暗部の一夏君   作:猫林13世

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あのキャラが初登場


卒業式前日

 小学校の卒業を明日に控えた一夏たちは、再び五反田家を訪れていた。

 

「何で今日? 普通は明日じゃないのか?」

 

「色々とあるんでしょ。そんなのアタシに聞かれても分からないけど」

 

「まぁあの弾が考えた事だし、一夏が思ってる普通とズレてるんだろ、あの阿呆は」

 

「……かもしれないな」

 

 

 一夏たちが通ってる小学校も、弾たちが通ってる小学校も明日が卒業式だ。だが何故か前日に卒業パーティーをしようと弾に誘われたのだった。

 

「よう、遅かったな」

 

「アンタの阿呆さ加減に呆れながら来たからね。普通明日でしょ」

 

「明日は別の奴らとの先約があるからな。だから前日にお前たちと騒ごうと思って」

 

「そういう理由か……厳さんに挨拶してくるから、鈴たちは先に行っててくれ」

 

「分かった。くれぐれもよろしく言っておいてね。騒いでも怒られないように」

 

 

 厳の怖さを身を持って体験したわけではないが、鈴は厳の事をかなり恐れている。一夏も心得ているのか、シッカリと頷いて厳の待つ五反田食堂へと足を踏み入れた。

 

「こんにちは」

 

「おや、一夏君じゃないかい。よく来たね」

 

「蓮さん、お邪魔します。厳さんはいらっしゃいますか?」

 

「大丈夫、事情は聞いてるからね。さすがに今日は怒鳴りこんだりしないわよ」

 

「そうですか。では、少々騒がしいかもしれませんが……」

 

「あのバカの考えた事だからね。悪いのはバカ息子だから一夏君たちは気にしなくて良いわよ」

 

 

 母親の記憶が無い一夏にとって、蓮の言動が普通の母親の基準になっている。だから息子をバカ呼ばわりしても「それが普通」だと思ってしまっているのだった。

 

「では、自分もこれで」

 

「また遊びに来てやってね」

 

「はい、時間が合えば」

 

 

 元々小学校も別で、中学も別である一夏だが、弾と数馬には遠慮無く付き合えているのだ。数少ない友人と呼べる相手を、一夏も邪険に扱うつもりは無かったのだった。

 

「ど、どうだった?」

 

「……何でまだここにいる。とりあえず、何かあったら弾が厳さんと蓮さんに怒られるだけだから、俺たちは心配する必要は無い」

 

「良かった」

 

「ちょっと待て! 何で俺だけ……」

 

「お前の家だろ?」

 

 

 当たり前な事を聞くな、と一夏に言外に言われた弾は、その場で膝から崩れ落ちそうになった。だが当然の如く鈴と数馬にも頷かれ、叫びたい衝動に駆られていたのだった。

 

「何で俺がこんな思いをしなきゃいけないんだ……」

 

「お兄、邪魔」

 

「イテっ!?」

 

 

 家の前で立ち尽くしていた弾の腿に、少女が蹴りを入れた。

 

「いってーな! なにするんだ!」

 

「だってそんなところに突っ立ってたら邪魔でしょうが」

 

「確かに、弾、邪魔だぞ」

 

「何で一夏までコイツと同じ事を言うんだ!」

 

 

 少女の言葉に便乗して弾をからかった一夏に、弾が泣きそうな目を向けてくる。

 

「ところで、このお嬢さんは?」

 

「俺の妹だよ! 見たら分かるだろ!!」

 

「……分かるか?」

 

「分からないわね……」

 

「全然似てネェな……」

 

 

 一夏に問われた鈴と数馬が、同時に首を横に振る。その動きを見て、再び弾が崩れ落ちそうになった。

 

「お前ら……こんな時だけ息ピッタリだな」

 

「お兄、この人たちは?」

 

「数馬は知ってるだろ。それとこっちの男が更識一夏。で、このチッコイのが凰鈴音だ」

 

「小さいって言うな!」

 

「イデッ!?」

 

 

 妹に蹴られた方の足と逆の足を鈴に蹴られ、弾はその場で悶絶した。

 

「五反田蘭です、はじめまして」

 

「更識一夏です」

 

「凰鈴音よ! 気軽に「鈴」って呼んでちょうだい」

 

 

 蘭と挨拶を済ませた一夏と鈴は、悶えている弾を素通りして家の中へと入っていく。数馬もそれに倣い弾を放置して中に入る事にした。

 

「お前ら、誰か一人くらい助けろよな!」

 

「ウルセェぞ!」

 

「あだっ!?」

 

 

 叫んだ弾に止めを刺したのは、五反田食堂名物「空飛ぶお玉」だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 簪たちの小学校も明日が卒業式なので、前日の今日は何もする事が無かった。

 

「いっちーも出かけちゃってるし、する事が無いよね~」

 

「本当なら、本音ちゃんは一夏さんの護衛で出かけて無きゃいけないんだけどね」

 

「まぁ本音だし」

 

「えへへ~」

 

「「褒め(られ)て無いよ」」

 

「ほえ?」

 

 

 皮肉を言われたのに気づかない本音に、簪と美紀が同時にため息を吐いた。

 

「今日はお姉ちゃんも虚さんもいないし、模擬戦を見学も出来ないしね」

 

「私たちで模擬戦をする?」

 

「訓練機を使うには、申請書を一夏に出さなきゃいけないじゃん。その一夏がいないから、勝手に使うのは……」

 

「怒られますか……」

 

 

 簪や美紀が勝手に使っても、一夏は怒りはしないだろう。だが、一応規則として定められている事なので、前当主の娘と表向き現当主の娘であろうと、その規則を破るわけにはいかない。むしろ、そんな立ち場の二人だからこそ、余計に規則は守らなければいけない。

 

「じゃあ、何時も通りゲームで遊ぶの~?」

 

「それが一番かな」

 

「今日こそは簪ちゃんに勝ちたい」

 

「私は美紀ちゃんにも勝てないんだけどね~」

 

 

 ゲームの強さは簪>美紀>>>>>本音といった感じだ。簪と美紀にそれほど実力の差は無いが、美紀と本音とは結構な差が存在している。でも、本音は嫌そうな顔もせずにゲームを楽しんでいた。

 

「一夏さんも、何気に強かったですからね」

 

「一夏は器用だから」

 

 

 この二人に勝つ事は無くても、一夏は本音のようにあっさり負ける事も無かった。それは生来の器用さに加え、一夏が考えてゲームをしているからなのだが、本音にはその事は理解出来ていなかったのだ。

 

「今日こそは勝つぞ~」

 

 

 考え無しの特攻、それでは勝つ事は出来ないと、本音は未だに気づく事は無かったのだった。




蘭はまだ惚れてないですよ

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