鈴から新たに知り合った友人を紹介するという事で、一夏は仕事に一区切りをつけて更識の屋敷から外へ出る事にした。本来なら、外出の際には護衛をつけなければならないのだが、碧も本音も手が離せない状態だったので今回は護衛は無しでの外出となった。
「それで、紹介したいヤツって?」
「もうすぐ来ると思うわよ」
待ち合わせの十分前に一夏が到着し、その五分後には鈴が到着した。だが、肝心の新たに知り合った友人は、まだ姿を現していなかった。
「また男か?」
「そうだけど?」
「鈴……お前やっぱり……」
「うっさい! 同性の友達だってちゃんといるわよ!」
一夏が同情したフリをすると、鈴はその事に過剰に反応した。実際、同性の友達はいるにはいるのだが、一夏や他の男子たちと遊ぶ方が圧倒的に多いので、一夏には鈴に同性の友人がいないのではないかと思われてしまっているのだ。
「悪い、遅れた」
「この阿呆が妹に説教されてたからな」
「違うだろ! お前が道に迷ったから」
「あーはいはい。不毛な争いは見るに堪えないから止めてくれる?」
「「なんだと!?」」
「……これが、鈴の新しい友達か?」
目の前で繰り広げられる、息があったコントのようなやり取りを見て、一夏は少し呆れた様子になっていた。初対面がいると分かっているのに、まったくもって畏まる様子も無い相手に、これが普通なのだろうかとついつい首を傾げてしまった一夏、普段から大人の中で生活している彼にとって、この二人の対応は実に子供だった。
「おっ、コイツが例の?」
「そうよ。アタシの友人の一夏よ」
「はじめまして、更識一夏です」
「五反田弾だ。よろしくな、一夏」
「御手洗数馬だ。こちらこそはじめましてだ」
一応丁寧な挨拶をした一夏に対し、弾も数馬も砕けた挨拶を返す。この対応の差に、困った表情を浮かべたのは、一夏では無く鈴だった。
「分かってたけど、やっぱり一夏って大人びてるわよね……この阿呆二人が余計に阿呆に見えるわ」
「テメェだってガキだろうが!」
「あんですって! アンタたちと同列だと思われたくないわよ!」
「……あんまり騒ぐなよ。見られてるぞ」
一夏に指摘され、周りの注目を集めていた事に気がついた三人は、顔を赤くしてうつむいてしまった。
「と、とりあえずウチに来いよ。この間のゲームの借りを返す時が来たぜ」
「お前はぶっちぎりで最下位だっただろうが」
「レースゲームも格ゲーも音ゲーもね」
「ウルセェ!」
「……愉快な男だな」
一人別次元の存在となりつつある一夏だが、不思議とこの空間を楽しんでいた。同年代の友人など、学外にはいなかったから新鮮に思えたのだろうが、普段から大人の中で生活する事が当たり前だと思っていた一夏にとって、意外と居心地の良い空間になりそうな雰囲気だった。
虚につれられてISの訓練を積んでいた本音は、護衛対象である一夏が屋敷にいない事に気が付き、首を傾げながら屋敷中を探し回っていた。
「あれ、本音。何か探してるの?」
「あっ、かんちゃん! いっちーが見当たらないんだけど、知らない?」
「一夏ならさっき、仕事を終わらせたからって言って何処かに出かけたけど?」
「ほえっ!? 護衛の私を置いていってどこに出かけたんだろう……碧さんもIS学園からまだ戻ってきて無いのに……」
「一夏さんなら大丈夫ですよ」
慌てふためく本音の背後から、落ち着いた声がかけられた。
「何で大丈夫だって分かるのさ! おね~ちゃんはいっちーの護衛じゃないから分からないだろうけど、いっちーは結構狙われるんだからね!」
「だから、一夏さんなら出かける前に私にGPSの識別コードを教えてくれましたので、それで辿れば今いる場所が分かりますよ」
「ほえ? 何で私じゃなくおね~ちゃんに?」
「本音はまだ長距離走の途中でしたし」
実際は本音では頼りないから、と一夏が虚に教えたのだが、それを本音にそのまま伝えるとショックを受けるだろうからと言い訳まで一夏が考えたのだった。もちろん、そんな事知り得ない本音は、微妙に納得行ってない表情を浮かべていたが、それ以上の追及はしてこなかった。
「とにかく、護衛任務を遂行するなら場所を教えますが、普通に遊びに行くだけだと言ってましたよ? それでも護衛に行きますか?」
「うーん……じゃあ良いや。偶にいっち―は遊びに行くだけだからって護衛はいらないって言う時もあるし」
「そもそも本音は、屋敷の中でも一夏に撒かれてるんだから」
「いっちーはかくれんぼが上手だからね~」
仕事内容によっては、本音に知られるわけにはいかないものもあるので、一夏はたびたび本音の護衛から姿を晦ます事があるのだ。もちろん、他の人間が一夏に注意を払っているから出来る事であって、このように外出の際に護衛をつけないのは危険な行為だと言えるだろう。
「そう言えば、美紀ちゃんは?」
「美紀なら、小父さまに呼ばれて何処かに出かけたけど」
「ほえ~……美紀ちゃんも忙しいんだね~」
表向きの当主の娘である美紀は、それなりに仕事を任される事がある。それこそ、先代当主の娘である簪よりもだ。
「とにかく、本音はもう少し一夏さんの護衛という任務に集中しなさい」
「でも~並大抵の相手じゃいっちーを攫う前に倒せちゃうし、いっちーもそれなりに動けるからね~。倒せないにしても、簡単に攫われる事は無いと思うよ~」
実に楽観的な本音に、簪と虚は同時にため息を吐いた。何故一夏の護衛に選ばれたのが本音なのか、それはこの二人以外に取っても謎でしか無かった。
中学別ですから、ここら辺で出しとかないと出番が……