暗部の一夏君   作:猫林13世

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優秀ではあったんですけどね……


二人の成長

 様々な準備を進めている一夏の許に、悪友が訪ねてきた。

 

「一夏、ちょっといいかしら?」

 

「なにか用か?」

 

「忙しいのは分かってるんだけど、弾と数馬の奴が一夏に会いたがってるのよね。今度の日曜日、都合つかないかしら」

 

「アイツらが? ……今のところ予定はないが、確約は出来ないぞ?」

 

「それで十分よ。あいつらだって、一夏が忙しいのは分かってるでしょうし」

 

 

 作業の手を止めて、顔を上げた一夏の目の前に、鈴の顔があった。さすがに殴り飛ばす事はしなかったが、大袈裟に距離を取ったのだった。

 

「一夏がそこまで驚くとは思わなかったわよ」

 

「鈴に近づかれても気にしないからな。だが、さすがに目の前に顔が来ていたら驚くと思うが」

 

「……それもそうね」

 

 

 もし自分が顔を近づけられていたらと想像して、鈴は苦笑いを浮かべながら一夏の言葉に同意した。

 

「ところで、いったい何の用で会いたがってるんだ?」

 

「年明けてから会ってないでしょ? だから、一夏が大丈夫なら挨拶くらいしておきたいみたいよ。後は、冬休みの課題をすっぽかしたせいで、罰試験があるみたいだから、勉強を教えてもらいたいとかじゃないの」

 

「そんなの、俺が面倒みるわけないだろ……自業自得だ」

 

「あたしもそういったんだけどね。進級が掛かってるらしいから、どうしても一夏に手伝ってほしいとか言ってたわよ」

 

「いっそのこと、蘭と同級生になるのも良いんじゃないか?」

 

 

 一夏の冗談がツボに入ったのか、鈴は腹を抱えて笑い出した。

 

「一夏、それ最高! アハハ、面白すぎ!」

 

「笑い過ぎじゃないか?」

 

 

 大笑いしている鈴に、少し冷ややかな視線を向けたが、鈴はお構いなしに笑い続ける。

 

「あー面白かった。それじゃあ、前日にまた聞きに来るわね」

 

「あぁ。たぶん大丈夫だとは思うがな」

 

「アメリカが動かなければ、でしょ。それくらいあたしも分かってるわよ」

 

 

 それだけ言い残して、鈴は一夏の許から離れていく。その背中を見送ってから、一夏は作業を再開したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏が生徒会室に来れない以上、刀奈が頑張るしかない。それを刀奈も十分理解しているからか、ここ最近は真面目に作業をしているのだった。

 

「お嬢様が真面目になってくださったお陰で、心配事が一つ減りました」

 

「虚ちゃんもそろそろ卒業だもんね。何時までも甘えっぱなしじゃ駄目だって、私だって思うわよ」

 

「本音も、三日に一回はサボりますが、最近は生徒会室に顔を出すようになりましたしね」

 

「今日はまだ来てないけどね」

 

「篠ノ之さんとの訓練で遅れると、一夏さんに連絡を入れたそうです」

 

「箒ちゃんの相手は、本音が一番だもんね」

 

 

 人間的な相性もそうだが、ISにおける相性も本音が一番いいのだ。だから訓練の時には本音が指名される事が多い。

 

「後はこの問題が片付けば、虚ちゃんは安心して卒業出来るのにね」

 

「まだお嬢様や本音の事が気がかりですが、とりあえずはそうなりますね」

 

「頑張ってるんだから、そろそろ認めてくれても良いんじゃない?」

 

「今までが今まででしたからね。認めてほしいのでしたら、もう少し継続して頑張ってください」

 

「厳しいわね……まぁ、簡単に信頼されるとは思ってないけどさ」

 

 

 自分がどれだけ甘えまくってたか自覚している刀奈は、小さく息を吐いて作業を再開した。

 

「あら、これってイギリスとドイツの整備士を呼ぶってやつじゃないの? 何で生徒会室にこの書類が来てるのかしら」

 

「本当ですね……一夏さんが手配したとはいえ、最終的には職員室に通知されると聞いていたのですが」

 

 

 二人して首を傾げながら、その書類へと目を通して行く。

 

「なになに……やっぱり今すぐは無理みたいね」

 

「今の国際情勢では、他国の整備士を招き入れるのも一苦労ですからね……アメリカのスパイかもしれないという疑念が払拭出来ないでしょうし」

 

「一時的に二人を更識所属扱いにして、そちらの整備士に整備してもらいたい、ですって」

 

「まぁ、それが一番安全かつ、確実ですからね」

 

 

 とりあえずこの書類は職員室に持って行こうという事で二人は頷きあい、何処か分かる場所に置いておくことにしたのだった。

 

「ほえ~、おくれちゃったかな~?」

 

「ご苦労様、本音。箒ちゃんの様子はどうだった?」

 

「まだ数回しか動かしてないのに、クラスメイトの中では結構上の方に位置するくらいの実力だね~。記憶を失っても身体が覚えてるのかな~?」

 

「どうでしょうね。一夏さんの話では、前の篠ノ之さんの記憶は残ってないはずですが、剣道や料理は問題なくこなせたらしいですから、ISも同じ理由なのかもしれませんね」

 

「そうなると、何時暴走するか分からないって事になっちゃうのよね……今は? 美紀ちゃんが監視してるの?」

 

「かんちゃんとマドマドが一緒にいるはずだよ~。美紀ちゃんは、いっちーの護衛として整備室周辺にいるはずだから」

 

「簪ちゃんなら安心ね。それじゃあ、本音もこの書類の山を片付けるのを手伝ってちょうだい」

 

「少し休ませてくださいよ~……さっきまでシノノンの相手をして、疲れてるんですから~」

 

「貴女よりも、一夏さんの方が何十倍も疲れてるはずなんですから、貴女を休ませるのなら一夏さんを休ませます」

 

「ほえ~……頑張ります」

 

 

 虚に睨まれて、本音は渋々といった感じで書類の山に手を伸ばした。その後は躓きながらも仕事を進めて行き、なんとか下校時間までには片付け終わったのだった。




サボり癖が治っただけで立派な成長ですね

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