訓練を終えた鈴たちは、全員で食堂にやって来ていた。もちろん、その中には箒の姿も見受けられる。
「すっかり馴染んでるわね」
「元々警戒し過ぎだったのよ。一夏が大丈夫って言ってたんだから、天変地異でも起こらない限り平気だって分かってるだろうにさ」
「鈴はそうかもしれないけど、私たちはどうしても篠ノ之さんを警戒しちゃうわよ。一夏君たちみたいに自分を守れるだけの実力があれば平気だろうけども、って考えちゃってさ」
「ISを持ってない箒なんて、そんなに警戒しなくてもいいと思うんだけど」
「生身でも半端ない強さだったじゃない……」
「万が一そんなことになっても、織斑姉妹が何とかしてくれる手筈だから気にしてなかっただけなのかもね」
織斑姉妹がいる方へ視線を向け、鈴はすぐに静寐に視線を戻した。
「そう言えば、香澄は今日いなかったけど?」
「まぁ、前の篠ノ之さんの本音を、聞きたくなくても聞かされていたからね……私たち以上に警戒しちゃうのは仕方ない事よ」
「そっちは一夏に何とかしてもらうしかなさそうね……あたしはここまでで精一杯だもの」
「やっぱり、一夏君に頼まれてたのね」
「何を?」
静寐の質問に、鈴は本気で分からないという雰囲気で首を傾げる。
「篠ノ之さんを必要以上に警戒しなくても大丈夫だと分からせるために、こうして訓練をしたんじゃないの?」
「まぁ、それもあるけど、普通にあたしが退屈だったから、一夏になんかないと聞いたのよ」
「それでこれだけの成果を出せるんだから、さすが幼馴染って事かしら?」
「変に気負う必要は無いって言ってたから、静寐に言われるまで忘れてたくらいだもの。だから、あたしは特に何もしてないのと同じなのよ」
あっけらかんと言い放つ鈴に、静寐は少し呆れた視線を向けながらも、それでもこのような成果を出せる鈴を羨んだ。
「明日、明後日と同じように訓練をすれば、ほとんどの人が箒に対する苦手意識を捨ててくれるだろうしね。四日には一夏も帰ってくるみたいだし」
「それしか休めないって事なのかしら?」
「あれでも更識のトップだからね。休み過ぎるのも考え物だって思ってるんじゃない? 一夏って昔から休むって事を嫌ってたからさ」
「なんか変だね、その言い方」
「そう? まぁ、真相は一夏にでも聞いてちょうだい。それよりも、あーお腹減った」
静寐との会話を打ち切り、鈴は食券を持って人だかりへ近づいていく。その後姿を見て、静寐は苦笑いを浮かべていたのだった。
この旅行中に一夏にゆっくりと休んでもらうという計画は、刀奈と本音が原因で実行に移されてはいない。
「お姉ちゃん、後二日だよ? 一夏、全然休んでないじゃん」
「そうなのよね……でも、何時もより顔色は良いじゃない? だから、多少は回復してるっぽいのよ」
「多少じゃ意味が無いと思うのですが? 特にお嬢様と本音は、この旅行中でも一夏さんに迷惑をかけっぱなしなわけですから」
「私そこまで迷惑かけてないもん!」
「自覚してないのですか? お嬢様は普段以上に一夏さんに迷惑を掛けていますよ」
「まぁ、確かに刀奈お姉ちゃんは、いつも以上に一夏さんに甘えてる風ではありますけどね」
虚に視線で問われ、美紀は苦笑いを浮かべながら彼女の意見を支持する。実際学園にいる時以上に一夏に甘えているのは確かなので、それがイコールで迷惑を掛けていると言えるのかどうかと悩んだが故に、苦笑いを浮かべているのだ。
「とにかく、残り二日は一夏さんには迷惑を掛けないでくださいね。本音、聞いていますか?」
「ほえ~……」
「……寝ちゃってますね」
「またですか、この子は……」
闇鴉に叩き起こされしっかりと目を覚ましたはずだったのに、いつの間にか本音は眠ってしまっていた。
「もしかして本音って、赤ん坊なの?」
「私たちより一つ年上のはずですが」
「まぁ、これだけ寝てたら育つわよね……」
「姉さまたちと同じDNAを持っているんですから、希望はありますよ……」
マドカとマナカの視線が、本音の一部分に固定されているのを見て、虚と簪も同じように本音の一部分に視線を向けた。
「また大きくなってるような気が……」
「あれだけ食べても太らないのも羨ましいですが、何故こんなに成長してるのでしょうか……」
「簪ちゃんも虚ちゃんも気にし過ぎだって。一夏君は大きさなんて気にしないみたいだし」
「俺が、どうかしましたか?」
刀奈の大声に反応した一夏が、内緒話をしていたメンバーに視線を向けたが、刀奈が「何でもない」という感じで手を横に振り、一夏の興味を逸らしたのだった。
「とにかく、残り二日間は一夏君を休ませるのね?」
「お嬢様と本音が自重してくだされば、普通に休んでくれると思いますので」
「後は、篠ノ之博士が乱入してこなければ、だけどね」
本当に束が現れたのかと、疑わしい視線を刀奈に向けながら呟く簪。その視線に刀奈はウソ泣きをしながら簪に抱きつき、一夏に何事かと視線を向けられるのだった。
「何でもないよ、一夏。ちょっとお姉ちゃんがウソ泣きをしてるだけだから」
「……簪が問題ないならそれでいいが」
ウソ泣きの原因が少し気になったようだが、一夏は再び視線を元に戻し、碧とまったりとお茶を飲むのだった。
原作ではちょっとその行動力が一夏に迷惑を掛ける場面もあったような……