暗部の一夏君   作:猫林13世

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あまり会話してませんけどね……


織斑四姉妹の会話

 理不尽な模擬戦を前に、一夏はアリーナに出て盛大にため息を吐いた。注目されることには慣れているが、見世物にされている感が否めなく、非常に居心地が悪かったのだ。

 

『一夏さん、そんなに緊張しなくても宜しいのでは? 所詮クラスメイトに見せるための試合なんですから』

 

「(緊張してるんじゃなくて、やりたくないんだよ……)」

 

『でしたら、この授業から脱出しますか?』

 

「(さすがに織斑姉妹から逃げられるなんて自惚れは持っていない)」

 

 

 アリーナから感じる視線にため息を吐きながら、一夏は反対側のピットから出てきた対戦相手に視線を向ける。

 

『美紀さんと本音さんはイマイチやる気がなさそうですね』

 

「(俺が疲れてるのが分かってるし、織斑姉妹が何かを企んでるのかもと思ってるんだろ)」

 

『何を企んでるんでしょうね、あの二人は』

 

「(何も考えてないだろうな、あの二人は……単純に俺が久しぶりに実習に参加するものだから、俺メインの授業にしてやろうとか考えただけだろうしな)」

 

 

 実際何も考えていない織斑姉妹に対して、必要以上に頭を悩ませたくなかった一夏は、闇鴉の問いかけもバッサリと切り捨てて、これから始まる模擬戦に向けて精神を集中させたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 客席で模擬戦を眺めていたマドカとマナカは、知らずの内に身体がうずうずしていたことに気が付き、同時に苦笑いを浮かべたのだった。

 

「マドカも参加したくなったんだ」

 

「これだけハイレベルな戦いを見せられたら、自分も混じってみたいと思うのは当然だと思います。ましてや、私は現状専用機を持っているのに参加出来なかったのですから」

 

「お兄ちゃん相手だから、手心を加えるかもとか思われたんじゃない?」

 

「姉さまたちがそんなことを考えるとは思えないのですが……ましてや、兄さま相手に手心を加えられるほど、私の実力は高くありません」

 

「そうかな? 美紀や本音と連携すれば、十分お兄ちゃんに勝てそうだとは思うけど」

 

「兄さまは基本的に攻撃主体ではありませんから、確かに勝つことは出来るかもしれません。ですが、これはあくまでも授業ですから、時間制限があります。私の実力では、二人にフォローしてもらっても時間内に兄さまを捉えられるか分かりません」

 

「お兄ちゃんの回避能力は、国家代表でもダメージを与えるのに時間がかかるくらいだもんね」

 

 

 現在、セシリアとラウラが一夏に攻撃を仕掛けているが、一夏は危なげなくその攻撃を躱し、他のメンバーが攻撃できないように牽制を続けている。

 

「香澄さんの予知で攻撃が来るのは分かっているのでしょうが、兄さまの移動速度は予知出来るレベルを超えていますからね」

 

「そんな芸当が出来るのは、お兄ちゃんを除けば織斑姉妹と碧さんくらいなんでしょ? 刀奈が辛うじて出来るか出来ないかだって聞いたことはあるけど」

 

「年上を呼び捨てにするのはどうかと思いますよ?」

 

「聞かれなければ問題ないわよ」

 

 

 そう言う問題ではないのではとマドカは思ったが、ここでその論議をしても意味は無いと考えなおして話題を元に戻した。

 

「姉さまや小鳥遊先生は出来て当然だと思いますけどね。何せ無傷で世界を制したお方ですから」

 

「あの二人は力技だけど、碧さんは高い操縦技術もあってだからね」

 

「恐らく姉さまと同じように力技だけでも、小鳥遊先生は世界を制する事が出来たでしょうけどもね」

 

 

 二人とも共通しているのは、碧は自分たちの姉と同じレベルか、それ以上ではないかという認識だ。程度に違いはあれ、碧の事は二人とも尊敬しているのだった。

 

「あんな人がお兄ちゃんの護衛をやってくれてるんだから、お兄ちゃんってかなり凄い人なんだよね」

 

「結局はそこに落ち着くのですか……まぁ、天下の更識企業のトップですからね。護衛も小鳥遊先生程の実力者では無ければ務まらないのでしょう」

 

「でも、美紀は兎も角として、本音が護衛だっていうのはどうなのよ」

 

「その辺りは兄さまに考えがあったのかもしれません。私も聞いたことありませんので、真意は分かりませんが」

 

「これが終わったら聞いてみる?」

 

「そうですね……」

 

 

 そこで不意に、二人はとてつもない殺気を感じて振り返る。するとそこには、素敵な笑顔を浮かべた姉二人が睨みつけてきていた。

 

「授業中だというのに、私語とはなめられたものだな」

 

「織斑妹には罰を与えなければならないようだな」

 

「何でいきなり現れて罰せられなければならないのよ!」

 

「マナカ、今は授業中で、姉さまたちは学園の教師ですから、私語をする生徒を注意するのも、罰するのも仕事の内ですよ……」

 

「あっ……」

 

 

 姉という認識は出来ていても、教師という認識をしていなかったマナカは、マドカに指摘されてようやく気が付いたようだった。

 

「まぁ、お前たちの罰は更識弟を交えてじっくりと決めようではないか。今は大人しく模擬戦を見ている事だな」

 

「だがそれも、そろそろ終わりを迎えそうだがな」

 

 

 千冬と千夏の言葉につられ戦闘に視線を戻した二人は、美紀と本音がしっかりと連携を取って一夏を追い詰めているのを目撃した。

 

「いつの間にか、他のメンバーがやられてる」

 

「厄介な日下部から落とせば、他のメンバーでは一夏の相手にはならないからな」

 

 

 何処か自慢げに語る千冬に、マナカは苛立ちの視線を向けたが、すぐに無意味だと思い直してため息に留めたのだった。




教師として認識されてないとか……

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