暗部の一夏君   作:猫林13世

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鈴が結構使いやすい


箒の為の訓練

 年明け早々暇を持て余した鈴は、一夏に許可を貰いVTSルームを使用して訓練をすることにした。参加者はそれほど多くなく、静寐とエイミィ、そして箒だけだ。

 

「専用機をお持ちの三人は分かりますが、何故私も呼ばれたのでしょうか?」

 

「アンタは早くISに慣れて、そこからISに心を開いてもらわなければならないの。だからあたしたちがアンタの相手をしてあげるからよ」

 

「それも一夏様が?」

 

「アンタを参加させるように言ったのは一夏だけど、元々アンタは呼ぶつもりだったし、人数的にも丁度良かったのよ」

 

「篠ノ之さんは兎も角、何故私とエイミィなのかしら? 他にもいたんじゃない?」

 

 

 不服そうに鈴に話しかける静寐。それも当然で、彼女は寝ていたところを鈴に叩き起こされ、ここにきているのだ。

 

「一夏からの信頼の高さを考えると、静寐は絶対にいてくれなきゃ困るのよ。後は戦力的にエイミィが丁度いいんじゃないかと思ったの」

 

「戦力って、私が弱いって事?」

 

「そうは言ってないけど、あたしとまともにやり合えるのはそう多くないし、セシリアもラウラも叩き起こそうとしても起きなかったのよ」

 

「そう言う事なら、まぁいいけど……」

 

 

 自分が鈴と同等だと評価されている事は嬉しいが、エイミィも叩き起こされた側なので、イマイチテンションが低い。そんな中箒だけは、VTSを前にテンションが上がっている様子だった。

 

「アンタ、一夏からパスワードは聞いてるんでしょ?」

 

「はい、一応は。ですが、普通にログインした方が良いと思います」

 

「何で?」

 

「私が一夏様からお聞きしたパスワードは、前の私が使っていた機体・サイレント・ゼフィルスのデータがインストールされているようですので、それは私には扱えないものですから」

 

「ヴァーチャルなんだし、動かせると思うわよ。それに、サイレント・ゼフィルスの操縦に慣れておけば、本物がアンタに反応したときにスムーズに事が進むと思うし」

 

「そうでしょうか……」

 

「そもそも、現実世界と同じなら、箒に反応するISは無いはずだしね。VTSで訓練したことあるんなら、たぶん大丈夫よ」

 

 

 あまりフォローになっていなようなことを平然と言う鈴に、静寐はため息と頭痛を禁じ得なかった。

 

「どうかしたの?」

 

「鈴、貴女本当にデリカシーが無いわね。篠ノ之さんはISを動かせない事を気にしてるのに、良く平然と言えたわね」

 

「変に誤魔化したって意味ないし、しっかりと自覚させた方が箒の為でもあるんじゃない? ISの事をより気遣ったり、気に掛けたり出来るんだし」

 

「……意外と考えてるのね」

 

「てか、全部一夏の受け売りだけどね」

 

「私の感動を返せ!」

 

 

 あっさりと一夏の言葉を真似しただけだと白状した鈴に、静寐は結構本気で怒鳴った。それでも、鈴は反省する様子もなくケラケラと笑う。

 

「返せもなにも、あたしは何も貰ってないもの」

 

「……屁理屈だけはすぐに思いつくのね」

 

「そうでもなきゃ、一夏の悪友なんてやってられないわよ」

 

 

 鈴の言葉の意味を、静寐は理解する事は出来ない。それほど一夏と過ごした時間の差というものは大きい。鈴は一夏と冗談を言い合える仲なのだと、静寐はちょっぴり鈴に嫉妬したのだった。

 

「それじゃあまずは、眠気覚ましにあたしと箒ペア対静寐とエイミィペアね」

 

「それの何処が眠気覚ましなのよ?」

 

「一夏の話では、箒のポテンシャルは相当高いらしいから、油断してたらあっさりやられるわよ。それに、一夏が手を加えたサイレント・ゼフィルスには、近距離武器も積んであるようだから、剣道娘の箒なら達人レベルくらいにはなるんじゃない?」

 

「……油断出来るわけないわね、それじゃあ」

 

 

 元々油断などするつもりもなかったが、それを聞いてますます気が引き締まる静寐。一方のエイミィは、絶望感漂う表情を浮かべていた。

 

「どうかしたの?」

 

「近距離戦闘は苦手だし、近距離主体の相手と戦うのも苦手なのよ……」

 

「次期代表の声も上がってるんだし、苦手は無くしておくべきじゃない?」

 

「そうなんだけどさ……」

 

「あーもう! グダグダ文句言ってないでさっさと準備しなさい! あんまり文句ばっか言ってると、一夏に報告して近距離戦闘主体の相手との訓練メニューを組ませるわよ」

 

「鈴が言うと冗談に聞こえないから止めて!」

 

 

 更識関係者以外で一夏と一番親しいのは、間違いなく鈴である。その鈴からの提案なら一夏が受け入れる確率はかなり高いとエイミィも分かっているので、うだうだと文句を言うのを止めて準備に取り掛かった。

 

「それじゃあ箒、後ろは気にしなくていいから、思いっきり戦いなさい。武装などはチェック出来るわよね?」

 

「ポータブル版と方法が一緒なら大丈夫です」

 

「それじゃ、一夏期待の静寐とエイミィ相手に、箒がどこまで戦えるか見させてもらうわね」

 

「鈴さんは参加しないのですか?」

 

「一応するけど、あたしは箒が一対一で戦えるようにフォローするだけ、あくまで二人と戦うのはアンタよ」

 

 

 鈴の言葉に、箒は身が引き締まる思いになり、集中するために目を瞑った。

 

「分かりました、ガッカリさせないように頑張ります」

 

「アタシだけじゃなく、一夏もガッカリさせないようにね」

 

「……はい!」

 

 

 更なるプレッシャーに押しつぶされそうになったが、箒は何とか気合いを入れ返事をしたのだった。




原作でも、箒を奮起させたのは鈴でしたしね

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