暗部の一夏君   作:猫林13世

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完敗でしょうけどね……


男としての魅力

 三時間勉強して、弾と数馬はその場に倒れ込んだ。

 

「たかだか三時間でだらしないな」

 

「お前と一緒にするなよ……普通の人間が三時間も集中力が続くわけないだろうが!」

 

「そうか? IS学園にはこれくらい普通に出来る人が大勢いるんだが」

 

「IS学園に入学出来るだけで選ばれた人間なんだから当然だろ! そもそも、そこを基準にしてる時点で一夏の方がおかしいんだよ!」

 

 

 弾と数馬に責められ、一夏は首を傾げながら美紀に意見を求めた。

 

「そうなのか?」

 

「私も三時間くらいなら何とかなりますが、それが普通ではないとは思いますよ」

 

「そうか……じゃあ、十分くらい休憩したら再開するぞ」

 

「十分で回復出来るか!」

 

「なんだだらしない……進級出来るかどうかなんだろ? もっと気合いみせてみろよ」

 

「一夏、二人を苛めて楽しんでるでしょ」

 

「別に苛めてるつもりは無いが、これくらいでへばるなら、大人しく留年しろとは思ってる」

 

 

 一夏からすれば、これくらいの問題は解けて当然なのだから、そう思っても仕方ないのかもしれないが、留年すれすれの二人からすれば、難問と呼べるレベルの問題をひたすら解いていたのだ。精神的にも体力的にも疲弊するのは当然である。

 

「とりあえず一時間は休憩させてくれ……」

 

「それでも少ないとは思うが、留年したら家から追い出されるからな……死ぬ気で勉強しなければいけねぇからな」

 

「それじゃあ、そこで寝っ転がってるんだな。俺はちょっと外に出る」

 

「急用?」

 

「いや、生徒会の様子を聞こうと思ってな」

 

 

 そう言って一夏は窓から飛び降り、何事もなかったように裏路地に入っていった。

 

「アイツもなかなか人外だな……」

 

「普通なら足にダメージが相当行くと思うんだが」

 

「あれくらい出来て当然でしょ? てか、出来ないの?」

 

「「俺らとIS操縦者を同じだと思うな!」」

 

「別にあれはIS云々は関係ないわよ」

 

 

 鈴としても出来て当然だと思っているので、弾と数馬が何に怒っているのかがイマイチ理解出来ていなかった。

 

「まぁ、お兄と数馬さんは男の中でも下の方ですから」

 

「底辺の間違いじゃない?」

 

「それはちょっと言い過ぎではないでしょうか……」

 

「じゃあ美紀は、一夏とこのぼんくら二人、どっちがいい?」

 

「もちろん一夏さんです!」

 

「この反応速度が答えよね」

 

 

 鈴たちの言い分に言い返す気力すら残っていない二人は、そのまま馬鹿にされ続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電話で生徒会の方は問題ないと報告され、一安心した一夏は、さすがにジャンプで部屋に戻る気になれず、裏口からこっそりと部屋に戻る事にした。

 

「何だ、男二人はまだ死んでるのか?」

 

「ちょっとからかったらトドメになっちゃったみたいでね」

 

「なにをしたんだ?」

 

「フツーよ、フツー。アンタとこの二人、どっちと付き合いたいかって二人に聞いただけ」

 

「美紀と蘭にか?」

 

「当然でしょ? まさかこのバカ二人に聞くわけないじゃない」

 

「分かってるから怒鳴るな」

 

 

 一夏としてはあくまでも確認の意味しかなかったのだが、鈴はそういう風に解釈してしまったようで少し大声で一夏に抗議した。

 

「それで、男として一夏に完敗したと理解して、そのまま気を失ったんだよね」

 

「非常に今更だとは思いますけどね」

 

 

 鈴と蘭の容赦のない感じに、美紀は苦笑いを浮かべながらも、あながち否定出来ないと内心では思っていたのだった。

 

「とりあえず起きるまで放っておくか。蘭は分からない箇所とか無いのか?」

 

「問題なく出来てます。IS学園の入試に向け日々努力してますから」

 

「蘭が入学するなら、あたしたちの後輩になるってわけね。ビシビシしごいてあげるから覚悟しなさい」

 

「私は日本国籍ですから、鈴さんにしごかれるわけにはいかないのではありませんか? ただでさえ日本には優秀なIS操縦者が沢山いるのに」

 

「中国にだっているわよ!」

 

「お前らも相変わらずだな……」

 

 

 昔からやたらと衝突が多かった鈴と蘭も変わっていないとしみじみと呟く一夏に、鈴と蘭は一瞬だけ鋭い視線を向けたが、すぐに恥ずかしくなって視線を逸らした。

 

「そういう一夏だって、見た目とかは変わってても、基本的には変わってないでしょ?」

 

「どうだろうな。自分の事は良く分からん」

 

「一夏さんは内面的にも幼少期と比べてかなり成長してると思いますよ。ですが、基本的に楽をしたいという部分は変わっていないかと」

 

「それは自覚してるがな」

 

 

 美紀の評価に、一夏は苦笑いを浮かべながら同意する。基本的に面倒事は避けたいと思っているのは昔からであり、その部分は変わっていないという事は彼自身が一番理解しているのだ。

 

「まぁ、面倒事は誰でも嫌だもんね。一夏が喜んで面倒事に取り組んでるなんて誰も思ってないわよ」

 

「むしろ一夏さんなら、面倒事を起こして他の人を困らせる方が似合ってる気がします」

 

「サディストだもんね」

 

「酷い言われようだな……そもそも、面倒事を起こして終わりなわけじゃないんだから、そんな面倒な事するわけないだろ」

 

「それもそうね……ところで、何時まで気絶してるフリをしてるのかしらね、この万年成績低空飛行組は」

 

「そろそろ一時間だし、再開するとするか」

 

 

 弾と数馬の為に集まっているのだから当然と言えば当然だが、二人の慈悲の無いセリフに弾と数馬はため息を吐いて起き上がるのだった。




知力、財力、器量……何一つ一夏に勝てる要素が無いな……

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