鈴のフォローもあり、箒は静寐とエイミィ相手に善戦したが、経験の差から敗れてしまった。それでも有意義な時間だったと、箒は今の戦闘を成長の糧にしようと思っていた。
「さすがに一対二じゃキツかった?」
「鈴さんがフォローしてくれていたので、何とかしたかったのですが、やはり経験の差は大きかったですね」
「それでも、ポータブル版だけで訓練してた箒があそこまで戦えたのは凄い事だと思うわよ。一夏も同じことを言ってくれると思うわよ」
「一夏様は妥協を許さない方だとお聞きしていますので、この程度では満足してくれないと思いますけど」
「そんなことは無いと思うわよ。一夏君も、意外と楽をしたがる人だから」
鈴と箒の会話に静寐が加わり、その後ろではエイミィが静寐の言葉に首を傾げた。
「私の専用機の最終調整の時は、一夏君、凄く細かかったけど」
「そりゃ、自社の製品で他国の候補生を再起不能にさせたなど言われたくないからじゃない? あの時から既に一夏君は更識のトップだったわけだし、社員を路頭に迷わせるようなことは避けなきゃでしょ?」
「それもそうか……でも、あの時の一夏君はなんだか怖かったな……」
「ISの調整となると一夏は妥協を許さないからね。メンテナンスを怠れば鬼の形相で怒ってくるわよ、きっと」
その光景を思い浮かべたのか、鈴が身震いして見せた。
「鈴さんは一夏君に怒られたことがあるの?」
「いや、あたしは無いわよ。バカ二人が中学の時に赤点を取って一夏にこっ酷く怒られてたのを遠目で視たくらいかしら」
「友達が赤点を取って、一夏君が怒ったの?」
静寐が零した疑問に、鈴は苦笑いを浮かべながら答えた。
「一夏に勉強を教えてもらってたのに、テスト前日の夜遅くまで遊んでた所為で、寝不足。テスト本番中に鼾をかいて寝てたからね」
「なるほど……」
それは怒られても仕方ないなと、静寐は納得したように頷いた。
「その後弾は爺さんと小母さんにこっ酷く怒られてたけどね」
「一夏君が先に怒ったの? その後に祖父と母親に怒られるって……逆じゃない?」
「普通はね。でも一夏の場合はそれであってるのよ。忙しい時間を割いて勉強を教えたのに、当日寝てるんだから」
「その頃から一夏君は忙しかったんだ」
「もう更識先輩が国家代表だったし、その調整やら各国との交渉やらで飛び回ってたらしからね。遊ぼうって連絡しても、大抵は無理って言われてたし」
一夏が誘いを断っていた理由は、忙しいのもあるが、鈴や弾たちに脅威が及ばないように距離を置いていたというのもある。だが鈴はそんなことは知らずに、普通に忙しかったのだろうと思っているのだった。
「とにかく、箒は今の状態でも普通に戦う分には問題なさそうね。サイレント・ゼフィルスも普通に操作出来ていたし」
「一夏様が組み込んでくれたマニュアルのお陰です。それが無かったらどうなっていたか」
「相変わらず過保護ね、一夏も……楽したがってる割に自分で忙しくなってるんだから」
「それが一夏君だと、私は思うけどね」
静寐の言葉に、鈴も苦笑いを浮かべながら頷く。
「それじゃあもう少し休憩したら、今度は箒が戦いたい相手と戦ってもらいましょう。選ばれなかった二人は、そっちで訓練すればいいし」
「鈴さん、どれくらいこの部屋の使用許可を貰ったんですか?」
「ん? 誰も使わないからって一日貸してくれたわよ」
「まぁ、一夏君に直接連絡取れるのって、そんなに多くないものね」
「静寐だって知ってるでしょ?」
「私は、それほど気楽に連絡出来ないわよ」
「別に緊張する相手じゃないと思うんだけどな」
「それは、貴女が一夏君と付き合いが長く、一夏君も友人だと認めてくれているからでしょ」
「静寐の事も、友達だとは思ってるはずだけど?」
「……私は、あくまでも友達だから。でも鈴さんは親友でしょ?」
静寐の表現に、鈴は全身に寒イボが出来たような感覚に陥り、あちこちを掻きまくる。
「その表現止めてくれない!? あたしたちは悪友なの」
「親友って言われたくないから、自分たちを悪友って表現してるって一夏君も言ってたけど、認めちゃえばいいじゃない」
「あたしたちの関係はそういうのじゃないんだってば! そもそもあたしは、昔一夏に恋してたんだから」
「そう言えばそんなこと言ってたわね。フラれたんだっけ?」
「告白まがいな事はしたけど、結局返事は無かったのよ。一夏も今の関係のままの方付き合いやすいとか思ったんじゃない」
一夏は鈴と特別な関係として付き合う気にはなれず、今のままでいいと思っていたので、鈴の告白まがいな事は気づかないフリをし続け、鈴もそれが答えだと理解し、それ以降は悪友として一夏の側にいる事を決めたのだった。
「あーもう! あたしの過去の話はどうでも良いわよ! それで箒! 誰と戦いたいか決まった?」
「えっと……とりあえずエイミィさんにお願いしようかと」
「おっ、私か~。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「それじゃあ、あたしと静寐は個人訓練と行きますか」
「もう少しお喋りしてもいいわよ?」
「それは御免だわ!」
静寐の人の悪い笑みに、鈴は舌を出してVTSに逃げ込んだのだった。
親友と言っても過言ではないですけどね、この感じなら