暗部の一夏君   作:猫林13世

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威厳は兎も角威圧感は半端ないですからね


織斑姉妹の威圧感

 セシリアとラウラを一時的に更識所属にして、更識の整備士が専用機を整備するようにという書類を持って職員室を訪れた刀奈を、織斑姉妹が獰猛な視線で捉えた。

 

「なにか用か、更識姉」

 

「職員室で処理するはずの書類が生徒会室に届けられていたのでお持ちしました。一応こちらにも関係する書類でしたので、目は通しましたが、最終的な判断は職員室でしてください」

 

「生徒会に関係しているなら、そちらで処理すればいいだろ」

 

「正確に言うのであれば、生徒会にではなく更識に、ですから。宛先が更識でしたら、こちらで処理します。ですが、あくまでもIS学園宛の書類ですので、生徒会ではなく職員室で処理すべきだと判断しました」

 

 

 織斑姉妹の視線に圧されながらも、刀奈は声を震わせる事無く事情説明を続ける。これくらいの威圧感で震えるようでは、虚や一夏に怒られただけで泣いてしまうだろう。

 

「本来であれば、生徒会に運ばれた時点でお持ちすべき書類でしたが、何分書類が多くて見つけるのに時間がかかってしまいました」

 

「その事は、一夏は知っているのか?」

 

「まだ報告はしてません。ですが、私たちとは別の情報網を一夏君は持ってますから。恐らく知っているかと」

 

「一夏が問題ないのなら、わたしたちが判断するまでもないだろう」

 

「そうかもしれませんが、一応体裁は保ってください。仮とはいえ、これは国際問題に発展する案件ですから。生徒会で処理するよりは、職員室で――織斑姉妹で処理してくださったほうが、他国からクレームがくることは無いでしょうからね」

 

「今更問題が一つや二つ増えたところで変わらんがな。そう言う事ならこちらで処理しよう。ご苦労だったな」

 

 

 千夏が書類を受け取り、興味なさげにデスクに放り投げる。それでも、ちゃんと処理はしてくれると約束してくれたので、刀奈は頭を下げて職員室を後にしようとした。だが、振り返った背中に声を掛けられた。

 

「一夏は今何をしている?」

 

「一夏君なら、アメリカの動きを監視しつつ、使えるであろう人や物を集めています」

 

「一夏が声を上げれば、それに追随する人間は多いと思うが」

 

「不確定な戦力では安心出来ないのでしょうね。だから、元敵相手にも頭を下げたり、お願いしているのだと思いますよ」

 

「アイツらか……まぁ、一夏に頼まれれば断らないだろうな」

 

 

 その相手が誰であるか、言葉にしなくても理解出来た二人は、もう興味を失ったのか刀奈から視線を逸らしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会室に戻ってきた刀奈は、自分の席に着いた途端に机に突っ伏した。いくら威圧感に耐えられるとはいえ、全く消耗しないわけではないのだ。

 

「お疲れ様でした、お嬢様」

 

「やっぱり、本音に行ってもらった方が良かったかもね」

 

「さすがの私も、織斑姉妹の威圧感には緊張しますよ~」

 

「でも、私よりかは緊張しないでしょ? 普段から一夏君や虚ちゃんに怒られてる本音ならさ」

 

「そこまで怒られてませんよ~」

 

 

 緊張感の欠片も無い言い方ではあるが、本音も一応は緊張している。刀奈と話しているから、ではなく、その隣で顔を引きつらせている虚に対してである。

 

「怒られ慣れているというのは、それだけサボっていたという事なのですが?」

 

「さ、最近は頑張ってるじゃないか~!」

 

「ですけど、三日に一回はサボろうとしますよね? 本来であれば、一夏さんより貴女の方が生徒会の仕事をしなければいけないのですよ? 一夏さんはあくまでも、臨時生徒会役員なのですから」

 

「あれ? 正式に副会長に任命したんじゃなかったの?」

 

「それは来年度からの話で、私が卒業するまではあくまでも臨時の生徒会役員ですから」

 

「そうだったんだ」

 

「知らなかったのですか?」

 

 

 笑みを浮かべているが、虚は怒っている。刀奈もその事は理解出来たが、さすがに宥める方法が分からなかったので素直に怒られる覚悟を決めた。

 

「お嬢様は一応、生徒会の長なのですから、生徒会のメンバーを正式に把握しておいてください」

 

「ゴメンなさい……」

 

「最近は真面目になってきたとはいえ、やはり細かい箇所は変わっていないのですね」

 

「が、頑張るもん! 一夏君や虚ちゃんが安心して仕事を任せられるような生徒会長になるもん!」

 

「意気込みは立派ですが、最初からそうでなければおかしかったのですからね」

 

「はい、反省します……」

 

 

 しょんぼりとした刀奈の頭を、女性ではない手が撫でる。

 

「はえ?」

 

「刀奈さんは頑張っていますよ。それは俺も虚さんも理解しています」

 

「一夏君っ!? いつの間に」

 

「ついさっきですよ。とりあえずこっちは片付きましたので、手伝いますよ」

 

「ありがとう、一夏君。よーし! 残りはまだまだあるけど、さっさと終わらせましょう!」

 

「残念ですがお嬢様、下校時間は過ぎていますので、残りは部屋でという事になります」

 

「あっ、そうだったわね……それにしても、何でまた増えてるのかしらね?」

 

「今の状況を考えれば、仕方のない事かもしれませんがね。ほら本音、立て」

 

「分かってるよ~……」

 

 

 一夏の声に反応し、疲れ果てた本音がふらふらと立ち上がり、危なげな足取りで部屋に戻っていったのだった。




少しは真面目に働いた方が……

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