暗部の一夏君   作:猫林13世

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忙しすぎる学生……


久しぶりの実習

 久しぶりに朝から教室にやってきた一夏を、クラスメイトは珍しいものを見るような目で眺めてきた。

 

「なんか更識君を久しぶりに見た気がする」

 

「そうか? 冬休みの間にも会わなかったんだっけ?」

 

「私たちは更識所属じゃないからね」

 

「所属の面々ともあまり会わなかったけどな」

 

 

 清香と軽く挨拶を交わして、一夏は自分の席に腰を下ろした。

 

「おはようござます、一夏様」

 

「おはよう、篠ノ之さん。この前は実際にISを動かしてみてどうでしたか?」

 

「凄く緊張しました。布仏さんが相手ということもありましたが、実際に空中を移動するという感覚に慣れるのに苦労しました」

 

「VTSやポータブル版では、武器の感覚とかは掴めますが、実際に移動するときに掛かるGなどは再現出来ませんからね。何とかそれも出来ないかと改良は進めているのですが、実現にはもう少しかかりそうですからね」

 

「いえ、VTSでもある程度移動する際に掛かるGは再現されていましたが、実際に感じるまであれほどきついものだとは思えなかっただけで、今でも十分訓練には適してると思いますよ」

 

 

 箒からのコメントを慰めだと受け取った一夏は、力なく首を横に振り、腕を組んで考え込んでしまった。

 

「あの、一夏様?」

 

「こうなってしまった一夏さんは長いですから、用があるなら後にした方が良いですよ」

 

「あっ、おはようございます、四月一日さん」

 

 

 横から話しかけてきた美紀に挨拶をして、もう一度だけ一夏を見てから完全に視線を美紀に向けた。

 

「一夏様は何を考えているのでしょうか?」

 

「VTSの改良案や、新しい武装などでしょう」

 

 

 本当は別の事ではないかと疑っているのだが、その事は他の人に漏らさないよう言われているので、美紀は先ほどまで箒と話していた内容からそれらしい理由をでっちあげた。

 

「なるほど……当主だとは聞いていますが、一夏様は開発にも携わっているのですね」

 

「一夏さんが開発部のトップですから。VTSだって一夏さんが一から理論を組み上げて、多少の手助けのみで作り上げたものですからね」

 

「そうだったのですか、凄いですね……」

 

 

 難しい理論や、組み立てに掛かる時間などは箒には分からないが、それでもほぼ一人で出来るものではないという事は理解している。だからほぼ一人で作り上げたと聞かされ、そのような陳腐な言葉しか出てこなかったのだった。

 

「凄いなんて言葉で片づけられないくらい凄い事ですが、一夏さんからすれば普通なのでしょうね。何せあの大天災と同じかそれ以上の頭脳の持ち主なのですから」

 

「お姉さまと……」

 

 

 自分の姉が篠ノ之束であるということは、一応認識している箒からすれば、あの大天災と同レベルかそれ以上と聞かされても自分には考えも及ばない次元の話だとしか認識出来なかった。美紀も箒の気持ちが理解出来たのか、苦笑いを浮かべて頷いてみせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前最後の授業は実習で、一年一組の生徒たちは全員アリーナへと移動を済ませていた。

 

「そういえば、いっちーが実習に参加するのって何時振りだっけ?」

 

「知らん。色々と忙しかったからな」

 

「学生とは思えない言葉だね、一夏」

 

「シャルだってちょこちょこと抜けてるんだろ?」

 

「僕はそこまで忙しくないから」

 

 

 子会社とはいえ更識企業傘下の社長であるシャルロットに同意を求めたが、笑顔で首を横に振られてしまい一夏は少し困った表情を浮かべた。

 

「そろそろ全面的にデュノア社はシャルに任せようと思っていたんだが、まだ厳しそうだな」

 

「無理だって! せめて卒業してからにしてくれないかな」

 

「そうなると後二年は無理か……」

 

「また難しいお顔をされてますわよ、一夏さん」

 

「これが素なんだから仕方ないだろ」

 

「そんなことありませんわよ。普段はもっと穏やかな表情をされていますわ」

 

「そうか?」

 

 

 セシリアに言われたことを、この中で一番側にいる事が多い美紀に尋ねる一夏。

 

「そうですね、問題が無い時は穏やかな表情をされていますが、ここ最近は難しい顔の方が多いかと」

 

「まぁ、まだすべて終わったわけじゃないからな……スコールやオータムの処遇も考えなければいけないし、篠ノ之さんの事もまだ完全には終わったわけじゃないから」

 

「全員そろっているな」

 

 

 千冬の声が聞こえてきたので、一夏たちは私語を止めて正面に向き直る。

 

「今日は久しぶりに更識がいるため、思いっきり戦ってもらおうと思う」

 

「千冬先生、思いっきり戦うというのは、どのような意味でしょうか?」

 

「言葉の通りだ。更識対、残りの専用機持ち全員だ」

 

「自分は候補生レベルもありませんが、既に代表に昇格した美紀や、それに準ずる本音相手に五分も持ちこたえられないと思いますが。もちろん、静寐や香澄、セシリアやラウラ、シャルロット相手でも同様ですが」

 

「謙遜だな。誰が見ても、お前の実力は代表候補生程度では相手にならないと判断されて当然のものなのだが」

 

「買い被り過ぎです。自分は誰かに助けてもらわなければ生きていなかったはずです。それこそ、美紀や本音には世話になりっぱなしですから」

 

「出来る範囲で構わん。他の生徒に、貴様の回避能力を見せればそれで構わないから」

 

「はぁ……それくらいでいいのでしたら」

 

 

 イマイチ納得出来なかったが、一夏は千冬たちの提案を受け、一対多数の模擬戦をすることになったのだった。




何処にいても気苦労が絶えない一夏……

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