暗部の一夏君   作:猫林13世

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ちょっと物騒なタイトル……


美紀への訊問

 新学期と言われても、生徒ではないスコールとオータムにとっては前日と変わらない一日であり、特に忙しくなったりするわけでもない。最近は警戒心も薄れてきたのか、二人を訓練に誘う生徒も少なくなくなってきたのだが、さすがに今日は誰も訓練する予定は無いので、こうして部屋でのんびりするしかなかったのだ。

 

「たまには本気で暴れたいものだぜ」

 

「こうして生きているだけでも奇跡なんだから、もう少し我慢を覚えたらどうなの? 一夏が間に入ってくれなかったら、私たちは間違いなくここよりも悪い環境で監禁されていたか、最悪は死刑になってたでしょうね」

 

「それは分かってるけどよ……大人しくしてるってのは意外とストレスなんだぜ? それはお前だって分かってるだろうが」

 

「私は別に、貴女みたいに戦闘狂じゃないもの」

 

 

 訓練だけでは物足りなくなってきたオータムに、スコールがしっかりと釘を刺す。ここで暴れようものなら、例え一夏の庇護下にあるとはいえ実刑は免れないだろう。それどころか、一夏の庇護下から外され、織斑姉妹に殺されるかもしれないのだ。

 

「餓鬼たちの話を聞いたが、どうやらSHが実機を動かしたらしいな」

 

「そうみたいね。一夏が苦労してSHを更生させ、ISに対して罪悪感を持たせた結果でしょうね」

 

「怪しい薬で人格を再形成したんだろ? 一夏のお陰ってわけじゃないんじゃねぇか?」

 

「SHが生きている時点で、一夏の功績よ」

 

「チゲェねぇな」

 

 

 箒が法で裁かれて当然の事をしでかしたという事は二人も知っている。だからスコールの言うように、今箒が生きている時点で、一夏が苦労した結果だと言えるのだ。

 

「レインとその恋人は普通に学生に戻ったらしいから、結局捕まってるのはオレたちだけじゃねぇかよ」

 

「私たちは元々学生でもなければ、巻き込まれたわけじゃないんだから仕方ないでしょ。最近は監視も緩くなってきてるんだから、文句言わないの」

 

「分かってるんだけどよ……たまには本気で暴れたいって思うのも仕方ねぇだろ」

 

 

 オータムの言い分にスコールは呆れながらも、自分の中にも少しそう言う感情があることを自覚して、強くは否定しなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏がいないため、美紀は簪と本音の部屋に泊まることになった。もちろん、織斑姉妹には報告し、一夏からの許可が出ているので全く問題は無い。

 

「さーて、何して遊ぶ~?」

 

「いくら一夏から許可が出てるからって、消灯時間を過ぎて騒いでたら怒られるよ」

 

「明日も早いんだから、大人しく寝ましょう」

 

「え~、せっかく美紀ちゃんがお泊りするんだから、もう少しお喋りしようよ~」

 

 

 ついこの前旅行で全員纏めて同じ部屋で寝たのに、本音はそのタイミングでお喋りすることなくさっさと寝ていたのだ。だからこういう機会にお喋りしたいと思ってしまうのは仕方のない事なのかもしれない。

 

「美紀ちゃんはいつもいっちーと同じ部屋で寝てるわけだけど、夜這いとかするの?」

 

「っ!? な、何を言うの! そんなことしませんよ!」

 

「美紀、なんだか不自然な慌て方だけど、もしかして本当に?」

 

「してないってば! そもそも、一夏さんは私より後に寝て、私より先に起きるんだから、そんなこと出来るわけないでしょ!」

 

 

 加えて一夏は、寝ていてもある程度気配を感じる事が出来るので、ベッドに誰かが近づけばすぐに気づかれるのだ。だから美紀が一夏に夜這いをかけるという事は不可能なのだが、簪と本音は美紀の慌て方が不自然に思えて問い詰める事にした。

 

「本当に? 隠すと身の安全は保障できないよ?」

 

「さぁさぁ、大人しく本当の事を言うのだ~!」

 

「本当に何もないってば! ていうか、二人だって一夏さんが寝ながら周囲を警戒してるのは知ってるでしょ!」

 

「でも美紀なら――いつも一緒にいる美紀なら、その警戒を掻い潜って何かをすることが出来るんじゃない?」

 

「寝ている一夏さんに近づいても問題ないのは碧さんくらいです! それ以外はさすがに一夏さんが起きて何の用かと確認してきますし」

 

「つまり、美紀ちゃんはいっちーが寝ているベッドに近づいたことがあるんだね?」

 

 

 美紀の言葉をしっかりと聞いていた本音が、その事を指摘すると、美紀は疲れたような顔でため息を吐きながら答えた。

 

「夜遅くにトイレに行きたくなって起きた時に、一夏さんのベッドの前を横切っただけです」

 

「それだけでいっちーは起きちゃうの?」

 

「それだけ気配に敏感なんです」

 

「それじゃあ一夏のベッドにお姉ちゃんが潜り込もうとしても無理だね」

 

「そもそも刀奈お姉ちゃんが部屋に忍び込もうとした時点で、織斑姉妹が飛んできますからね」

 

「そっか、織斑姉妹の部屋が近いんだったね、あの部屋は……」

 

「それだけ一夏さんを守るには人が必要なんですよ。まぁ、普通の相手なら一夏さん自身が撃退出来ますが、ただでさえ人が苦手なのですし、余計な事をされて人間不信が強まったら大変ですから」

 

 

 美紀の言っている事をもっともだと二人も納得して、とりあえず美紀に対する訊問は終わりをつげ、そのまま大人しく寝ることにしたのだった。

 

「ところで、美紀ちゃんはどっちのベッドで寝るの?」

 

「簪ちゃんのベッドで。本音は寝相が悪いからね」

 

「そこまで悪くないよ~!」

 

 

 本音の反論は、美紀と簪に苦笑いを浮かべさせるだけだった。




気になっちゃうのは仕方ないんだろうな……

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