暗部の一夏君   作:猫林13世

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優秀な人材ではありますからね


使えるもの

 一夏が作ってくれたお菓子に舌鼓を打ちながら、刀奈たちは今あるアメリカの情報を共有する事にした。

 

「お父さんの話では、今のところは表立って動いては無いようです。疑って見なければ、大人しいものだと言っていました」

 

「篠ノ之博士は良く気が付いたわよね……あの人、他人には興味ないとか言ってたのに」

 

「一夏に被害が及ぶ可能性があるからじゃない? あの人も一夏至上主義だから」

 

「織斑姉妹の親友と言われるだけありますよね」

 

 

 虚が零した独り言に、全員が苦笑いを浮かべる。恐らく三人は親友だと言われたくないのだろうが、傍から見ていれば他に表現しようがない程、三人の仲は良いのだ。

 

「一夏君が鈴ちゃんの事を『悪友』だって言うように、織斑姉妹と篠ノ之博士も似たような表現をするんだろうな」

 

「とにかく、アメリカの武装がある程度特定出来たのは大きいですね。ISが無いから対処は簡単ですが、油断せずに行きましょう」

 

「しかしまぁ、最後の最後まで悪足掻きを……一夏君に逆らった時点でIS業界で生き残れるはずがないのに」

 

「一夏さんは気にしてないですけど、周りが勝手に距離を置き始めますからね」

 

「更識企業と取引が出来なくなったら、それだけで経営が悪化するとも言われてるもんね」

 

「難しい事は良いから、もう少しまったりしようよ~」

 

「……貴女は相変わらずですね、本音」

 

 

 張り詰めた空気をぶち壊した本音に、虚が頭を押さえながら睨みつける。だが、その程度で本音が竦むはずもなく、相変わらずの空気感で語り始めた。

 

「アメリカがどうなろうが私には関係ないし、みんなにもあまり関係ないだろうけども、いっちーになにかするつもりなら、動いた時点で私たちが始末出来るでしょ~? だから、わざわざ難しく考えないで、動かなければ放置、動いたら処分でいいじゃん」

 

「言い方は兎も角、本音の意見に俺も賛成ですね。あまり意識し過ぎると疲れちゃいますし、監視は駄ウサギがしてくれるそうですので、精々頭の片隅で覚えておく程度で良いですよ」

 

「一夏君がそう言うなら、私たちも過剰に気にするのは止める」

 

 

 いつの間にか戻ってきた一夏の言葉に、他のメンバーも頷いたのだった。だが、本音だけは少しつまらなそうな表情を浮かべていた。

 

「どうかしたのか?」

 

「だって~! いっちーのいう事はすぐに聞いたのに、同じような事を言った私の言う事は聞いてくれなかったんだもん!」

 

「本音とお兄ちゃんとでは、説得力が違うんだもん」

 

 

 マナカの言葉に、他のメンバーも力強く頷く。誰がどう考えても、本音の軽い言い方よりも、一夏の言い方の方が納得出来るし、従えるだろう。

 

「何だか損してる気分だよ~」

 

「信用されたかったら、もっと頑張るんだね」

 

 

 簪の言葉に、本音は力なく頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 調理室を片付けた一夏は、碧を連れてとある部屋を訪れていた。普段なら滅多に近寄ろうともしない部屋ではあるが、今はそんなことを気にしてる場合ではなかった。

 

「それで、わざわざ何の用だ?」

 

「万が一の時は、二人にも動いてもらおうと思ってな。もちろん、それなりの報酬は出す」

 

「報酬なんていらねぇから、もう少し自由に動かせろ」

 

「……働き次第では、更識の方で雇う、それでいいだろ」

 

「営業とかは御免だからな! 紛争地帯の平定とか、荒野の開拓とかの方が割に合ってるからな」

 

「あら、貴女は営業も得意じゃなかったかしら? 巻紙礼子さん」

 

「それは止めろって言ってるだろ! あんなのオレじゃねぇ!」

 

 

 じゃれ合い始めたスコールとオータムに対して、一夏は大きく咳払いをして意識をこちらにむかせる。

 

「何もないのが一番だが、あれだけの準備をしているところを見れば、遠くない未来に仕掛けてくるだろう。その時には、先陣切って突撃を仕掛けてもらいたい」

 

「好きなだけ暴れて良いんだろ?」

 

「ただし、関係ない一般市民には手を出すな。そこまでされたら、さすがに庇いきれない」

 

「それぐらいは分かってるわよ。オータムも分かってるわよね?」

 

「あぁ。せっかくオレらがしてきたことをチャラにしてくれたのに、また余計な事をして逃亡生活を送るのは御免だからな」

 

「それが分かっているなら、ある程度の自由を認める。もし見境なく暴れるつもりだったら、織斑姉妹を監視につける所だったが」

 

 

 人の悪い笑みを浮かべる一夏に、オータムが苦虫を噛み潰したような顔で口を開いた。

 

「相変わらず容赦のねぇ餓鬼だな、お前は」

 

「お前相手に容赦するほどの余裕は、俺にだって無い。それだけお前の能力を買ってるんだから、失望させてくれるなよ」

 

「分かってるっての。天下の更識企業のトップに期待してもらってるなんて、ちょっと前までなら考えられなかったもんな」

 

「それと念の為、アメリカがお前らを抱き込もうとして来るかもしれないが、裏切ったら容赦しないからな」

 

「そんなことしないわよ。私は、アメリカに殺されたんだから」

 

「そうだったな」

 

 

 スコールの答えを聞いて、一夏は苦笑いを浮かべながら立ち上がり部屋を後にした。

 

「漸く軟禁生活ともおさらば出来そうね」

 

「これが終われば明るい未来が待っているようだしな。気合い入れるか」

 

「気合いを入れるのは良いけど、空回っちゃわないでね」

 

「そんなヘマするかよ」

 

 

 気合十分のオータムに、スコールは笑みを浮かべて頷いたのだった。




実力は十分ですからね

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