暗部の一夏君   作:猫林13世

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確かに納得は出来ないだろうな……


更識勢の料理の腕

 旅館のすぐ近くにある小高い丘でのんびりと過ごした一行は、天気が完全に崩れる前に旅館へ戻る事にした。途中で刀奈が何かを思い出したように手を叩き、一夏の隣に移動し、髪の毛を一夏に見せつけた。

 

「ほらほら、普段より纏まってるでしょ?」

 

「普段から綺麗ですよ、刀奈さんの髪の毛は」

 

「もう……一夏君はそう言う事をさらりと言うんだから」

 

 

 褒められたことで、刀奈は顔を真っ赤にしたが、ここで撃退されては意味が無いと思い直し再び一夏に髪の毛を見せつける。

 

「一夏君が洗ってくれて、ドライヤーまでかけてくれたから、ここまで綺麗になってるんだよ? 他のみんなだって、普段以上に髪の毛が綺麗になってるんだから」

 

「別に俺がやらなくても、皆さん綺麗なんですから気にしなくてもいいと思うんですが」

 

「だから、そう言う事をさらりと言わないの! 賭けは私たちの勝ちだからね!」

 

「はいはい。学園に帰ったらそうですね……デザートでも作りますよ」

 

「わーい! いっちーのデザートは美味しいから好きなのだ~」

 

「本音は基本的に何でも食べるじゃない」

 

 

 簪のツッコミに、本音は頬を膨らませて抗議をする。

 

「何でも食べるけど、いっちーが作ってくれたものは格別なのだ~。それくらい、かんちゃんにだって分かるでしょう~?」

 

「確かに、一夏が作ってくれたものは美味しいけど、女としての自信を失くしそうになるんだよね……」

 

「分かります。一夏さんは気にしなくてもいいと言ってくれますが、女として料理の一つくらい出来た方が良いですよね……」

 

「簪ちゃんも虚ちゃんも、そんなに気にしなくても大丈夫よ。結婚しても私たちが家事をするわけじゃないんだしさ」

 

「そうですけど、たまには一夏さんに手料理を食べてほしいと思うんじゃないですか? その時、作れないのは悲しいですし……」

 

 

 更識家当主の嫁なので、基本的に家事は侍女に任せ仕事に励むのが普通だが、虚の言う通りたまには一夏に愛情たっぷりの料理を食べてもらいたいと思う時はあるだろう。その時になって、作れないんだったは悲しすぎる結末だと刀奈も理解出来てしまった。

 

「それじゃあ、時間が出来たら虚ちゃんと簪ちゃんの料理の腕を磨く特訓をしましょう」

 

「お姉ちゃんが教えてくれるの?」

 

「一夏君に頼んだら本末転倒じゃない? 一夏君に少しでも近づこうとするのに、その一夏君に教わるのはどうなのよ?」

 

「別に良いんじゃないですか? もちろん、一夏さんに時間的余裕があれば、ですけど」

 

「私が教えてあげてもいいよ~?」

 

 

 一夏の次に料理上手なのは、意外な事に本音なのだ。だから本音が自分から講師を買って出たのだが、簪と虚はそろって微妙な表情を浮かべていた。

 

「本音に教わるのはね……」

 

「そうですね。本音に教わるのは、いくら料理下手とはいえ気が進みませんね……」

 

「何でさ~! おね~ちゃんもかんちゃんも、私が料理上手だって知ってるじゃないか~!」

 

「だからですよ」

 

「ほえ?」

 

 

 普段だらだらしているくせに、何故か料理の腕だけは確かなものを持っているのだ。それが簪と虚は気に入らないのか、本音に教わるのだけは断固として断る方針で決定していた。

 

「私か碧さん、どちらかが時間的余裕がある時で良いんじゃない? もちろん、美紀ちゃんでも良いけどさ」

 

「私は誰かに教えられるほどの腕は持っていません。必要最低限しか出来ませんので」

 

「それだと、私と虚さんが必要最低限の腕すら持っていないって事になるね」

 

「あっ、いや……そんな意図は含んでないから!」

 

 

 言外にディスられたと受け取った簪に、美紀が慌ててフォローに入る。確かにそう受け取られても仕方ない事を言ったかもしれないが、美紀にそんな思いは一切ないのだ。

 

「簪も虚さんも気にし過ぎだと思うがな。ISに関わってるんだから、他の事で苦手が出来てしまっても仕方ないと思うんだが」

 

「でも、お姉ちゃんや本音は料理上手なんだよ?」

 

「その代わり二人は、仕事をサボったり怠けたりと、人間としての欠陥があるからな」

 

「それって酷くないっ!?」

 

「そう言われたくないのでしたら、もう少し生徒会長としての自覚を持ち、仕事をすることをお勧めします」

 

「分かったわよ……簪ちゃんたちが苦手を減らそうと努力するんだし、私も嫌いな仕事を頑張ってやります」

 

 

 刀奈の宣言に、一夏は満足そうにうなずいてから、再び視線を簪と虚に戻した。

 

「努力する事は良い事ですが、無理だけはしないでくださいね。下手をして織斑姉妹まで出て来たら、料理部から何を言われるか分かったものではありませんので」

 

「確かに、活動場所を爆破されたらどんな要求をしてくるか分からないものね……特に、シャルロットちゃんが所属している部活だし」

 

「シャルがどうかしましたか?」

 

「ううん、女の子にしか分からない問題だから」

 

「はぁ……」

 

 

 そう言われてしまっては一夏は踏み込むわけにもいかないので、納得出来なくても無理矢理自分を納得させてこの話題を終わらせる。

 

「ところで一夏、マドカとマナカの料理の腕って――」

 

「「………」」

 

 

 簪に話を振られて、双子はそろって簪から視線を逸らした。それで察した簪は、それ以上話を振ることは無かったのだった。




織斑姉妹――姉双子も妹双子も、キッチンに入れたら危険です……

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