暗部の一夏君   作:猫林13世

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まず間違いはありませんけどね


整備の結果

 きっちりと一時間で整備を済ませた一夏は、セシリアとラウラに専用機を手渡した。

 

「これで当面は大丈夫だと思うが、何か違和感があったら言ってくれ。可能な限り調整させてもらう」

 

「お兄ちゃんが整備してくれたんですから、違和感など無いと思います」

 

「そうですわね。四月一日さんや布仏さんたちも普段から問題なさそうに動かしていますし、一夏さんの整備の腕は確かだとシャルロットさんからも聞いていますから」

 

「あれは自分の家で造ったISだから何とでも出来るのであって、さすがに他国のISを最初から問題なく整備出来るとは思ってない」

 

 

 一夏としては本音で言っているのだが、セシリアとラウラにはそれが謙遜にしか聞こえなかった。もちろん、嫌味には聞こえないが、一夏の腕ならば第三世代など苦労なく整備出来るのではないかと思っているのだ。

 

「とりあえず動かしてみてくれ。第三アリーナを取ってあるから、そこに移動しよう」

 

「分かりましたわ」

 

 

 セシリアは言葉で、ラウラは動作で一夏の言葉を受け入れ、一夏を先頭にして三人で第三アリーナまで移動する。

 

「一夏さんはずっと整備担当で行くのですか? 先日の動きを見て思ったのですが、十分に代表としての実力をお持ちのようですが」

 

「確かに。お兄ちゃんならどこの国の代表でも務まりそうですが、何故希望しないのですか?」

 

「俺は刀奈さんや簪、美紀の整備士として日本に属してる事になってるからな。今更代表とか言われても興味はないし、あまり表舞台に出たくないってのが本音だな」

 

「ですが、既に更識の代表として大々的に表舞台に立っているではありませんか」

 

「あれは……色々と仕方なかったんだよ。篠ノ之さんの件を更識に一任してもらう為には、代理ではなく俺が直接交渉した方が早かったし」

 

「お兄ちゃんは何処の国のトップにも負けない発言力とカリスマ性を持っていますからね」

 

 

 ラウラの言葉に素直に頷ける程、一夏は自分を過信していない。だが彼女の評価を訂正することも無いと考え、ラウラの言葉を流す事にしたのだった。

 

「到着。とりあえず着替えて、軽く移動したり武器を出したりして見てくれ。それで問題が無ければ大丈夫だろうからな」

 

「わかりました」

 

「お兄ちゃんの整備に間違いは無いと思いますが、こういうのはしっかりとしておかないといけませんからね」

 

 

 セシリアとラウラがピットに移動するのを見送り、一夏は観測室に移動し、セシリアとラウラのデータを採ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 動作確認だけのつもりが、つい盛り上がってしまい、そのまま軽く撃ち合ったセシリアとラウラは、満足げな表情でピットに戻ってきた。

 

「凄いですわね、一夏さんの整備は」

 

「武装を呼び出すのがよりスムーズになっていたな。セシリアも、近接武器を簡単に呼び出せていたようだし」

 

「ラウラさんこそ。シャルロットさんのラピット・スイッチとまではいかなくても、かなりの高速展開でしたわよ」

 

「これが天下の更識の技術力なのか」

 

 

 満足げに話していた二人の背後から、一夏が声を掛けた。

 

『入っても大丈夫か?』

 

「問題ありませんわ」

 

 

 少し汗を掻いてはいるが、それほど恥ずかし事でもないと考えたのか、セシリアは一夏の入室を許可した。

 

「何だ、まだ着替えてなかったのか」

 

「一夏さんの技術力の高さをラウラさんと話していたところですわ」

 

「満足してもらえたようで、こちらとしても良いデータが取れた。次整備するときにはこのデータを反映させ、もう少し動きやすく出来ると思うぞ」

 

「既に次の事を考えているとは、さすがはお兄ちゃんだな!」

 

「まぁ、次があればの話だが」

 

「一夏さんとしては、あまり敵国の選手を強くしたくない、というところですか?」

 

「別にそんなことは無いが、何時までも国際問題に頭を悩ましたくないってだけだ」

 

 

 一夏も更識当主とはいえ高校生、何時までもその事で頭を悩ましたくないというのが本音なのだと、セシリアとラウラは少し意外に思いながらも納得した。

 

「まぁ、セシリアもラウラも、一学期に比べれば大分成長してるようだし、油断してたら俺なんかすぐに抜かされそうだ」

 

「一夏さんは操縦の腕も一流ですから、私たちが頑張ってもそう簡単に追い抜くことは出来ないと思いますが」

 

「現に、この前はあっさりとやられてしまったからな」

 

「あれはちょっとした隙を突いて一撃で終わらせたからだ。数の有利から油断しててくれたから出来ただけで、次は使えない一度だけの手品みたいなことだ」

 

 

 一夏は割かし本気でそう思っているのだが、セシリアもラウラも、次やったとしてもあの動きに対処出来る自信は無かった。

 

「とにかく、訓練相手なら務めるが、本気で相手しろと言われても困るからな。本気の訓練がしたいなら、本音か美紀たちに声を掛けてくれ」

 

「一夏さん相手でも苦戦しますのに、四月一日さんたちを相手にしたら自信を失ってしまいますわよ」

 

「お兄ちゃんは弱いとか言っているが、私たちから見れば十分強者だという事を自覚してもらいたい」

 

「一対一なら勝てないと思うんだがな」

 

 

 苦笑いを浮かべながら、一夏はセシリアとラウラに軽く手を挙げてピットを後にする。セシリアとラウラはシャワーを浴びてから着替え、それぞれの部屋に戻ったのだった。




セシリアもラウラも満足の結果に

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