暗部の一夏君   作:猫林13世

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観察眼は良いものを持ってますからね


訓練相手の実力

 箒が訓練機を動かしたのを見た学生たちは、感動したり驚愕したり、少数ではあるが恐怖を抱いたりしていた。その中でもクラスメイトたちは、一夏の苦労が報われ始めたのではないかと感動している人が多かった。

 

「ここまで復帰出来たのも、更識君が頑張ってたからだもんね」

 

「このまま順調にいけば、篠ノ之さんの事で更識君が頭を悩ませることも無くなるね」

 

「そうすれば、私たちとお喋りしたりする時間も出来るのかな」

 

 

 それほど一夏と関係が深くない少女たちは、気楽な考えを持っていたが、一夏と近しい人は、手放しに喜んではいなかった。

 

「箒がISを動かせるようになったって事は、暴走したときの対処が大変になるって事だね……一夏なら何か考えがあるんだろうけど、警戒を怠るのは危険だね」

 

「そうね。一夏君に指示を仰いで、どうするか決めないとね。専用機を持ってる私たちは兎も角、持ってない子たちを危険に曝すのは一夏君の本意ではないでしょうし」

 

 

 そう話すのは、シャルロットと静寐の二人だが、今場にはもう一人、香澄がいる。他人の心の裡を無意識に見てしまう彼女は、ISを動かせるようになった箒に並々ならぬ警戒心を抱いている。

 

「セシリアやラウラはあまり気にしてないようだけど、一応警戒しておくように言っておこうか」

 

「でも、あの二人は腹芸が得意じゃなさそうだし、下手に警戒を促せば、あからさまになるんじゃない?」

 

「それって、僕は腹芸が得意だって言いたいの?」

 

「そんなことないわよ。一夏君に比べれば誰だって不得意よ」

 

「そこと比べるのは間違ってるとは思うけどね」

 

 

 揃って笑みを浮かべる静寐とシャルロットを他所に、香澄は箒の戦闘をじっくりと眺めていた。

 

「香澄、そんなに警戒しなくても今のところは問題ないんじゃない?」

 

「実力を把握しておかないと、いざという時に動けないから」

 

「更識勢が全員学園から離れる事は無いんだし、そこまで警戒しなくても良いと思うんだけどな」

 

「デュノアさんや鷹月さんは十分な実力があるから安心出来るかもだけど、私は元々赤点ギリギリの成績だったから、安心出来ないよ」

 

「久延毘古の能力があれば、ある程度は未然に防げるんだし、そこまで悲観しなくてもいいと思うんだけど」

 

 

 静寐の慰めにも、香澄の表情は晴れなかった。何がそこまで香澄を不安にさせるのか分からない二人は、そろって首を傾げたのだった。

 

「最悪織斑姉妹だっているんだし、少しは気を楽にしたらどう?」

 

「でも、あの二人って肝心な時に役に立たないって一夏さんが……」

 

「実力は確かなんだから、たぶん大丈夫だよ」

 

 

 ちょっと顔を引きつらせながら慰めるシャルロットに、静寐も顔を引きつらせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒の相手をしながら、本音は箒の実力を測っていた。

 

「(う~ん……打鉄を使ってるという事を差し引いても、前のシノノンの方が遥かに強かった気がするよ~)」

 

『まだ実機を動かせるようになったばかりですし、それは当然だと思いますよ』

 

「(VTSでサイレント・ゼフィルスを使ってる時も、あまり強いって感じはしなかったけどな~)」

 

『サボってばかりですが、本音も成長してるという事でしょうね。一夏さんが貴女のデータもしっかりと測定してるでしょうし、後程見せていただいてはどうです? 自分の成長をはっきりと理解出来ると思いますけど』

 

「(そんなに興味ないし、いっちーが知ってればいいことだしね~。成長データをシステムに反映させるのはいっちーだし)」

 

『自分でやるべきだと思うんですけどね……』

 

 

 土竜に呆れられながらも、本音は気にした様子もなく箒の攻撃を裁いている。

 

「(猪突猛進なのは相変わらずなのかな~? 攻撃がまっすぐ過ぎるんだよね~)」

 

『冷静に相手の事を分析できるのは良い事ですが、相手を舐めすぎると痛い目に遭いますよ』

 

「(今のシノノン相手なら、目を瞑っても勝てるとは思うけどね~)」

 

『そういう事は思っても口に出さない事ですね。後で一夏さんに怒られる事になりますので』

 

「(いっちーに怒られるのは嫌だな~。それじゃあ、相手に敬意を表して、さっさと終わらせようか~)」

 

『もういいのですか?』

 

 

 実力を測っていたのではという疑念を浮かべた土竜に、本音は笑みを浮かべて答えた。

 

「(観測室でかんちゃんがデータを採ってるだろうし、私は結局強いか弱いかでしか分からないしね~)」

 

『はぁ……もう少し努力した方が良いですよ? 虚さんの跡を継いで更識企業の企業代表になるかもしれないんですから』

 

「(私には役不足だと思うんだけどね~)」

 

『役不足は褒め言葉です。力不足の間違いでしょうね』

 

「(ほえ~、そうなんだ~)」

 

『学業にも、もっと力を入れるべきだと思うんですけど、その辺りは私ではどうしようも無いですからね』

 

「(いっち~に怒られるから、この事は内緒ね~)」

 

 

 あまり気にした様子の無い本音に、土竜は冷酷な宣告をした。

 

『この会話は闇鴉を介して一夏さんに筒抜けです。大人しく怒られてください』

 

「(ちょっ!? そう言う事は早く言ってよ~!)」

 

 

 勉強不足を露呈した本音は、ショックを受けながら箒を撃退させたのだった。




勉強不足は相変わらずの本音……

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