暗部の一夏君   作:猫林13世

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多少はマシになってるとはいえ……


クラスメイトの反応

 朝教室に顔を出した箒に、クラスメイトたちは若干引き攣った表情で挨拶を交わした。そんな表情をされても仕方ないと割り切って入るが、やはり気にはなってしまう。

 

「(前の私の言動を考えれば、この反応でもマシな方なのでしょうが、もう少し分かりにくくしてもらえないでしょうかね……いや、更識の皆さんのようなポーカーフェイスを基準にしてはいけないですね)」

 

 

 あの本音ですら、箒相手に表情を読ませることなど無いのだから、更識勢のポーカーフェイスは鉄壁だと言えるだろう。

 

「おはよう、篠ノ之さん」

 

「鷹月さん、おはようございます」

 

「そんなに気になるなら、一夏君に相談でもしてみたら?」

 

「……何のことでしょうか」

 

 

 心を読まれたのではないかと警戒した箒だったが、静寐はすぐに種明かしをしてくれた。

 

「そんな表情をしてれば、誰だって分かると思うけど? 警戒されるのは仕方ないけど、もう少し分かりにくくしてくれないものかって考えてたんでしょ?」

 

「さすがは一夏様が信頼を置くお方、お見事です」

 

「そんな大層なものじゃないわよ」

 

 

 箒が大袈裟に言うものだから、静寐は思わず笑ってしまった。本当に信頼されているのは、やはり最初から更識に属していたメンバーであり、自分はそれに準じるようなものではないと本気で思っているから、箒の発言がおかしくて仕方なかったのだろう。

 

「ですが、クラスを纏めるのを頼むのは、何時も鷹月さんのような気がしますが」

 

「そう言うことに慣れてるからだと思うけどね。一夏君がいないって事は、四月一日さんもいないって事だから」

 

「ですが、布仏さんはいる事が多いですよね?」

 

「本音はそう言う事が苦手だからね」

 

 

 本音がリーダーシップを発揮してクラスを纏めているところを想像して、静寐は思わず吹き出してしまった。

 

「どうかしたのですか?」

 

「いや……本音がリーダーシップを発揮してるところを想像して、おかしくなってね……あー、ゴメンなさいね。ちょっと脱線しちゃったみたいだし」

 

「いえ、それは構いませんが……」

 

「えっと、一夏君に相談するなら、もうすぐ来るはずだけど」

 

「そこまでお手を煩わせるわけにはまいりません。自分の言動や行動で、前とは違うという事を分かってもらうように頑張ります」

 

「篠ノ之さんがそれでいいなら別に構わないけど、クラスメイトもまだ、どうやって今の篠ノ之さんと接すればいいのか悩んでるところだから、あえて篠ノ之さんから声を掛けるのも手だと思うわよ」

 

 

 静寐のアドバイスに箒はお礼の意味も込めて一礼し、自分の席に着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラスの雰囲気が微妙に違う事を感じ取ってはいたが、特に改善させる必要性を感じなかった織斑姉妹は、気にした様子もなくHRを続けた。

 

「――連絡事項は以上だ。それから、更識弟、オルコット、ボーデヴィッヒはちょっと廊下に来てもらおうか」

 

 

 一夏とセシリアとラウラを呼びつけ、HRは終わりだと言わんばかりに真耶に教壇を譲る。

 

「すぐに済む話だ。それほど気にする必要は無い」

 

「わ、分かりました」

 

 

 教室内を気にしていたセシリアに、千冬が端的に告げる。

 

「その威圧的な態度はどうにかならないのですかね?」

 

「これが素なんだから仕方ないだろ」

 

「ラウラが緊張しっぱなしなので、もう少しマイルドに出来ないんですか?」

 

「別に威圧してるつもりは無いのだがな」

 

 

 一夏の注意に、千冬と千夏は困った表情を浮かべる。ラウラが自分たちに対して尊敬と畏怖の情を抱いているのは知っているので、なるべく距離を取って話したりしているのだが、それでも緊張してしまうのは仕方のない事なのだと思っていたから、どう対処すればいいのかが分からないのだった。

 

「とりあえず、本題に入る。本日付けで、オルコット、ボーデヴィッヒ両名は一時的に更識の所属となる。したがって、整備などは更識弟が担当する事が出来るようになったので、問題があるようなら更識弟に言うように」

 

「別にわざわざ廊下に出て話すような事ではないと思うのですが」

 

「一応機密事項だからな。公然の秘密とはいえ、あまり大っぴらに言えることではないだろ」

 

「一応そう言う事を考えての事なら、これ以上文句は言いませんが」

 

「それで、オルコット、ボーデヴィッヒ両名は都合が良ければ、更識弟にメンテナンスをしてもらいたいのだが、今日の放課後はどうだ?」

 

「わ、私は問題ありませんわ」

 

「私も、特別用事などありません!」

 

 

 敬礼をするラウラに、その行為は不要だと目で告げて、千冬と千夏は満足げに頷いた。

 

「というわけだ。更識弟は大変だと思うが、メンテナンスを頼むぞ」

 

「別に大変ではありませんが、職員室で処理すべき仕事を生徒会に回すのは止めてくださいね。昨日もそのせいで仕事が終わらなかったのですから」

 

「な、何のことだ……」

 

 

 とぼけたところで、処理した本人が目の前にいるのだから、言い逃れなど出来るはずがないのだ。それでも一夏が怒らなかったのは、授業中であることと、セシリアとラウラの目があることを気にしたからだろう。

 

「今回は見逃しますが、次はありませんからね」

 

 

 すれ違いざまに小声でそう告げた一夏に、千冬と千夏は震える身体を抱きしめながら肝に銘じたのだった。




一夏の威圧感には織斑姉妹も震えるしか……

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