暗部の一夏君   作:猫林13世

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普通の男子なら歓喜なんでしょうがね……


有効的な脅し

 鈴からのメールで、箒のIS操縦技術のだいたいを知った一夏は、すぐにマッド的思考を働かせようとして美紀に注意された。

 

「一夏さん。ここにいる間はそういう思考は禁止です」

 

「……さすが同室だけあって、何を考えていたかすぐに分かったか」

 

「その表情の時は、必ずと言って良い程ISの事を考えている時ですから。一夏さんの立場を考えれば仕方ないのかもしれませんが、今は駄目です」

 

「そうよ、一夏君。せっかくの旅行中にお仕事の事を考えるなんて」

 

 

 美紀の注意に便乗して刀奈も一夏に注意するが、一夏は笑って首を横に振った。

 

「別に仕事ってわけじゃないんですけどね」

 

「そうなの?」

 

「ええ。鈴から篠ノ之の操縦技術のデータを送ってもらったんですよ。それで、サイレント・ゼフィルスを動かした雰囲気なども知らせてもらい、どうやって微調整をするかを考えていたんですよ」

 

「動かしたって、篠ノ之さんはISを動かせないんじゃなかったっけ?」

 

「VTSだ。一応インストールしてある篠ノ之専用のパスワードは教えてあったから、機会があれば動かしてほしいとは言っておいたんだ」

 

 

 簪の疑問に答えながら、一夏は再び思考を巡らせようとして、再び美紀に注意される。

 

「次その表情をしたら、問答無用で抱き着きますからね」

 

「あー美紀ちゃんズルい! いっちー、私も抱き着きたい!」

 

「美紀や本音だけ抱き着くなんて許さないからね。マドカ、私たちも抱き着く準備を」

 

「わ、私はそこまで兄さまに抱きつきたいわけでは……」

 

「嘘ついてるのがバレバレなんだから、はっきりと言えば」

 

「抱きつきたいです」

 

「……魅力的な提案だが、後ろで刀奈さんや虚さんが怖い顔してるから止めておいた方が良いぞ」

 

 

 一夏に名前を呼ばれた二人は、美紀たちに怒っているわけではなく、一夏が休もうとしないことに対して怒っているのである。つまりどういうことかというと――

 

「私たちも抱き着くからね」

 

「一夏さんを大人しくさせる為なら、致し方ありません」

 

 

――こういう事である。

 

「わ、分かりましたからその目は止めてください」

 

「一夏、こういう事に弱いよね」

 

「ここにいるメンバーは兎も角、基本的に俺は人間恐怖症であり女性恐怖症なんだから当然だろ」

 

「そう言えばあったね。そんな設定」

 

「設定って……」

 

 

 簪の言葉にため息を漏らしながら、一夏は送られてきたデータを表示していた携帯端末をしまい、大人しくする事にしたのだった。

 

「一夏さん、そんなに抱きつかれるのが嫌だったんですか?」

 

「そう言うわけではありませんよ。俺だって一応男子ですから、これほどの美人たちに抱きつかれるのは嬉しいですが、あのまま思考を続けてたら絶対にそれ目当てだろと思われちゃいますからね」

 

「私たちは、理由なんて無くても一夏さんに抱きつきたいですけどね」

 

「勘弁してくださいよ……一人二人ならともかく、それじゃあ収まらないんですから」

 

 

 一人が抱きつけば、別の一人が抱きつき、更に別の一人がと、一夏が懸念しているように全員が満足するまでその行為は終わらないだろう。そして、一回抱きついた程度で満足出来るほど、一夏とのふれあいの機会が多いわけでもないのだ。

 

「一夏君がもう少し私たちとの触れ合いを増やしてくれれば、一回で満足出来るかもね」

 

「善処はしますが、更識と学園の仕事で忙しいですからね。少しは他の人に任せるにしても、最終判断は俺が下さなければならない案件もありますし、学園の仕事は刀奈さんが真面目にしてくれないと終わりませんし、織斑姉妹が投げ出した後始末もありますからね」

 

「……私は頑張るけど、織斑姉妹はどうするの?」

 

「減給をチラつかせて働かせても、一時しか真面目になりませんでしたからね……本格的にクビを視野に入れて脅してみますか」

 

「あの二人にそんなことが出来るのは一夏さんくらいですけどね」

 

「別に怯えるような相手ではないと思うんですが。IS界ではカリスマとか言われてるようですが、実態はただの呑んだくれの駄目姉ですから」

 

「お兄ちゃんだからそんなことが言えるんだよ。他の人が言えば、次の瞬間にはこの世から排除されてるかもしれないからね」

 

「言われたくないならしっかりしろと言いたいがな」

 

 

 マナカの言葉に苦笑いを浮かべながら、一夏は珍しくその場に寝転んだ。

 

「どうかしたの?」

 

「いえ、あの姉二人の事で頭を悩ませるのが馬鹿らしくなったので、少し休憩でもしようかと思いまして」

 

「それ良いね! じゃあ私も」

 

 

 そう言って一夏の腕を枕に刀奈もその場に寝転ぶ。当然非難の視線を浴びる事になるが、その程度では一夏の腕枕を諦めるわけは無かった。

 

「一夏君って、あったかいのよね」

 

「そうですか? 自分では分からないですが」

 

「一夏君の体温的な事もそうなんだろうけど、やっぱり一夏君といると安心出来て、自分の体温も上がってるんだと思う」

 

「安心、ですか……確かに、俺もみんなといると安心しますね。たまに大人しくしてほしいとは思いますが」

 

 

 一夏に頭を撫でられてさらに安心したのか、刀奈はそのまま眠りに落ちてしまった。

 

「ほんとに、刀奈さんの方が妹みたいですね」

 

 

 マドカの零した言葉に、全員が頷き、刀奈に羨ましげな視線を向けたのだった。




給料をちらつかせたら、織斑姉妹も大人しくなる……

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