久しぶりに一日普通に授業に参加した一夏は、机に突っ伏している本音に声を掛けた。
「今日は生徒会の仕事はいいのか?」
「いっちー……試験範囲ってどこからなの?」
「学年末だからな。恐らく一年間で習ったところすべてだろう」
「そんなの無理に決まってるじゃないか~……美紀ちゃんだって、無理だよね?」
「私は……何とかしたいですけど……」
「まだ時間はあるから、ゆっくりと復習していけばいいだろ。ほら、生徒会室に行くぞ」
学年末試験まであと一ヶ月以上あるので、一夏は特に気にした様子もなく本音を叩き起こして生徒会室に向かうつもりだった。だが、本音や美紀だけではなく、マドカたちも一夏に泣きついてきたのだった。
「兄さま、私たちも不安なのですが……」
「だいたい、私は殆ど授業に出てないのに、他の人と同じ範囲なんておかしくない?」
「威張って言う事ではないと思いますが……一夏様、私も記憶が無いので試験範囲すべてとなると不安なのですが」
「わ、私も……毎回申し訳ないですが……」
マドカ、マナカ、箒、香澄と泣きそうな顔で話しかけてきたので、一夏は困った表情を浮かべた。
「他に学年末が厳しそうだなと思ってる人はいるか?」
教室に残っているクラスメイトたちに確認すると、だいたいが手を挙げて困っている事をアピールした。
「最近授業に出てなかったから忘れてたが、このクラスの座学は山田先生が担当だったな……」
「すぐ脱線してしまいますからね……」
「山田先生に問題があるんじゃなくて、みんなが脱線させてるんだから自業自得だとも思うんだが……少し考えてみるとするか」
さすがに赤点続出となるといろいろと問題があるため、一夏はどうにか出来ないか考える事にしたのだった。
「とりあえず、静寐には手伝ってもらうからな。逃げるなよ?」
「あはは、バレちゃってたか……もちろん、一夏君に頼ってもらえるなら、私も出来る限り手伝うけどね」
「後はセシリアとシャルにも、出来る範囲で手伝ってもらうかもしれないから、そのつもりで」
「うん、わかったよ」
「分かりましたわ。私も、出来る限りお手伝いさせていただきますわ」
とりあえず後は簪にも手伝ってもらうと考え、一夏は本音を連れて生徒会室に移動する事にしたのだった。
一夏が生徒会室に顔を出したおかげで、いつも以上に早く仕事が終わったので、刀奈は一息つくことにしたのだった。
「――というわけなのですが、どうしましょうかね」
「一夏君も大変ね~。私も手伝える範囲で手伝うわね」
「ありがとうございます。ですが、刀奈さんも試験があることには変わりないので、そちらを優先してください」
「テストなんて、授業をちゃんと聞いてればだいたい出来ると思うんだけど」
「俺もそう思うんですが、どうもそういう人間の方が稀のようですよ」
「そもそも、一夏君は授業に出てないんじゃないの?」
「ノートを借りてそれで理解してますから」
それだけで理解出来るのは、一夏が優秀だからだろうと刀奈も虚も思ったが、そこにツッコミを入れたところで意味はないので流した。
「それでさっきから本音が過去のノートを一生懸命確認してるのか~」
「見ただけで理解出来るなら、焦る必要は無いと思うんですがね」
「全くです。普段からしっかりと予習復習をしておけば焦る必要なんて無いと何度も言ったんですが……」
「私は、いっちーや刀奈様、おね~ちゃんのように頭が良いわけじゃないから大変なんだよ~! 何で私と美紀ちゃんだけ勉強が苦手で、後の人は得意なのか全然分からないし」
「美紀は理解するのに時間がかかるだけで、苦手ってわけじゃないだろ」
「自力じゃ私とあまり変わらないから、苦手って表現であってると思うけどね~」
「美紀さんの事をとやかく言ってる暇があるのなら、自分の事を気にしたらどうです? 留年なんてしたらお父さんたちに怒られるだけじゃすまないと思いますが」
「いっちー、生徒会特権で何とかならないかな~?」
「なるわけないだろ。ふざけた事考えてる暇があったら、ちゃんと復習しておけよな。もう少ししたらテスト対策も考えてやるけど、それまでは自力で何とかするしかないんだからな」
クラスメイトだけではなく、エイミィやティナからも頼まれてしまった一夏は、テスト対策にまで頭を悩ませなければいけなくなってしまったのだ。
「一夏君って、不幸が舞い込みやすい体質なのかしらね?」
「別に不幸ってほどではないですが、面倒事が舞い込みやすいのは確かですね……」
「いっちーはそう言う星の許に生まれたんだと思うよ~」
「そんな星は滅びてしまえ」
「本音、この計算間違ってますよ」
「ほえ~……今計算とか漢字とか言わないでよ~……」
「本音の勉強嫌いも筋金入りね……」
付き合いが長いからこそ言える事だが、刀奈の呟きに一夏も虚も苦笑いを浮かべながら頷いた。本音が勉強嫌いなのは小学生の頃からで、未だにそれが続いているから、テスト前に一夏に泣きつくのだ。
「一夏さんが手伝ってくれてるからいいですが、もう少し自力で何とかできるようにならないと駄目ですからね」
「これでも頑張ってるんだけどね~……」
「つまり、もう少し頑張るんですね」
虚に一刀両断された本音は、その場に崩れ落ちたのだった。
今から対策しておかないと、本音はヤバそうですしね……