暗部の一夏君   作:猫林13世

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忙しさは相変わらず……


二人の覚悟

 あっという間に新学期を迎えたが、集会に一夏の姿が無く、クラスメイトたちはそろって首を傾げた。もちろん、事情を知る例外はいたが、他クラスの生徒たちもだいたい一夏の姿がない事にガッカリしている様子だった。

 

「マドカさん、本日一夏さんは何処に行かれているのでしょうか?」

 

「兄さまは、亡国機業がしてきた数々の所業の確認と、アメリカが亡国機業の所為だと言って来ている事件の確認の為に、碧さんと共にカナダへと向かいました」

 

「何故アメリカではなくカナダへ?」

 

「アメリカの現状を考えれば、直接赴くより近場で情報を集めて乗り込んだ方が安全だからだと思いますよ。というか、本来ならアメリカ側が兄さまのところへはやってくるべきだと思うのですが、何処までも傲慢な国ですね」

 

 

 苛立ちが見え始めたマドカを下手に刺激しないよう、セシリアは傍で話を聞いていたシャルロットに意見を求める事にした。

 

「シャルロットさんはどう思われます?」

 

「下手に一夏がアメリカに入国したら、命を狙われたり誘拐されたりと大変だろうからね。もちろん、小鳥遊先生がそんなことを許すはずもないけど、一夏としたら余計な手間を取らせたくなかったのかもしれないね。それに、そんな連中を一夏が野放しにするとも思えないし……忘れがちだけど、更識は元々IS企業ではなく暗部組織だからね。そういう連中を片付けるのなんて造作もないだろうし」

 

「私には良く分からない世界ですからね……」

 

 

 対暗部用暗部、それが本来の更識の姿であり、その当主である一夏も当然そのような命令を出す事もあるのだろう。輝かしい表の世界で生活しているセシリアには、その事が何時行われるのかなど見当もつかなかった。

 

「アメリカの現状は、日に日に悪化していますからね」

 

「一夏を襲ったところで、更に立場が悪くなるだけなのにね。それに、亡国機業の所為だって言ってるけど、既に一夏が違うって言ってたから、今回のカナダ来訪はアメリカにとどめを刺しに行ったんだと思うよ」

 

「とどめ、ですの?」

 

「ティナの移籍を報告しに行くのかもしれないし」

 

「そう言えば、ティナさんは何処の国に決めたんでしょうね?」

 

「技術的にも、心情的にもイスラエルに傾いていたから、きっとそこじゃないかな? 他の国だと一夏も介入し辛いだろうし」

 

「一夏さんが介入する事前提なのですね……」

 

 

 言い切ったシャルロットに、セシリアは少し驚いた表情でそう呟いた。シャルロットとしては一夏が介入する事が当たり前だと思っていたのだが、どうやらセシリアの中では違うようだと、その事に驚いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新学期初日など、特にすることも無いので、刀奈たちは一夏のいない生徒会室で仕事を片付けていた。何時もみたいな書類の山は無く、細々として事を片付けるだけなので、刀奈と虚の二人で十分だったのだが、生徒会室には珍しく本音の姿もあった。

 

「明日は大雪かしらね?」

 

「もしくは、地球が滅びるのかもしれません」

 

「そこまで言われるとさすがに傷つくんだけどな~」

 

「貴女が自発的にこの場所に来るなど、それくらいの事が起こらなければ無いと思っていましたから」

 

「いっちーからもっと頑張れって言われたからね~」

 

「頑張るのは良いですが、邪魔だけはしないでくださいね」

 

「酷いな~、おね~ちゃんは」

 

 

 それだけ信用ならないと思われているのは本音も自覚している。今までこの場所を訪れた事など、両手の指で足りるくらいなのだから仕方ないし、来たとしてもろくに仕事もせずうだうだと文句を言っていただけなのだから、本音としてもこれで信用されるわけがないと理解しているのだ。

 

「おね~ちゃんが安心して自分のやりたい事が出来るように、これからは頑張ろうって思ったのだ~」

 

「本音、貴女……」

 

「今までおね~ちゃんやいっちーに甘えてたのは自覚してるからね~。少しでも安心してもらう為に、頑張るよ私は~」

 

 

 そう言いながら、一夏に作ってもらったマニュアルを見ながら作業を始める本音。別にマニュアルが必要な作業でもないのだが、今までサボっていた分仕事の内容が分からないのだろうと虚は苦笑いを浮かべる。

 

「お嬢様、私たちも作業を始めましょうか」

 

「そうね。本音が頑張ってるのに、私たちがサボってたら意味ないものね」

 

「サボるのは主にお嬢様ですがね」

 

「わ、私だって頑張るもん!」

 

 

 刀奈の言い方がおかしかったのか、虚はくすくすと笑いだす。もちろんすぐに真顔に戻り、作業を始めるあたりが、彼女の有能さを物語っているように刀奈には感じられた。

 

「虚ちゃんが何をしたいって言っても、私は応援するからね」

 

「まずは安心して卒業できるよう、お嬢様と本音には頑張ってもらわなければいけませんね」

 

「そこは安心してよ。これでも私は生徒会長なんだから!」

 

「形だけのお飾りと言われているようですけどね、一夏さんが入学してからは」

 

「私お人形さんじゃないわよ!」

 

「そう言う意味ではありませんよ。ですが、そう思われても仕方ないのではありませんかね?」

 

 

 反論しようとしても、確かに一夏に甘えまくった自覚のある刀奈は、黙って作業を再開したのだった。




覚悟は決めてますが、あまり変わらない二人……

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