四人の模擬戦を見学していたセシリアは、自分との力の差を見せつけられた気がして少し凹んでいた。その隣では、鈴が何か納得したように頷いていたので、セシリアは鈴が何を思ったのか聞くことにした。
「鈴さんは今の試合を見てどう思いましたの？」
「どうって、あたしたちの憧れである『更識刀奈』は相変わらず凄いって事よ。一夏と一緒にいる時の生徒会長は何処かだらしないけど、こういう時の彼女は本当にかっこよく、何時か勝ってみたいって思わせてくれるって思っただけよ。アンタは違うの？」
「いえ……私は会長さんと自分との力の差を見せつけられた気がして、ちょっと落ち込みましたわ」
「力の差があって当然じゃない。あの人は、現役の国家代表で、前回大会の覇者なんだから」
「それはそうですが……ですが、一つしか年の差がないのにも関わらず、あそこまで実力差を見せつけられたら、誰しも凹んだり、自信喪失したりしても仕方ないと思いますが」
「最初から勝てるなんて思ってないから、あたしはそこまで落ち込みもしないけどね。だけど、ずっと勝てないとは思わないけどね。何時かは超えてやる、何時かは勝ってやるって思って訓練する方が健全だと思うけど」
鈴の言い分が最もだと思った半面、そんな事を思える鈴が羨ましいと、セシリアは鈴に憧れを抱いた。
「なに？」
「鈴さんのそういう考え方が出来るのは羨ましいですわ」
「『のは』ってどういう事よ！ あたしが幼児体型とでも言いたいわけ！？」
「確かに胸は慎ましげですが、そんなことは関係ありませんわ。私が言いたいのは、普段何も考えていないようで、その実物凄く考えているという部分が羨ましいという事ですわ。何故それが普段から見られないのかというのは問題ですが」
「一夏と一緒にいれば何か考えていても一夏の方が良い考えがあるだろうからって考えになっちゃうのよ」
確かにそれはありえそうだと、セシリアはもう一度鈴の言い分に納得した。
「ところで、訓練はこれで終わりなのでしょうか？」
「次は箒が本音たちと模擬戦をするって聞いてるけど？」
「箒さんが？ ですが、彼女に反応するＩＳは無いのではなかったのでしょうか？」
「一夏が何とかしたんじゃない？ ゆっくりとＩＳの心を開かせて、ようやく箒に反応するＩＳが出てきたとかさ」
実際はどうか知らないけどという感じで言う鈴に、セシリアはため息を吐いたのだった。
いよいよ本物のＩＳを動かせるという感動と、本当に自分に動かす事が出来るのだろうかという不安で、箒は落ち着きを失っていた。
「篠ノ之さん、少しは大人しくしてください」
「そんなこと言われましても……」
「一夏さんがちゃんと調整してくれてますし、貴女が何か余計な事をしなければ問題はありませんから」
「そうかもしれませんが、一夏様は今学園にいらっしゃらないじゃないですか！」
箒が落ち着かないもう一つの理由がこれである。一夏は現在箒の復学と国籍復帰の手続きを完了させるために日本政府へと赴いているのだ。だから万が一が起こった場合、一夏が対処してくれるという考えが出来ないのである。
「大丈夫ですよ。何も起こらないでしょうし、万が一何かが起こったら私たち更識勢が対処しますので」
「確かに四月一日さんや更識さんは頼りになりそうですが、布仏さんや更識先輩は何処か不安を感じさせるのですが……」
「大丈夫です。本音は兎も角、刀奈お姉ちゃんはやればできる人ですから」
あまりフォローになっていない美紀の言葉に、箒の不安を取り除く効果は無かった。
「とりあえず、相手は本音ですけど、あくまでもＩＳに慣れる事だけを考えてください。どれだけ怠けて見えようと、本音の実力は本物ですから」
「それはＶＴＳで十分に知っています。納得は出来ませんが、布仏さんの実力は一夏様もお認めになっているようですしね」
「本当に、本音が羨ましいですよ」
愚痴になり始めたのを自覚し、美紀は一つ咳ばらいをして話題を変える事にした。
「大勢の前で動かす事に対しては何も思わないのですか？」
「何処にいようが注目されているような生活ですし、今更です。まぁ、全く気にならないと言えば嘘になりますが、気になるわけでもありません」
「その意気ですよ。今日はあくまでも動かせるかどうかのチェックと、ＩＳとの関係を深める事が目的ですから、変に固くなる必要はありませんしね」
「その目的じゃなくても、勝てるなんて自惚れは抱きませんよ。こちらは漸く実機を動かせるようになった素人、あちらは専用機を持っている実力者。どんな勘違いをしようが、勝てるなんて思えないですって」
「それが前の篠ノ之さんには無かったんですよね、その謙虚な考え方が……」
「本当に私が私を殺したいです……」
過去の自分がどれほど愚かだったかを一番理解していると箒は思っているので、ことあるごとに自分で自分を殺したいと零すのだった。
「さて、時間ですしＩＳを纏ってアリーナに出てください」
「分かりました。何事もなく終わることを目指します」
「それはほぼ確定事項ですけどね」
気弱な発言を繰り返した箒に、美紀は苦笑いを浮かべながら送り出したのだった。
この場にいなくても活躍する一夏……