暗部の一夏君   作:猫林13世

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本家だったらもっと大変でしょうね……


新年の挨拶

 十時を回ったところで、ようやく本音が目を覚まし、一夏たちは略式の新年の挨拶を済ませる事にした。

 

「明けましておめでとうございます。本年も変わらぬお付き合いのほどをよろしくお願い申し上げます」

 

「略式とはいえ、なんだか堅苦しい言い回しよね」

 

「お姉ちゃん、私語は駄目だよ」

 

 

 一夏が当主として全員に挨拶をしている中、刀奈は飽きたのか簪に話しかけ、そして簪に注意された。

 

「別に構わないですよ。これで終わりですから」

 

「本家に戻ってたらもっと面倒だったもんね。一夏君、旅行に来て正解だったね」

 

「今頃尊さんが正式な新年の儀を執り行ってるでしょうし、俺がいなくても問題は無かったでしょうね」

 

「ですが、お父さんはあくまで一夏さんの代理ですし、近いうちに一夏さんも挨拶をしに戻られた方が良いのではないでしょうか?」

 

「そうだな……どうせ本社に用があるから、その時についでに顔を出しておくか」

 

 

 新学期が始まって早々に、一夏は本社に顔を出さなければならない用事があるため、一日学校を休む事になっている。その時についでに本家に顔を出して、挨拶だけはしておこうと頭のスケジュール帳に書き加えたのだった。

 

「それじゃあ、おやすみなさ~い」

 

「まだ寝るんですか? いい加減起きた方が良いですよ」

 

「そうだよ。何時までもお兄ちゃんに起こしてもらってるんじゃ独り立ち出来ないから、そろそろ自分で起きてしっかりと一日を過ごすようにすれば?」

 

「学生なんだから、休みの日は寝るに限るのだ~……」

 

「一夏の護衛なんだから、少しはしっかりしたら?」

 

「ここじゃあ護衛する意味もないし、いっちーはそれなりに強いから大丈夫だよ~……」

 

「……もう寝てるし」

 

 

 マドカやマナカ、簪にしっかりしろと注意されながらも、本音はすぐに眠りに落ちた。先ほど起きたばかりだというのに、一夏以外が起こそうとしてもまったく起きる気配が無かった。

 

「一夏君、どうする?」

 

「仕方ないですから、本音は置いていって初詣でも行きますか。この近くにこじんまりとしたところですが神社があるらしいので」

 

「そうですね。しかし、一夏さんが神頼みとは珍しいですね」

 

「このぐーたらが成長しますようにと、神様に頼んでみようかと思いましてね」

 

「本音の生活習慣の改善なんて、神様でも無理だと思うけど」

 

「それは分かってるが、それ以外神様に頼むことも無いしな……あっ、『実姉が真面目になりますように』とでも願ってみるか? でも、どれだけお賽銭を出せば叶うか分かったもんじゃないしな」

 

 

 本音以上に無理そうな願い事を言い、一夏は自分で苦笑いを浮かべてその願いを却下するのだった。

 

「一夏君のお願い事って、神様でも難しそうなことばっかだね」

 

「大抵の事は自力で何とかできますし、自分で出来なくても周りに優秀な人たちがいますからね。神頼みするようなことは殆どありませんから」

 

「私も本音が真面目になるように願ってみましょうか」

 

「虚さんは自分の願い事をすればいいですよ。こいつの事は俺が願っておきますから」

 

 

 突いても揺すっても起きる気配のない本音の事は諦め、一夏たちは近くの神社に初詣に行くことに決定した。

 

「でもお兄ちゃん。本当に本音は置いていくの?」

 

「起きたら土竜が何処に行ったか教えてくれるだろうし、たぶん起きないだろうからな」

 

「そうですね。あの子は一度寝ると満足するまで起きませんからね」

 

「ですが、さっき一度起きましたよね? あれは満足したからなのでは?」

 

 

 マドカの疑問に、虚と一夏は同時に苦笑いを浮かべ、更に虚はため息を吐いた。

 

「満足しても、する事がないとまた寝てしまうんですよ、あの子は……そしてする事が多いと、現実逃避をするために寝てしまうんです」

 

「つまり、大抵の時間は寝てるんだよ、本音は」

 

「昔はもう少し起きてたと思うんだけど、何であんなになっちゃったのよ」

 

 

 刀奈の問いかけに、一夏も虚も首を捻った。詳しい原因は分からないが、IS学園に入学してから本音の睡眠時間は増えたのだった。

 

「それほどしごかれてる様子もないんですけどね……基本的に簪と一緒に行動してるんだから、簪は何か知らないか?」

 

「一緒に行動してるって言っても、本音は部屋で寝てるし……私も部屋で本を読んだりゲームしたりだから、特に疲れるようなことはしてないんだけどな……最近は戦力の底上げだって一夏が言って、本音が中心になって模擬戦とか訓練とかしてたけど、それでも疲れ果てるまではやってなかったし」

 

「そもそも本音は殆ど動いてなかったようだしな」

 

 

 模擬戦は参加していたが、あのメンバーの中なら無双出来る実力があるので、本音は疲れる事無く模擬戦を勝ち抜いていたのだ。

 

「やっぱり私も本音の事を願った方がよさそうですね」

 

「神頼みでも改善されるかどうか分からないんですから、虚さんは自分の事を願った方が良いですよ。もし叶うなら、本音の事より自分の事の方が良いでしょうし」

 

「だったら、一夏君も自分の事を願わないと」

 

「さっきも言いましたが、神頼みするようなことは無いんですよね……織斑姉妹と本音、どっちが叶いやすいかというくらいですから」

 

 

 一夏の返答に、刀奈はかなり引き攣った笑みを浮かべる。本心はどっちも叶わないだろうと思ったのだが、それを口にするのはどうなんだろうと思ったのだろうと、一夏は刀奈の表情から読み取ったのだった。




やっぱり本音は本音だった……

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