暗部の一夏君   作:猫林13世

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交流の少ない相手といると疲れますからね……


お疲れの美紀

 部屋に戻りクロエがいる事にまだ慣れていなかった箒は、出迎えてくれたクロエに身構えてしまった。

 

「……脅かさないでくださいよ」

 

「私は普通に出迎えたつもりだったのですが……気配も消したつもりはありませんし」

 

「クロエさんの気配は掴みにくいですからね……もちろん、一夏様や織斑姉妹、小鳥遊先生に比べればわかりやすいですが、それはあくまでも達人クラスの人たちの話。私程度の実力ではクロエさんの気配もすぐには掴めませんので」

 

「気配が分かるだけでも、十分凄いとは思いますが」

 

 

 実際IS学園の生徒の中で、他人の気配が掴めるのは数える程度しかいない。その中で考えれば、箒はかなりの実力者なのだが、比べる相手が悪すぎるとクロエは感じていた。

 

「一夏さんや千冬さんに千夏さん、小鳥遊さんは束様と同じレベルですし、更識所属の面々と比べるのも間違っていると思います。彼女たちは一応暗部所属の人間ですので、気配に敏くなければ死んでしまう可能性だってあるのですから」

 

「そうかもしれませんね。気配云々はさておき、私がクロエさんが部屋にいる事を忘れなければいいだけですね」

 

「ずっと一人だったから仕方ないかもしれませんけどね」

 

 

 クロエも箒がしばらく一人部屋だったことを知っているので、部屋に誰かいた時驚いてしまうのは仕方ないと思っている。だが、さすがに毎回驚かれるのはクロエにもダメージがあるので、なるべく気配を消すことなく出迎えているのだが、二日過ごしたくらいでは慣れてはくれなかったのだ。

 

「今日は何をしていたのです?」

 

「一日中のんびりしていました。基本的にこの部屋から出る事は無いので、一夏さんが料理本を貸してくださいましたので、それを読んでいました」

 

「料理本? 一夏様がですか?」

 

 

 一夏がそのようなものに頼っているとは思えなかった箒が不思議そうに首を傾げる。それを見てクロエはすぐに種明かしをするのだった。

 

「図書室から一夏さんがお借りになった本を、私に貸してくださったのです。私はこの学園の人間ではないので、図書室から本を借りる事も出来ませんので」

 

「そう言う事でしたか。ですが、一夏様に頼めばクロエさん自身が借りる事も出来るのではありませんか?」

 

「さすがにそこまで面倒をかけるつもりはありません。こうして身柄を預かってもらえただけで、かなりの無理をさせているはずですし」

 

 

 クロエも自分がここにいられる事がかなりの無理を通した結果だという事は理解しているので、これ以上を望む事はしないし、箒にもその気持ちが理解出来るので、これ以上は何も言うことは無かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本音たちのテスト対策を考えるべく、一夏は部屋に戻ってすぐ仕事用ではないパソコンを開き何やら作業を始めた。

 

「一夏さん、今日はもうお休みになった方が良いのではないでしょうか」

 

「まだそれほど遅い時間でもないし、本音たちの成績を考えると、今から準備しておかないとマズいだろうからな」

 

「申し訳ありません……私が理解するのが遅いばっかりに……」

 

「最終的に理解してくれるだけマシだろ。本音など何度説明しても理解してない感じだからな……それでも、テストではしっかり点を取るから救われるが」

 

「本音は一夏さんに甘えたいだけですからね……」

 

 

 一度説明されれば本音だってある程度理解することは出来る。それでも何度も説明を受けるのは、一夏が自分の為に一生懸命になっているという事実が嬉しいからであり、それが一夏の邪魔をしているなどと思っていないからだった。

 

「実際、簪ちゃんに説明されたところは、ちゃんと理解してますからね」

 

「俺の教え方が悪いのかとも思ったが、そうじゃないんだよな……」

 

「次はあまり本音に絡まなようにしたらどうでしょうか? 今まで以上に人も多そうですし、本音に構っている時間はあまり無いようにも思えますし」

 

「そうだな……そもそも、これは教師がするべき仕事なんだがな」

 

 

 職員室に視線を向け、数回首を左右に振ってからパソコンに視線を戻した。あまり真耶に期待し過ぎるのも問題だと思ったのだろうと、美紀は今の行動をそう解釈したのだった。

 

「美紀も今の内から復習しておいた方が良いんじゃないか?」

 

「そうですね。一夏さんの手間を減らす為にも、私も頑張らないといけませんからね」

 

 

 そう言って過去のノートをを取り出し復習を始める美紀だったが、彼女は一度理解すればその後もずっと覚えておけるタイプなので、二学期までの範囲は問題なく理解しているのだ。

 

「問題は二学期末以降なんですよね……」

 

「こればっかりは一人では無理か……」

 

「申し訳ありません……」

 

「いや、美紀が悪いわけじゃないだろ……とりあえず、今日は休んでもいいぞ」

 

「いえ、一夏さんの作業が終わるまでお付き合いします」

 

 

 美紀が無理をしているのは一夏も把握している。自分が無理をしているように、護衛の美紀だってそれなりに疲れているのだから、早めに休ませた方が良いと。しかし自分が作業を続ける限り美紀は休もうとしないので、一夏はため息を吐いてパソコンを閉じたのだった。

 

「今日は俺も休むから、美紀も無理せず休んでくれ」

 

「……バレてましたか」

 

「昨日から少し辛そうだったからな。ゆっくりしてくれ」

 

「ありがとうございます。さすがに関わりのない人の家にお邪魔する、というのは精神的に疲れました」

 

「すまないな」

 

 

 五反田家を訪れた所為で疲れていた美紀は、すぐに規則正しい寝息をたてて眠ったのだった。




一夏も美紀も、他の人もみんなお疲れの様子……

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