暗部の一夏君   作:猫林13世

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代表じゃなく、更識企業を目指せばいいのに……


鈴からの報告

 学園に戻ってきた一夏を出迎えたのは、織斑姉妹と鈴だった。

 

「珍しい組み合わせだな……篠ノ之さんが何かしたんですか?」

 

 

 鈴だけならそうは思わなかっただろうが、織斑姉妹がいるのを考えると、それもあり得そうだと一夏は思いそう尋ねたのだが、三人は首を横に振った。

 

「あたしは報告がてら一夏を待ってただけだけど、何で織斑姉妹まで出迎えに来たのか分からないわよ」

 

「なに、お前たちの所にも束が遊びに行ったらしいからな。粛正しておいたという報告をしに来ただけだ」

 

「年末に一緒に深酒して監視の任務を山田先生と五月七日先生に押し付けたことは報告を受けてますので。言い訳は結構です」

 

 

 バッサリと織斑姉妹を斬り捨て、一夏は鈴を引き連れて寮内へと進んでいく。

 

「それで、どうだった?」

 

「大人しいもんよ。あれが箒だって信じられないくらい」

 

「まぁ、中身が完全に変わってるからな」

 

「ところどころ鋭さは感じさせるけど、別に脅威は感じなかったわ。香澄が気にし過ぎなだけだと思うわ」

 

「まぁ、香澄は心の裡を知りたくなくても知ってしまう特性があるからな……前の篠ノ之に怯えてしまうのは仕方がないだろう」

 

 

 一夏が鈴の報告を聞いているのを、刀奈たちは一歩後ろから眺めている。普段なら一夏が別の女子と話しているのを面白くないと言って妨害するのだが、今は真面目な話をしているので邪魔をするわけにもいかず、ただただ眺める事しか出来ないのだ。

 

「それで、ISの方はどうだった?」

 

「それはあたしにも分からないわよ。アンタみたいにISの声が聞こえるわけじゃないんだし」

 

「見た限りで構わない。動作不良とかは感じなかったか?」

 

「VTSだから特に感じなかったわよ。動きがぎこちなく見えたのは、単純に慣れてないからでしょうし」

 

「そうか……悪いな、こんな事頼んで」

 

「別にいいわよ。あたしだって暇だったし」

 

「国に帰るんじゃなかったのか?」

 

「帰ったところで一夏の事を聞かれるのが目に見えてたし、それだったら一夏の頼みごとを引き受けた方が有効的な時間の使い方でしょ? それに、明日はあの馬鹿共と会う約束があるから、どっちにしろ国に帰ってる暇なんてないわよ」

 

「俺はいけないが、弾と数馬によろしく言っておいてくれ」

 

「りょーかい。それじゃあ、あたしは部屋に戻るわ」

 

 

 片手を上げて一夏の傍から去っていく鈴を、同じく片手を上げて見送る一夏。単に付き合いが長いだけではなく、互いに信頼しているからこそ任せられたのだと刀奈たちは鈴に向けられている一夏の信頼が羨ましいとさえ思えた。

 

「VTSでは特に問題は無いか……これならそろそろ本格的に復帰出来るかもしれないな……」

 

「一夏君? 一人でブツブツ言ってると怖いわよ?」

 

「ん? あぁ、すみません。明日一日留守にしますが、篠ノ之さんの事はお願いしますね」

 

「それは構わないけど……一夏君と鈴ちゃん、なんだかパートナーみたいな感じがしたわよ」

 

「付き合いは長いですからね。あいつがいい加減な報告をしてくるとは思いませんし」

 

 

 普段はいい加減に見えるかもしれませんがね、と言わんばかりの表情に、刀奈たちは再び複雑な思いを抱く。友人であることは間違いないのだが、それ以上の関係なのではないかと邪推してしまう空気が、あの二人の間には感じられるのだ。

 

「一夏と鈴って本当にただの悪友なの?」

 

「それ以外なんだって言うんだ?」

 

「分からないけど……セシリアたちとは別の感じがするし」

 

「セシリアたちとは、知り合って一年足らずだが、鈴は小学生の頃から知ってるからな。最終的に裏切ることは無いと信じられるくらいの関係だとは思ってるぞ」

 

「まぁ、一夏さんを敵に回したリスクは、鈴も十分理解してるでしょうしね」

 

「いっちー、疲れた~」

 

 

 簪や美紀が一夏と鈴の関係を疑っているのに、本音は相変わらずだらだらとした空気を纏い、一夏にしなだれかかる。

 

「疲れたって、さっきまで寝てただろ、お前は」

 

「難しい話を聞いてると疲れるんだよ~」

 

「対して難しい話をしてたわけじゃないんだが?」

 

「私の担当じゃないから、良く分からなかったんだよ~」

 

「……簪、本音を部屋に運んでおいてくれ」

 

「私が? 私と本音じゃ、体格差がないから引き摺るしかないんだけど」

 

「かといって、俺が運ぶと問題なんだろ?」

 

 

 本音だけズルい! という感じで刀奈が甘え、それでさらに面倒な感じなるのが目に見えているので、一夏は本音の事を簪に任したのだが、確かに簪と本音には体格差がほとんどなく、前に簪が本音を引きずっているのを見たことがある。

 

「虚さんが運んでください。虚さんは大きいですし、本音くらいなら運べますよね?」

 

「この場に捨て置いても構いませんよ」

 

「それはさすがに……いくら本音とはいえ、こんなところに捨てて置いたら風邪ひきますよ」

 

 

 そうしたら看病が面倒だと言いたげな一夏の表情に、全員が苦笑いを浮かべた。

 

「本音は風邪ひかないと思いますけどね」

 

「万が一、という事もあるでしょうし、虚さんはそろそろ卒業試験の事も念頭に置いておかないといけません。余計な事に神経を割かないためにも、本音には大人しくしてもらっておいた方が全員の為ですから」

 

「虚ちゃんなら、問題なく合格するでしょうけどね」

 

 

 とりあえず一夏の言う通りなので、虚は仕方なく本音を抱き上げ、そのまま部屋に運ぶのだった。




一応有能ではありますからね

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