暗部の一夏君   作:猫林13世

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彼はいろいろと大変ですからね……


忙しい理由

 いろいろあった週末が明け、再び憂鬱な月曜日がやってきた。朝から教室に顔を出していた一夏は、相変わらず物珍しいものを見る目に曝されていた。

 

「俺が教室にいるのはそんなにおかしいのか?」

 

「一夏さんは一、二学期と殆ど教室にいませんでしたからね」

 

「学生とは思えない生活してたもんね、一夏君は」

 

「仕方ないだろ。亡国機業やら国際問題やらと、いろいろとこちらに文句が舞い込んできて片付けるのが大変だったんだから」

 

「他にも、専用機製造や最終調整などにも駆り出されておりましたから、その所為でもあるんですけどね」

 

 

 一夏が一人でISを造ったという事は公表していないので、美紀は言葉を濁して原因を追加した。

 

「そう言えば、セシリアさんとボーデヴィッヒさんのISの調整は終わったの?」

 

「あぁ、金曜の放課後に済ませた」

 

「相変わらず仕事が早いのね、一夏君は」

 

「静寐の鶺鴒も、問題があるようなら調整するが」

 

「大丈夫よ。この前一夏君がメンテナンスしてくれたから、調子はいいから」

 

 

 静寐の返事に、一夏は無言で頷いてから何か言いたそうにこちらを見ていた箒に視線を向けた。

 

「なにかあったんですか?」

 

「いえ。クロエさんは何時までこちらに滞在するのでしょうか?」

 

「さぁ? 束さんが無事に作業を終えたら迎えに来ると思いますが……何か問題でも?」

 

「いえ、そのような事は一切ありませんでした。ですが、やはり人がいるという事に慣れていない所為で、ちょっと居心地が悪いと感じる事はありますが……」

 

「それは慣れてもらうしかないですね。他に部屋もありませんし」

 

 

 箒も一人部屋が良いなどというつもりは無いが、こればっかりは慣れなので仕方ないと一夏も思っていた。

 

「また厄介ごとなの?」

 

「いや、駄ウサギがちょっと集中して作業するからと言って身柄を預かってほしいと頼まれただけだ」

 

「十分厄介ごとだと思うんだけど?」

 

「俺個人がどうこうするわけじゃないし、彼女は大人しい人だから厄介でもないしな」

 

「一夏君がそれでいいなら別に良いんだけど……よく織斑姉妹が許可したね、そんなこと」

 

「事情が事情だからな。上手く行けば悩みの種が一つ減る事になるからと許可してもらった」

 

「なるほど、一夏君からのお願いでもあるなら、織斑姉妹が断るはずもないか」

 

 

 そこで納得されるのは一夏としても不本意ではあったが、事細かに説明するつもりは無かったので、これ以上追及されないならそれでもいいかと思い直し、静寐にツッコミを入れるのは止めにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏に整備してもらってから初めての実習で、セシリアとラウラは今までにない手ごたえを感じていた。調整後に動作不備などが無いかの確認の為に一度動かしたが、本格的に動かすとやはり整備の違いを実感したのだ。

 

「セシリアとラウラ、今日はいつも以上に動きがスムーズだったね。やっぱり一夏に整備してもらったから?」

 

「そうだと思いますわ。いきなり自分の腕が上がった、などと思う程訓練した覚えはありませんし、それ以外だとやはり一夏さんに整備してもらったから、としか考えられませんわ」

 

「これだけスムーズになるなら、お兄ちゃんをドイツ軍で雇って整備してもらいたいくらいだ。だが、お兄ちゃんは更識のトップだから、それは無理だろうし、例え可能だとしても、そんな予算はドイツ軍には無いからな……残念だ」

 

「それ以前に、織斑姉妹がそんなことを許してくれるとは思えないんだけど?」

 

 

 シャルロットが視線を向けた先には、物凄い形相でラウラを睨みつけている織斑姉妹がいた。ラウラは全身を震わせてから、織斑姉妹に敬礼をして視線を逸らした。

 

「こ、怖かった……危うくトラウマが発動するところだった」

 

「いったい何をしたのですの? ラウラさんがそこまで怖がるとは、よほどの事だとは思いますが」

 

「口にするのも恐ろしい……出来る事ならすべて忘れたいと思う程の出来事だからな……」

 

「僕が一夏から聞いた限りでは、死にかけたらしいね」

 

「生きている素晴らしさが実感できるぞ。あまりお勧めはしないが……」

 

 

 軍人であるラウラが震えるほどの体験など、セシリアもシャルロットもしたいとは思わないので、謹んで遠慮する旨をラウラに伝えた。

 

「それが懸命だな。私だって、もう一度あれを体験する事になるくらいなら……」

 

「そこで止められると怖いんだけど」

 

「……はっ! 危うく死んでしまうところだった」

 

「思い出しただけで!?」

 

 

 どれほどの恐怖だったのかと興味はそそられるが、それを知ったら自分の精神が無事で済むかどうか分からないとシャルロットは感じていた。

 

「それよりも、そろそろお喋りを止めないと、織斑姉妹に怒られそうだしね」

 

「そうですわね。いくら自分のノルマが終わったとはいえ、私語をしていいという理由にはなりませんものね」

 

「ましてや私たちは専用機持ちだからな。他のクラスメイトに指導する役目があるからな」

 

 

 とりあえず私語はお開きにして、三人はクラスメイト達にアドバイスをしたり、実際に動いてみせて改善点などを事細かく教える事にしたのだった。

 

「候補生や専用機持ちとしての自覚が出てきたようだな」

 

「さすがはわたしたちの生徒だな」

 

「サボってないで、貴女たちも指導してください」

 

 

 自分たちの手柄だと自慢げに話していた双子に、一夏が冷めたツッコミを入れたのだった。




織斑姉妹がまともに働かないのも忙しい理由の一つ……

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