 

「小鳥遊か……盗み聞きとは趣味が悪いな」

 

「最初からいました。そもそも、私は一夏さんの護衛なのですから、側にいて当然だと思いますが」

 

「ふん、貴様などいなくても一夏の身の安全はわたしたちが保証する」

 

「誘拐されたのも、オータムに襲われたのも、貴女たちが監視対象から目を離したり、自分たちの事しか考えなかったからじゃないのですかね? その二人に任せられると思ってるんですか? 一夏さんは既に、更識企業にとっていなくてはならない存在なのですから。もちろん、私個人の気持ちとしても、いなくなられたら困りますけどね」

 

 

 そう言い残して、碧は織斑姉妹にも分からないように気配を消した。残された二人は、碧の言葉が深く突き刺さったのか、その場に膝をついていたのだった。




何でこうもダメさが目立ってしまうのだろうか……

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