暗部の一夏君   作:猫林13世

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既に精神は大人レベルですがね……


小学校卒業

 小学校の卒業式など、さほど堅苦しく考えている子供は多くないだろう。大抵は同じ中学に進級し、そのまま付き合いを続けるのだから仕方ないだろう。だがしかし、この学校には例外が存在しており、一夏の周りには級友や学友たちが集まっていた。

 

「なんだいったい……今生の別れでもあるまいし……」

 

「いやー、篠ノ之の所為であまり話せなかったが、お前って結構人気あったんだぞ?」

 

「そうなのか? 普通に話しかけてくれてよかったんだが……」

 

「だから、篠ノ之が怖くて話しかけられなかったんだよ。男子も女子も」

 

「また、篠ノ之箒……いったいどんな女だったのよ?」

 

 

 面識の無い鈴には、たびたび話題に上がる篠ノ之箒という人物を、上手く想像出来ていなかったのだった。暴力的で思い込みが激しい、それが鈴の篠ノ之箒像だった。

 

「どんなと言われてもな……よく覚えてないし」

 

「更識に付きまとって、近づく相手全てに威嚇してたな」

 

「自分は更識の幼馴染だから、とか言ってね」

 

「更識君、迷惑そうにしてたのに全然気づいて無かったし」

 

「実家が道場らしくて、剣道は強かったんだっけ? だからモップを振り回された時は怖かったって訊いたけど」

 

 

 次々と出てくる箒に対するコメントに、鈴はあった事も無い篠ノ之箒という人物に嫌悪感を抱いた。

 

「随分と自分勝手なヤツね。よく一夏が怒らなかったわね」

 

「更識の人に排除してもらったし、あの人の妹だから、そのうち日本政府が対応するだろうと思ってたからな」

 

「あの人? ……篠ノ之束博士?」

 

「そ、だから放っておいてもそのうち消えるだろうと思ってたから」

 

 

 そもそも、篠ノ之箒に重要人物保護プログラムを適応するように仕掛けていたのは、更識家であり一夏と先代楯無だ。だからそのうち消えると思っていたのも、むしろ確信めいていたと友人たちは証言した。

 

「とにかく、アンタは別の中学だし、今日は騒ぐわよー!」

 

「昨日も騒いだだろ……厳さんに怒鳴られるくらいに……」

 

「あれは、あの阿呆二人が悪いんでしょ!」

 

 

 弾と数馬が最弱を決める争いで白熱し、声のボリュームを上げたところに厳が怒鳴りこんできたのだ。それまでもそこそこ騒がしかったのだが、それがきっかけとなり昨日はそこで解散になったのだった。

 

「悪いが、今日はパス。色々とあって急いで帰らなきゃいけないからな」

 

「なによ、アンタがいなきゃ騒ぐ意味が無いでしょ! 殆どは同じ中学なんだから」

 

「別に良いだろ。鈴は俺のアドレス知ってるんだから、そのうち連絡くれれば遊べるだろ」

 

「ま、それもそうね……じゃあ一夏、そのうち連絡するわ」

 

「ん」

 

 

 右手を軽くあげて、一夏は教室から出て行った。その後ろ姿を見た数名の女子が、追いかけようとするのを何とか堪えている姿が見受けられたが、誰もそこは指摘しなかった。

 

「じゃあアタシたちだけで騒ぎますか!」

 

「騒ぐのはお前だけだろ」

 

「あによ! アンタたちだってどうせ騒ぐわよ」

 

 

 誰一人別れを惜しむ事無く、卒業式の打ち上げ的な企画は盛大に行われたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 更識の屋敷では、一夏、簪、美紀、本音の帰りを今か今かと待っている少女と、その少女に付き合わされている少女が待っていた。

 

「お嬢様、家の事情という事で休んでいるのに、これはどういう事ですか?」

 

「どういう事って、見ての通り一夏君や簪ちゃんたちの卒業パーティーよ! 盛大にお祝いしなくっちゃ!」

 

「普通に学校から帰って来てからでも準備出来ましたね? わざわざ私とお嬢様が中学を休まなければならない必要性はあったのでしょうか?」

 

「あるわよ! 盛大にお祝いするには、それなりに準備が必要だし、一夏君には日ごろお世話になってるんだから、その感謝の意味も込めなきゃいけないんだから」

 

「……単純にお嬢様が学校をサボりたかっただけでは?」

 

 

 虚が呟いた言葉に、刀奈は視線を少し逸らした。多少はその気持ちがあったのかもしれないが、虚はあえて追及する事はしなかった。

 

「まぁ、一夏さんも仕方ないと言ってくれましたし……お嬢様を説得する労力と、諦めて受け容れる労力と、どっちが負担か考えたんでしょうが……」

 

「まぁ、簪ちゃんたちも納得しくれてるし、専用機のメンテナンスもあったんだから仕方ないじゃない」

 

「データのアップロードですよね。でも、それだって一夏さんがいなければ出来ない訳ですし……」

 

「さーて! 早く準備を終わらせるわよ」

 

「逃げましたね……」

 

 

 逃げるように飾り付けを再開した刀奈に、虚はため息を漏らした。

 

『ため息を吐くと、幸せが逃げますよ』

 

「そんな事を言っても、お嬢様の態度にはため息を吐きたくなりますって」

 

『まぁ分かりますが、まだ若いんですから。そんなにため息ばっか吐いてると、年寄りっぽいと思われますよ』

 

「……分かってはいますが、どうしても堪えられないんですよ」

 

 

 丙に話しかけられ、虚は自分の心境を吐露する。前当主の娘であり、自分の主でもある刀奈に、虚はどうしても強く言えないのだ。

 

『一度一夏さんに相談……って、まだ気まずい雰囲気を引き摺ってるんですか?』

 

 

 一夏の名前を出した時、虚の心拍数が少し跳ね上がったのを感じ取り、丙が訊ねた。

 

「一応は大丈夫ですけど、二人きりで会うのはちょっと……」

 

『はぁ……乙女なのはいいですが、何時までも引き摺ってると致命傷になりかねませんよ? ただでさえ人気が高いんですから』

 

「分かってます……」

 

『虚ちゃーん! 早く手伝ってー!』

 

「今行きます」

 

 

 少し離れたところから刀奈に声を掛けられ、虚は考えを中断して手伝う事にした。そんな虚を見て、丙は呆れた空気を醸し出していたのだった。




箒がいないおかげで大人気の一夏でした

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