暗部の一夏君   作:猫林13世

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久しぶりでも無かったかも……


久しぶりの外出

 土曜日の午後、珍しく部屋で寛いでいた一夏の許に、鈴がやってきた。

 

「明日、大丈夫?」

 

「一応は大丈夫だが、いつ呼び出しがあるか分からないからな」

 

「それはあたしも同じよ。これでも国家代表候補生だもの」

 

「それでも構わないなら、弾と数馬に付き合えるが」

 

「了解。そうメールしとくわね」

 

 

 確認だけしたら、鈴は大人しく部屋から出て行った。もうちょっと居座るのではと疑っていた美紀は、呆気にとられた表情で鈴の後姿を見送っていた。

 

「アイツはサバサバしてるからな。こういう時は用件を済ませたらさっさと帰るぞ」

 

「そうみたいですね……」

 

「意外だったのか?」

 

「それなりに親しくさせてもらってましたが、鈴さんがあそこまでサバサバしてるとは思ってませんでしたから、ちょっと意外でした」

 

 

 誤魔化さずに素直に言う美紀に、一夏は苦笑いで応えた。

 

「あんまり長居すると、織斑姉妹が飛んでくるとでも思ったのかもな」

 

「一夏さん、私に誤魔化しは通用しませんからね」

 

「別に誤魔化してるわけではないが、鈴の事だから、刀奈さんか織斑姉妹のどちらかがやってくるかもとか思ってのかもしれないぞ。面倒事は極力嫌うからな、鈴も」

 

「それはなんとなく分かります」

 

 

 一夏も面倒な事は避けたいと思っているので、鈴もそうなのではないかと美紀も思えたので、今度の説明には納得の表情で頷いた。

 

「ところで、明日出かけるんですか?」

 

「そんな大層な事じゃないだろ。確か、進級が掛かってるから勉強を教えてほしいとかなんとか……そんな感じだった気がする」

 

「曖昧ですね……一夏さんが覚えてないなんて、珍しい事もあるんですね」

 

「あんまり興味が無かったからな。あいつらが留年しようが進級しようが、俺にはあまり関係ないから……いや、泣き付かれる回数が増えそうだから、関係あるか」

 

「お友達なのですよね?」

 

「悪友だ」

 

 

 その表現をする相手がどういうものなのか重々理解している美紀は、それ以上追及する事は止め、笑みを浮かべて頷いたのだった。

 

「それじゃあ、明日は私が護衛として付き添えばいいんですか?」

 

「必要ないとは思うが、一応頼めるか?」

 

「もちろんです。明日は訓練の予定も無いですし、一夏さんのお側にいられるのでしたら、喜んでお供いたしますよ」

 

「ちょっと大げさじゃないか?」

 

「そんなことありません」

 

 

 笑顔でそう言い切った美紀に、一夏は首を傾げながらもそれ以上の質問はしなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、鈴と美紀を引きつれ待ち合わせ場所にやってきた一夏が見たものは、見覚えのある男子二人が年上の女性に絡まれている姿だった。

 

「何処にでもいるのね、ああいうバカ女は」

 

「聞こえるぞ」

 

「聞こえるように言ってるんだから、当たり前でしょ」

 

 

 鈴の悪態は案の定二人に絡んでいた女性に聞こえたようで、矛先を二人から鈴に変えつかつかと近づいてきた。

 

「ちょっと貴女。私の事を『バカ女』とか言ったわね?」

 

「えぇ。どうせ女だってことをいいことにあのバカ二人に荷物持ちとかさせようとしたんでしょ」

 

「男なんて私たち女のいう事を聞いていればいいのよ。貴女だって、その男をこき使ってるんでしょ」

 

「お生憎様。この一夏をこき使おうだなんて、何処の誰にも出来ないわよ」

 

「おい」

 

 

 鈴の言葉に苦笑いを浮かべながらツッコミを入れたが、隣の美紀が当たり前だと言わんばかりに大きく頷いたのを見て、ツッコミはため息に変わったのだった。

 

「一夏? どこかで聞いた名前ね……」

 

「天下の更識企業の代表にして、世界的なIS整備士の更識一夏よ。旧姓織斑一夏、あんたらが神聖視している織斑姉妹の実弟にして、現日本代表の更識刀奈さんの義弟、ペア代表更識簪の義兄よ」

 

「人の事をペラペラと他人に話すなよな」

 

「これくらい言わなきゃ、この残念な脳みその持ち主には分からないだろうから仕方ないでしょ」

 

 

 案の定、女性は口をパクパクさせ一夏を指差し、何も言えずにその場から立ち去っていった。

 

「悪いな、鈴。助かったぜ」

 

「後で昼飯奢りなさいよね」

 

「また集るのかよ! 俺らより十分稼いでるんだろ?」

 

「金を持っているからこそ、使わないのよ。そもそも、助けられたって分かってるなら、大人しく奢りなさいよね。もちろん、一夏や美紀にも」

 

「そっちの人は誰だ? 一夏の彼女か?」

 

「あんたね……いくら関係のない世界だからって、国家代表の顔くらい覚えておきなさいよね」

 

「はじめまして。一夏さんの護衛兼ペア日本代表の四月一日美紀です」

 

「あぁ、それで見たことがあったのか」

 

 

 納得がいった弾と数馬が大きく手を叩き、鈴に尻を蹴られてから自己紹介をする。

 

「一夏の友人、五反田弾です」

 

「同じく、御手洗数馬です」

 

「あんまり近づかない方が良いわよ。バカが移るから」

 

「「移るか!」」

 

「久しぶりに顔を見たが、特に変わりは無さそうだな。それで、進級ギリギリのおバカさんたちは、俺に何の用なんだ?」

 

「「……勉強を教えてください、お願いします」」

 

 

 深々と頭を下げてお願いする二人に、鈴が侮蔑の表情で呟く。

 

「さっきも一夏の名前に助けてもらって、また一夏に頼るのね、情けない」

 

「鈴、それくらいにしておけ」

 

「分かってるわよ」

 

 

 すぐに表情を改めてケラケラと笑う鈴に、弾と数馬は苦虫をかみつぶしたような表情でもう一度一夏に頭を下げたのだった。




一夏が外に出れば、傲慢な女性に当たる……

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