暗部の一夏君   作:猫林13世

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最終日はすっ飛ばします


訓練の相談

 あっという間に残り一日も終わり、更識勢は碧の運転でIS学園へと戻る事になった。

 

「何だかあまり休めなかったわね」

 

「それはお嬢様たちが一夏さんの妨害ばかりしていたからではないでしょうか?」

 

「そんな事ないわよ! 一夏君、私たち、邪魔してないわよね?」

 

「そうですね。まぁ、俺が休み慣れてなかったのが一番の原因でしょうね」

 

 

 刀奈の問いかけに、一夏は苦笑いを浮かべながら首を振った。

 

「帰ったらまた仕事なんだよね?」

 

「さすがに今日は無いが、明日には篠ノ之さんの件で日本政府に出頭する事になっている。尊さんが代理を申し出てくれたが、さすがにこれは任せるわけにはいかないからな」

 

「篠ノ之さんの件で? まだ何かあったの?」

 

「国際指名手配の取り消しと、正式に学園に復帰させるための手続きとか、その他諸々先延ばしにしてたからな。いい加減済ませておかないと三学期からの復帰が難しくなるからな」

 

「そう言えば、今のところは仮復帰だったんだっけ……普通に馴染み始めてたから忘れてたわ」

 

「お嬢様は覚えておかなければいかなかったことなのですが?」

 

 

 虚が冷たい視線を刀奈に向けると、ゆっくりと虚から視線を逸らして、一夏にすり寄っていった。

 

「学園の方は私たちが何とかしておくから、一夏君は一度で終わらせちゃってね」

 

「もともとそのつもりですし、刀奈さんたちには篠ノ之さんの指導をお願いすると思いますよ」

 

「箒ちゃんの? 生徒会の仕事は良いの?」

 

「年末年始でそれほど仕事が溜まってるとは思えませんし、かといってだらだらと過ごされるのはもったいないですからね。実力者に混じって訓練すれば、おのずと篠ノ之さんの実力も上がっていくでしょうし」

 

「でもさ、一夏。篠ノ之さんが動かせるISは無いんだよね? VTSで訓練するの?」

 

「それだけでも良いが、質の高い訓練を見せるだけでも、何かしらのヒントにはなるだろう。特に国家代表が三人もいるわけだし、見学だけでも意味はあると思うぞ」

 

 

 一夏が簪の頭を撫でながら、美紀と刀奈にも視線を向けた。正式に代表に決定したばかりだが、既に優勝候補筆頭と言われている簪と美紀、そして連覇が確実視されている刀奈の訓練を見れば、かなりの経験になるだろうと考えているのだ。

 

「それだったら、碧さんも参加してもらった方が良いんじゃない? なんていったって無傷で世界を制したんだしさ」

 

「残念ですが、私も明日は政府へ向かわなければいけませんので」

 

「碧さんも? 何で?」

 

「私は一夏さんの護衛ですから。それにIS学園の教師としても、手続きやらのお手伝いをしなければいけませんので」

 

「本来なら織斑姉のどちらかを連れて行くべきなのでしょうが、あの二人のどちらが来ても面倒なので、碧さんに同行をお願いしました」

 

「なるほど……」

 

 

 千冬と千夏、あの二人は日本政府の人間に対して敵意を剥き出しにする傾向がある。碧も日本政府の人間は嫌いだが、あの二人と比べればかなり大人な対応をするので、一夏が碧を付き添いに指名したのは刀奈たちも納得出来るものがあった。

 

「そうなると、虚ちゃんにでも参加してもらおうかしら? 一対二よりかは二対二の方が簪ちゃんたちの訓練にもなるし、本音には箒ちゃんの見張り兼付き添いをお願いすればいいし」

 

「私たちはどうすればいいのでしょうか?」

 

「そうねぇ……お姉さんたちを誘って、姉妹水入らずで訓練でもしてみたら? あの二人の事だから、大喜びで引き受けてくれると思うわよ」

 

 

 マドカの問いかけに、刀奈は少し考えてから人の悪い笑みを浮かべながらそう答える。マドカもマナカも、実力的には高いものを有しているが、候補生相手だと少し苦戦するのではないかと刀奈は感じていた。それだったら最強の姉に指導してもらえば、飛躍的には無理でも確実に成長はするだろうと思ったのだ。

 

「あの二人と一緒にやるくらいなら、マドカと二人きりで訓練した方がマシ」

 

「そうでしょうか? 態度は兎も角実力は兄さまの折り紙付きですし、現に無傷で世界を制したのですから、姉さまたちに指導していただければ、多少なりとも成長はすると思うのですが」

 

「成長する前に衰弱するわよ、あの変態と一緒にいたら」

 

「……まぁ、疲れるのは確かでしょうね」

 

 

 一夏だけではなく、マドカやマナカに対しても変態的執着を見せるようになってきた千冬と千夏の姿を思い浮かべ、マドカは力なく首を左右に振った。

 

「まぁ、マドカたちは鈴と一緒に訓練すればいいだろう。あそこのメンバーは候補生も大勢いるし、それに準じる実力者たちもいるからな。そこでなら成長も見込めるだろうし、マナカはもう少し他人と仲良くする術を身に着けような」

 

「お兄ちゃんがそう言うなら……」

 

「兄さま、マドカも撫でてほしいです」

 

「良いな~マドマドとマナマナは~」

 

「本音だって、十分一夏に甘えてると思うけど」

 

 

 一夏に頭を撫でてもらい、気持ちよさそうに目を細めるマナカと、それを見て自分も撫でてほしいと甘えるマドカを見て呟いた本音に、簪がツッコミを入れる。この中で血縁者である二人を除けば、一番甘えているのは本音だと簪は思っているのだった。

 

「まぁ、二人の事は帰ったら鈴に頼めばいいだろうし、そろそろ篠ノ之さんに反応するISが出てくるころだと思うがな」

 

 

 誰に聞かせるでもなく呟いた一夏の言葉に、運転席の碧が笑みを浮かべて頷いたのだった。




やっぱり使い勝手がいい鈴……

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