暗部の一夏君   作:猫林13世

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原作では風呂大好き人間ですけどね……


一夏の風呂事情

 ほぼ一日中寝ていた本音は、夕食の時間になりようやく目を覚ました。それでも眠そうに目を擦りながら、しれっと一夏の隣に腰を下ろすあたり抜け目がない。

 

「いっちー……なんだか呆れてない~?」

 

「むしろ呆れられてないとでも思ってるのか? 一日中寝てたくせに、何でまだ眠そうなんだよ」

 

「睡眠は人類の宝だからね~。いくら寝ても足りないんだよ~」

 

「それだけ体力が有り余ってるのなら、学園に帰ったら本音には特別メニューでも考えてやろうか? そうすれば必要以上に寝る必要も無くなるだろう」

 

「疲れたらそれだけ眠くなると思うんだけどね~」

 

「寝てる時間を有効的に使った方がこちらの仕事も減るからな。本音には篠ノ之の相手を任せようと思っている」

 

「シノノンの相手~? VTSとかで相手すればいいの~?」

 

「お前は必要以上にアイツのことを警戒しないからな。ちょうどいい距離感で接する事が出来ると思う」

 

 

 一夏の考えに、刀奈と虚も同意を示す。

 

「確かに本音なら、箒ちゃんと普通に接する事が出来るかもね」

 

「何も考えていないだけだとも思えますが、必要以上に警戒しない相手の方が、篠ノ之さんもやりやすいでしょうしね」

 

「そう言うわけだから、学園に戻ったら昼寝する暇などないと思え」

 

「じゃあ、後二日はだらだらとしてようかな~」

 

「残念ながら、これ以上だらだらされるとこっちが困るから、明日はこの付近を全員で散策する事になった」

 

「そんなこと聞いてないよ~?」

 

「一日中寝てたからな。聞いてなくて当然だろう」

 

 

 何か文句を言いたげな本音だったが、文句を言うのも面倒になったのか、そのまま夕食に手を伸ばした。

 

「そう言えば、今日初めての食事かもしれないよ~」

 

「朝も昼も、お前は寝てたからな……」

 

「もったいないので私がいただきました」

 

「ほえ~? 闇鴉って物を食べられたんだね~」

 

「栄養補給などの必要性はありませんが、食べる事自体は問題なくすることが出来ますので」

 

「ちなみに、晩御飯も本音が目を覚まさなかったら闇鴉が食べる事になってたんだからな」

 

「危なかったよ~。さすがに何も食べないとお腹がすいて寝られないからね~」

 

「まだ寝ようとする意志がある事自体が驚きだがな……」

 

 

 本音の言葉に苦笑いを浮かべながら、一夏は他のメンバーと共に食事を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事を終えた刀奈たちは、初日のリベンジという事で全員でお風呂に入ることにした。一夏は少し嫌そうな素振りを見せたが、長時間湯船に入ることは強要しないという条件で一緒に入ることを了承したのだった。

 

「それにしても、やっぱり男の子だよね、一夏君も」

 

「何ですか、いきなり」

 

「背も高いし、鍛えてるだけあって引き締まってるし」

 

「あの、あんまりペタペタ触らないでくれます?」

 

「あっ、ゴメンね……でも、つい触りたくなっちゃうのよね」

 

「何となく気持ちは分かりますが、お嬢様は触り過ぎです」

 

「そうだよ。一夏、私も触っていい?」

 

「別に構わないが……風呂に入るんじゃなかったのか? 何時まで脱衣所でこうしてるつもりなんだ?」

 

「そうだね。じゃあ、お風呂の中で触っていい?」

 

 

 簪が上目遣いでお願いすると、一夏も仕方ないという雰囲気で頷いたのだった。

 

「兄さま、早く来てください!」

 

「今日も私たちがお兄ちゃんの背中と頭を洗ってあげるね」

 

「マドカちゃんとマナカちゃんばっかズルい! って言いたいけど、二人とも子供の頃に甘えられなかった分今甘えてるんだもんね……仕方ないか」

 

 

 刀奈が二人に嫉妬しながらも仕方ないと言った以上、他のメンバーが文句を言う事は無かった。内心では自分も一夏の頭や背中を洗ってみたいと思っていても、幼少期に甘えられなかった妹たちを優先してあげるべきだという考えはしっかりと持っているので、ここは我慢すべきだと全員が共通の思いを抱いたのだ。

 

「兄さまは普段シャワーで済ませていると聞いていますが、その割にはしっかりと頭を洗われているのですね」

 

「当然だろ?」

 

「姉さまは面倒だと、本当にシャワーを浴びるだけで済ませると聞きましたので」

 

「あの二人と同じにはされたくないな……」

 

「あの二人が不潔だろうがそうじゃなかろうが関係ないけど、お兄ちゃんが不潔なのはちょっと嫌だな……お兄ちゃん、学園でも私たちが洗ってあげようか?」

 

「さすがにそれは看過できないわね。一夏君と学園でも一緒にお風呂に入るなら、私たちだって一夏君の事を洗ってあげたいもの」

 

「てか、俺は学園の風呂を使えないはずですよね?」

 

「そこはほら、織斑姉妹の力と、私の権力でどうとでもなるわよ?」

 

「……普段会長らしいことしないのに、こういう時だけは会長の権力を使うんですか。ですが、自分で洗ってますし、風呂は嫌いですので」

 

 

 はっきりと断った一夏に、全員が残念そうにため息を吐く。

 

「碧さんまで……」

 

「あっ、いえ……ついつられてしまいました」

 

「とにかく、学園では風呂には入りませんので」

 

 

 もう一度はっきりと宣言して、一夏は黙ってマドカとマナカに洗われる事にしたのだった。妹二人は、そんな兄の態度に明らかなガッカリ感を醸し出しながらも、洗えることの幸せを噛みしめているような表情を浮かべていたのだった。




良いお兄ちゃんだ……

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