一夏たちの模擬戦を観戦していたクラスメイトたちは、昼休みになっても興奮冷めやらぬ状態であった。
「凄かったね、更識君の動き」
「でも、四月一日さんや布仏さん相手だとやり難かったのかな?」
「あの二人は別格でしょ。四月一日さんは国家代表だし、本音は一応それに準じる実力者なんだし」
「あの姿からは想像出来ないけどね」
クラスメイトたちの会話を聞きながら、マドカとマナカは二人で昼食を摂っていた。
「お兄ちゃんが褒められるのは嬉しいけど、余計注目されることになったんじゃないかな」
「これ以上ないってくらい注目されているとは思いますけどね」
マナカの心配に、マドカが苦笑いを浮かべながら答える。確かに一夏は更識家の当主という事を発表してから、前以上に注目されるようになっている。それが今更IS操縦技術を見せつけたくらいで注目度が増すとはマドカには思えなかったのだ。
「でもさ、あれだけ動けるんならどこかの国の代表に、って話が来てもおかしくは無いじゃない? お兄ちゃんは世界で唯一ISを動かせる男子なわけだし、広告塔にはもってこいだしさ」
「既に大企業・更識のトップなのですから、今更国家代表になどと言ってくる国は無いと思いますが」
「そうだけどさ……お兄ちゃんの都合なんて考えない輩がいっぱいいるわけだし、そういう話が来ないって保証は何処にもないじゃん」
「来たとしても、姉さまたちが握りつぶして、その国に報復するでしょうから大丈夫でしょう。それに、姉さまたちが何もしなくても、兄さまが個人的に潰す事が可能ですから」
「お兄ちゃんに余計な仕事が増えないかが心配なだけで、お兄ちゃんが代表になるなんて思ってないけどね」
「なら、大丈夫だと思いますよ。最近は刀奈さんも本音も、多少なりとも真面目に仕事をするようになったと聞いていますから」
「何時までもつか分からないけどね」
刀奈は兎も角として、本音が長い時間真面目に働くとはマドカには思えなかった。それはマドカも同じのようで、マナカの言い分に苦笑いを浮かべながら頷いた。
「お二人が真面目になれば、残る問題はアメリカに対する処罰だけですからね」
「篠ノ之も、大人しいものだしね」
「実機を動かしてから、ますます訓練に身が入っていると聞いています。今も兄さまに許可を貰ってVTSルームでトレーニングをしているはずですから」
「中身が変わってから、恐ろしいくらい大人しいよね、篠ノ之」
「何かあれば処分されると理解しているからだと思いますけどね」
物騒な話題になっても、二人は顔色一つ変えずに食事を続ける。忘れがちだが、二人とも犯罪組織に身を置いていたので、この手の話題で顔色を変えるような柔な神経は持ち合わせていないのだ。ましてやあの織斑姉妹と一夏の妹なのだから、これくらいで動じるわけもない。周りは二人の会話が聞こえないように少しずつ距離を取ったが、二人はその事に気が付かなかった。
整備を済ませた一夏が視線を上げると、美紀と本音を中心に他のメンバーも寛いでいた。
「終わったぞ」
「お疲れ様です、一夏さん」
「対して疲れてないけどな。とりあえず急を要するような箇所は全員のISには見られなかったが、セシリアとラウラはそろそろ本格的なメンテナンスをした方が良いだろうな」
「分かってはいるのですが、私たちは頻繁に整備士を呼びつけられませんから」
「希望するなら、更識の方で融通を利かせるが」
整備士一人を来日させ、IS学園に呼び寄せるなど、更識の力を以ってすれば簡単に出来る。一夏の提案にセシリアもラウラも少し考えてから口を開いた。
「宜しいのですか?」
「整備室の一室を貸し与えるくらいなら問題は無い。もちろん、何か怪しい動きを見せたら拘束させてもらうが」
「そのような事は無いと思います」
「なら問題ないだろ。織斑姉妹にはこちらから言っておけば大人しくなるだろうし、政府には更識から話を通せば入国の際に止められることも無いだろう」
「お手数をお掛けしますが、よろしくお願いできますでしょうか? 本当なら、冬休みに国に戻ればよかったのですが、鈴さんたちと一緒に年明けを迎えたかったものでして」
「これくらいなら手間でもないぞ。美紀、尊さんにイギリスとドイツの整備士を手配するように連絡してくれ。本音は織斑姉妹に事情を説明してきてくれ」
「かしこまりました」
「りょーかいだよ~」
すぐに指示を出した一夏に、セシリアとラウラは頭を下げる。
「日本政府には俺から連絡を入れておけば問題ないだろう。後は二人の希望する日時を指定すれば、整備出来るだろう」
「私は何時でも構いませんわ」
「私も、特に希望はありません」
「じゃあ、向こうの都合に合わせるという事で。とりあえずこれは返しておくな」
セシリアとラウラに専用機を返し、残りの専用機も持ち主に返す。
「相変わらず学生とは思えないわね、一夏君は」
「学生をやってるのは、ここにいるのが一番安全だからだ。そうじゃなきゃ俺はIS学園に通うつもりなんてなかったからな」
「そうなの? 更識さんたちに頼まれたら普通に来そうだけど」
「そうだな」
静寐の冗談を本気で肯定した一夏に、残っているメンバーは苦笑いを浮かべたのだった。
確かに安全だが、別の意味で危険……