暗部の一夏君   作:猫林13世

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もちろん、話すのは一夏


ISとの対話

 夜遅くに整備室に呼び出された箒は、いったい何の用なのだろうと首を傾げながら指定された部屋の扉をノックした。

 

『どちら様でしょうか?』

 

「篠ノ之です。一夏様に呼ばれたのですが」

 

 

 そう声を掛けると、内側から鍵を開ける音が聞こえ、ゆっくりと扉が開かれた。

 

「お待ちしておりました」

 

 

 そう言いながら箒を出迎えたのは、一夏の専用機である闇鴉。どことなく敵意を向けられている感じがしたが、箒はそれは仕方ないと割り切って整備室の中へ足を進めた。

 

「篠ノ之さんにご忠告をしておきたいのですが」

 

「何でしょうか?」

 

 

 一歩足を踏み入れた途端、闇鴉に行く手を阻まれてしまい、箒はそのまま真正面から闇鴉と対峙した。

 

「万が一おかしな動きを見せたら、その瞬間に私が貴女の首を撥ねます。一夏さんの判断など仰がず、私の判断でです」

 

「……肝に銘じておきます」

 

 

 警告されるまでもなく、箒は一夏に何かしようとは考えていない。過去の自分がどれだけ一夏に迷惑を掛けてきたのかを聞かされているので、何か一夏の為に出来ることは無いかとすら考えてはいるが、余計な事などするつもりも無かった。だが闇鴉が懸念するのも、箒には十分理解出来たので、特に反論するでもなくそう返したのだ。

 

「では、案内いたします」

 

 

 箒の返事が嘘ではないと判断したのか、闇鴉は箒に背を向けて一夏の許へと案内する事にした。箒も大人しくその背中に続き、しばらく無言で一人と一機は歩き進めた。

 

「一夏さん、篠ノ之さんをお連れしました」

 

「ご苦労様。待機状態に戻ってもいいぞ」

 

「いえ、このまま護衛として一夏さんの隣に待機させていただきます」

 

「……好きにしろ」

 

 

 闇鴉に短く命じて、一夏は視線を箒へと向けた。一夏の視線を正面から受ける箒は、何処か緊張した面持ちに見えたが、余計な事で時間を割くつもりは全く無かったのだった。

 

「余計な前置きはしません。単刀直入に言います。ISの事をどう思っていますか?」

 

「どう、とは?」

 

「前のように憎んでいたり、負けたのはISの性能の所為だとか考えたりしていないか、という事です」

 

「そんなことは決して! ポータブル版でも学園のVTSでも、ISを動かせるだけで幸せです」

 

「そうですか……」

 

 

 箒の返事に、一夏は目を瞑りながら頷く。その反応がどのようなものか計り知れない箒は、ただ一夏の言葉を待った。

 

「訓練機の中に、そろそろ篠ノ之さんに反応してもおかしくない子が数機いるのですが、少し話してみますか? もちろん、通訳は俺がしますので」

 

「宜しいのですか?」

 

「訓練機たちが拒めば無理ですが、たぶん大丈夫だと思いますよ」

 

 

 そう言って一夏は腰を浮かせ、それに続くように箒も慌てて立ち上がった。

 

「一夏さん、サイレント・ゼフィルスでは無いのですね?」

 

「いきなりあの子は無理だと思うぞ。いくらフォーマットしたからと言って、少しずつ慣らしていかないと必ず破綻するだろうし」

 

 

 ISとの関係が破綻すれば、その機体を動かす事が出来なくなってしまう。ただでさえ前の箒の所為で今の箒に反応するISが無いのだから、サイレント・ゼフィルスまでも反応しなくなってしまったら、一夏が一から作り上げるしかなくなるのだ。そんな手間をかけてまで戦力を確保するくらいなら、箒ではなく別の人材を探した方がデータが取りやすいので、一夏は箒に反応しそうな機体を探し出し、ゆっくり慣らす事にしたのだった。

 

「この子が一番反応してくれる可能性が高い機体です」

 

「えっと……初めまして、篠ノ之箒です」

 

 

 箒がISに話しかけると、一夏がその機体の声を聞いて箒に伝える。

 

「数日間貴女の事を見て、動かしてもらってもいいかなとは思っています。ですが、動かしてすぐに合わないと判断したら強制的に停まりますが、それでもよろしいでしょうか?」

 

「当然の対処だと思います。私を信用出来ないと仰る方が普通ですので、警戒心を持ったままで構いません」

 

 

 箒の言葉を聞いたISが、再び一夏になにかを伝える。

 

「では、明日の訓練で、試しに私を動かしてください。勝ち負けは兎も角、生のISを動かしてみてどう思うかを見てみたいので」

 

「分かりました。ですが、明日は一夏様が不在だとお聞きしておりますが、通訳などはどうしたらいいのでしょうか?」

 

「それは別にいらないだろ。本当に心を開いてくれれば、動かしている時には声が聞こえるだろうし」

 

 

 これはISの言葉ではなく一夏の言葉。箒はとりあえず納得したのか、深々と頭を下げた。

 

「こんな私に動かされるのは嫌かもしれませんが、よろしくお願いします」

 

「気にしないでください。気に入らなかったら放り出すだけですので」

 

「……放り出されないように頑張ります」

 

 

 物騒な事を言われ怖気づいたのか、箒は一歩ISから遠ざかる。それでもISを動かしたいという気持ちが強いのか、それ以上は逃げ出さなかった。

 

「今日呼んだのはこの確認の為です。明日は刀奈さんたちが訓練に貴女を誘ってくれるはずですから、そこでこの子を動かしてみてください。問題なければ、しばらくこの子を使って訓練してもらう事になりますので」

 

「分かりました。頑張ります」

 

 

 もう一度深々と頭を下げ、箒は整備室を後にし、興奮した様子で部屋まで戻っていったのだった。




何か国語も大丈夫で、ISとも喋れる一夏……

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