一夏にメンテナンスしてもらえるという事を噛みしめながら午前中の授業を済ませたセシリアに、清香たちが面白そうに声を掛けて来る。
「何だか心ここにあらずって感じだったけど、何か良い事でもあったの?」
「べ、別に何もありませんわ」
「隠すとためにならないよ? 正直に白状しなさい!」
「ちょっと! 相川さん!?」
脇腹をくすぐられ、セシリアは身もだえながらなんとか逃げ出そうとしたが、他のクラスメイト達に阻まれてしまう。
「さぁさぁ、正直に白状しないと、もっとくすぐっちゃうわよ」
「わ、分かりましたわよ! 一夏さんに専用機をメンテナンスしてもらう事になったので、ちょっと嬉しかっただけですわ」
「更識君に? でも、セシリアってイギリス所属でしょ? 問題にならないの?」
「正式なルートで交渉したので問題ないと織斑先生たちが仰られておりましたわ。詳しい事は、私にも分かりませんが、国が正式な文書で通達してきたので、恐らくは大丈夫だと思いますわ。もっと詳しく知りたいのでしたら、一夏さんか織斑姉妹にお聞きになってくださいませ」
「別に聞いても分からないだろうから別にいいけど、それでそんなに浮かれてたんだ」
「そんなに分かりやすく浮かれてたつもりはありませんけど」
「だって、ずっとにやにやしてたから、何事かと思ったんだけどね」
「にやにやはしてませんわ!」
セシリアが大声を上げたため、何事かと他のクラスメイト達も集まってくる。それを何とかしたのは、やはり一夏だった。
「何事だ、これは?」
「あっ、更識君。セシリアの専用機を更識君がメンテナンスする事になったって本当?」
「あぁ、本当だ。さすがに他国の整備士を今招き入れるのは問題になるという事で、セシリアとラウラを一時的に更識所属にして、ウチが担当する事になったんだ」
「一時的って事は、そのうち元に戻るって事?」
「そうだな。長くてもモンド・グロッソが始まる前までだろうし、それほど騒ぎ立てる事でもないだろ」
「ボーデヴィッヒさんもなんだ」
「今のところメンテナンスが必要そうなのはその二人だけだからな。鈴は既に担当整備士が日本にいるみたいだし、他の人も今のところは問題なさそうだからな」
「難しい事は分からないけど、更識君がそう言うならそうなんだろうね」
それで納得出来るのもどうかと思うが、面倒になりそうなので一夏はスルーすることにしたのだった。
「一夏君、ちょっといいかしら?」
「何かありました?」
そのタイミングで刀奈が教室に顔を出したため、一夏はその場から離脱し、残ったクラスメイト達も、セシリアから別の話題で盛り上がり始めたので、セシリアもそのまま席に戻ったのだった。
放課後、整備室に呼ばれたセシリアとラウラは、本音に連れられて整備室前までやって来ていた。
「何で私が案内役なのかな~? まぁ、セッシーもラウラウも緊張しちゃうから仕方ないのかもしれないけどね」
少し文句っぽくも聞こえるが、本音の表情はいつも通りニコニコしているので、本気で嫌がっているわけではないのだろうとセシリアとラウラは思っていた。
「いっちー、連れてきたよ~」
本音がそう声を掛けると、内側から鍵が開けられ、中から闇鴉が姿を見せる。
「お待ちしておりました。では、セシリアさんとラウラさんは私に続いてください。本音さんは、生徒会室へ行くようにとの事です」
「りょーかいだよ~! それじゃあセッシー、ラウラウも頑張ってね~」
いったい何を頑張ればいいのかと思ったが、それを声に出す余裕が二人には無かった。
「別に取って食おうというわけではないので、そこまでガチガチに緊張する必要はありませんよ。メンテナンスをするのは一夏さんですし、お二人が何かをするという事はありませんので」
「分かってはいるのですが、一夏さんにメンテナンスしていただけるという事実が、私たちの身体を強張らせるのですわ」
「そんなものなのですか? 私はISですので良く分かりませんし、メンテナンスされる側ですからね。とりあえず、一夏さんがお待ちですので」
そう言ってずんずん先に進んでいく闇鴉の背中を、少し駆け足で追いかけるセシリアとラウラ。前に一度入った事はあっても、やはりこの空間にいるだけで緊張してしまうようだった。
「一夏さん、セシリアさんとラウラさんをお連れしました」
「それじゃあさっそく始めようか。二人とも、ISを貸してくれるか」
差し出された一夏の手に、二人は待機状態の専用機を置く。本来なら他国の技術者に自国の知恵と技術が詰まったISを渡すなどという事はあり得ないのだが、天下の更識企業の若き総帥である一夏が、技術を盗み取るとは二人とも思っていなかった。
「それじゃあ、一時間くらいしたら終わるだろうから、その時間になったらここに戻って来てくれ。それまでは自由にしてていいぞ」
「ここで待っていても宜しいでしょうか?」
「構わないが、ここは電波も悪いし、暇つぶしになるようなものは何もないが?」
「一夏さんの作業を見学したいのです」
「……好きにすればいい」
見られたからといって、一夏の技術をこの二人が盗めるとは思えなかったし、見られても困らない作業しかするつもりが無かったので、一夏は短く告げて作業を開始するのだった。
見学したからといって、技術を盗めるとは思えませんしね