暗部の一夏君   作:猫林13世

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怪しさ満点ですね……


不審な動き

 部屋に仕事を持ち帰った一夏は、珍しく書類を眺めながらため息を吐いた。

 

「一夏さんが書類を見てため息だなんて、そんなに面倒な事なのですか?」

 

「いや、篠ノ之さんに対する抗議なんだが、アメリカからだからな……相手にするのもバカらしいが、無視したら超理論でも振りかざして攻め込んでくるかもとか考えると、ため息くらい吐きたくなるだろ」

 

「今のアメリカの状態を考えれば、あり得そうで怖いですね」

 

 

 一夏が何を心配しているのか理解した美紀は、一夏と同じようにため息を吐いた。

 

「そもそも前の篠ノ之が破壊工作をしていた国はアメリカではないんだから、アメリカがとやかく言う権利は無いと思うんだがな……」

 

「理屈ではなく、自分たちの地位を取り戻すために、篠ノ之さんを利用したいだけだと思いますが」

 

「それは分かってるんだが、そんな事で俺たちがまともに取り合うはずもないと分からないのか」

 

「理解はしているんだと思いますけど、そんなことお構いなしなのでしょうね」

 

 

 皮肉気味に美紀がそう言うと、一夏も面倒くさそうに頭を振って、その書類を処理する事にしたのだった。

 

「とりあえず返事はするが、まともに相手にする義務はないな」

 

「そもそも、一夏さんが処理するような案件ではないように思うのですが?」

 

「職員室は別の案件を任せてるからな。まぁ、持っていったところでテキトーに処理するのが目に見えてるが」

 

「一夏さんも、まともに取り合うつもりは無いのですよね?」

 

「相手にしてやるほど暇じゃないからな。セシリアとラウラの専用機のメンテナンスの予定を建てなければいけないし、それ以外にもいろいろとあるからな」

 

 

 次の案件に移りながらそんなことを言う一夏に、美紀は背後からふわりと一夏を抱きしめた。

 

「どうかしたのか?」

 

「いえ。私にはこれくらいしか出来ませんから……」

 

「いや、十分だよ」

 

 

 美紀の優しさは一夏にも十分伝わっているようで、顔だけで振り返り美紀に笑みを見せたのだった。

 

「今日はもう休んだ方が良いと思いますけど」

 

「あと少しだから、終わらせてから休むさ。美紀は先に休んでもいいぞ」

 

「いえ、私はそこまで疲れてませんから」

 

 

 一夏の言葉に満面の笑みで断りを入れる美紀に、一夏は苦笑いを浮かべながら視線を書類に戻したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 職員室で例の案件を処理した翌日、朝早くから一夏は織斑姉妹に呼び出されて寮長室にやって来ていた。さすがに護衛を部屋の中まで連れて来るわけにはいかなかったので、碧は部屋の前で待機している。

 

「それで、こんな時間に呼び出された理由をお聞きしても?」

 

「束から連絡があってな。アメリカの動きが活発化してきているようだ」

 

「いきなり仕掛けてくる可能性があると、わたしたちも束に叩き起こされて知らされたんだ。お前にも教えておいた方が良いだろうと思ってな」

 

「いきなり仕掛けてくることは無いと思いますがね。そういう事情なら分かりました。ところで、イギリスとドイツからの返事はどうなりました?」

 

「今の状態が落ち着くまでは頼む、との事だ。後はお前が好きにして構わないそうだ」

 

「分かりました。セシリアとラウラの都合を聞き次第、メンテナンスを行います」

 

 

 二人にそう告げて立ち上がろうとした一夏ではあったが、まだ何か話があるような雰囲気を感じ取って、浮かせた腰を再び下ろした。

 

「まだ何か厄介ごとが?」

 

「バカ箒の事だが、本当に安心しても問題ないのか?」

 

「今のところ、我々に対する負の感情はなさそうです。日下部さんも必要以上に警戒しなくなったところを見れば、そう判断出来ると思いますが」

 

「クラスメイト達はそれで問題ないだろうが、我々はそうはいかないだろ。特に一夏は、あのバカの身元引受人みたいな感じなのだからな」

 

「あくまでも篠ノ之さんの監視責任はIS学園と更識企業で二分されていますので、俺一人が身元引受人というわけではありませんよ」

 

「それは分かっているが……」

 

「とにかく、アメリカの件はこちらでも監視を強めておきますので、何かあればすぐに動けるようにしておいてください。貴女たちには学園の守護を頼みたいですからね」

 

「わたしたちが前線に出なくても良いのか?」

 

 

 てっきり最前線で敵を潰せるものだと思っていた千夏が、肩透かしを喰らったような表情でそう問いかける。

 

「前線には優秀な操縦者を送ります。ですが、護衛にはスペシャリストがいた方が安心して攻められるというわけですよ」

 

「まぁ、一夏がそこまで私たちを評価してくれてるのなら仕方ないな」

 

「貴女たちの実力『だけ』は評価してますので」

 

 

 一夏が『だけ』に力を込めたのに、千冬も千夏も気づかなかった。

 

「一夏が私たちの事を認めてくれているなんて」

 

「それだけで国一つくらい滅ぼせるくらいのやる気が出て来るものだな!」

 

「物騒な事を呟かないでください。貴女たちは、あくまでも守るだけですからね」

 

 

 理解してるのか疑わしいが、一夏はそれ以上釘を刺しても無意味だと理解しているので、ため息交じりにそう呟いて部屋を辞すことにした。

 

「あっ、それから」

 

「なんだ?」

 

「昨日の実習のように、必要以上に疲れるような事は避けてくださいね」

 

「わかったわかった」

 

「本当に分かってるんだろうな……」

 

 

 一抹の不安を感じながらも、一夏は寮長室から外に出たのだった。




実力「だけ」は本物ですからね……

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