暗部の一夏君   作:猫林13世

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復活も早いのが取り柄ですね


早朝のお喋り

 自分で布団の用意をした覚えも、自分が何時寝たのかも記憶にないが、刀奈はちゃんと布団で目を覚ました。その事を不思議に思いながらも、隣に簪が寝ているのを見て思わず微笑んだのだった。

 

「簪ちゃんも疲れてるんだね。それにしても、いったい誰が私たちを布団に運んでくれたのかしら……」

 

 

 刀奈が覚えている限りでは、自分より先に寝た本音や美紀、簪はあり得ない。ましてやマドカとマナカの体格では自分を運ぶのもやっとで、残りのメンバーを運べるとは思えない。

 そうなると残るは一夏、碧、虚の三人なのだが、確認しようにもその三人はまだ眠っている。

 

「こんな時間に目が覚めたのは、ちゃんと寝ようと思って寝たからじゃないからかしら?」

 

 

 年越しの瞬間まではしっかりと覚えているし、その後もグダグダと起きていた記憶はある。だが次第に眠くなってきて、次に気付いたら布団の中だったのだ。

 

「たぶん虚ちゃんは私とほとんど変わらずに寝落ちしたはずだから、布団を用意して私たちを運んでくれたのは一夏君と碧さんの二人という事になるわね」

 

 

 日ごろから世話になりっぱなしだと自覚しながらも、どうしても一夏と碧を頼りにしてしまう。刀奈は自分の悪癖を自覚しているが、どうにも止められないのだった。

 

「この二人がいるから、多少無茶しても何とかなる、って思っちゃうのよね……一夏君も碧さんも忙しいはずなのに、こうして私たちの我が儘に付き合ってくれてるし」

 

 

 慰安旅行と銘打ってはいるが、実際は自分たちが一夏とゆっくり過ごしたかっただけなのだ。一夏もその事は気づいているし、旅行中も疲れているような仕草をたまに見せている事から、彼がこの旅行で休めていない事は刀奈も知っているのだ。

 

「今日は邪魔をしないように、自分の布団で大人しく二度寝でもしましょう」

 

 

 まだ外は明るくなっていないので、刀奈はもう一度布団に入り寝る事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二度寝から覚めると、既に一夏と碧は目を覚ましており、二人でまったりとお茶を飲んでいた。

 

「おはよう、一夏君、碧さん」

 

「おはようございます。刀奈さんも早いですね」

 

「お茶を淹れますね」

 

 

 挨拶をすると、一夏と碧はそろって笑みを浮かべながら刀奈に返事をする。そして碧は刀奈の分のお茶を用意し始めた。

 

「私たちを布団に運んでくれたのって、一夏君たちよね?」

 

「ええ。一時過ぎには全員寝てしまったので、碧さんが布団を敷いて、俺が全員を運びました」

 

「そうだったんだ。……重くなかった?」

 

 

 刀奈も年頃の少女なので、好きな相手に重いと思われたくはない。万が一重いと言われたら痩せる覚悟も十分にあったのだが、一夏は笑って首を横に振った。

 

「皆さん軽かったですよ」

 

「そう、良かった」

 

「刀奈ちゃんたちの年頃なら、多少重くてもいいと思うんですけどね」

 

 

 そう言いながら、碧が刀奈の前に湯呑を置く。

 

「碧さんだって、私たちの年頃の時は気にしてたんじゃないですか?」

 

「どうだったかしらね。もうかなり前のことだから覚えてないわね」

 

「まだ十年足らずでしょうが」

 

 

 碧の韜晦したような答えに、刀奈は頬を膨らませながら文句を言う。実際碧が体重を気にしていたかどうかは、子供だった刀奈は覚えていないし、その頃と今の碧を見比べても、さほど変化は無いように見えるので、刀奈は彼女の本心を知ることは出来なかった。

 

「一夏さんが重くないと言ってくれたんですから、それで良いじゃないですか」

 

「まぁ、一夏君はお世辞を言うような子じゃないし、それほどマッチョってわけじゃないしね」

 

「必要最低限は鍛えてますが、筋骨隆々になりたいわけじゃないですし。むしろ瞬発性を重視している闇鴉を動かすためにも、無駄な筋肉は削ぎ落す方向で鍛えてますからね」

 

「一夏君は重たいものを運ぶような仕事でもないしね」

 

「書類の束は、結構重いですけどね」

 

「まぁ、あの量は誰が持っても重いと思うわよ……」

 

 

 普段から書類の束――もとい、書類の山を見てきている刀奈としては、あれを運べと言われたら絶対に重たいだろうと知っているため、一夏の冗談も本気なのではないかと捉えたのだった。

 

「とにかく、ダイエットなどという無駄な事を考える暇があるのなら、少しでもモンド・グロッソに向けて鍛えた方が良いと思いますよ」

 

「無駄な事って……乙女にとって最重要課題なのよ、体重は!」

 

「刀奈さんたちはISを動かす事によって、普通の女性より多く運動しているんですから、普通に食べている分には脂肪が増えるなんてことはありませんよ」

 

「そうなのかな? 最近またおっぱいが大きくなったような気もするんだけど」

 

「それは普通に成長しているだけじゃないですか? そもそも、その事は俺に聞くよりも碧さんに聞いてくださいよ」

 

「一夏君になら触られても平気だもん」

 

「触りませんよ……」

 

 

 真面目に相談していたのではないのかと、一夏は責めるような視線を刀奈に向けるが、すぐに無意味だと思い直しため息を吐いた。

 

「一夏君は、私たちの事を触りたいと思わないの? 私は、一夏君をもっと触りたいし触れ合いたい」

 

「……そういうのは卒業してからにしてください。ほぼ女子高なので校則にはありませんが、不純異性交遊は織斑姉妹の制裁を喰らいますよ」

 

「純粋異性交遊だもん!」

 

「あの二人に屁理屈は通用しませんよ」

 

 

 刀奈の表現が面白かったのか、一夏は暫し笑っていたのだった。




限界が来ても回復も早い……便利なのか?

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